コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
サイド青
「おはよう」
体育館に着くと、みんなに挨拶する。
大我「おはよー」
高地「おはよう」
慎太郎「おはよう!」
ジェシー「おはよ!」
「…あれ北斗は? 遅いね」
高地「ああ、どうしたんだろね」
大我「まあすぐ来るよ」
きょもは呑気にボールと戯れている。バウンドさせたり、放ってキャッチしたり、ゴールに投げたり。隙あらば、バスケットボールと一緒にいる。
それを見て、こいつはボールがペットか何かだと思っているんじゃないか、と変なことを考えた。
すると、ついさっき更衣室に入っていった高地が何やら俺の名前を呼んで戻ってきた。
「おーい、樹! 電話鳴ってるぞ」
「え? ありがとう」
スマホの画面を見ると、北斗と表示されている。どうかしたのだろうか。「もしもし」
「樹、ちょっと急でごめんけど今日行けないわ」
「え、どうした」
「…なんか調子悪くって…」
突然歯切れが悪くなる。
「ほんと?」
「…うん、ちょっと辛い…。連絡、遅くなってごめん」
「いや大丈夫だよ。また次会おうな」
電話を切ると、首をかしげる。北斗が休むなんて珍しい。
「誰? なんて?」
きょもが訊いてくる。
「北斗。今日来れないんだって。体調悪いらしい」
大我「え…」
ジェシー「大丈夫かな」
高地「なんでだろ」
慎太郎「ああ…多分昨日のこと…」
慎太郎がボソッとつぶやいた。
「え、どういうこと?」
「昨日、俺の車に乗せて帰ったんだよね。乗せてほしいって言うから。でもやっぱ途中で苦しくなってきちゃって。でしかも、事故、見ちゃったんだよね。ちょっとパニック状態になっちゃって、慌てて停めて寝かせたんだけど…。だからしんどいと思う」
みんなは納得した。
大我「それは辛いな…」
ジェシー「そうか…」
「まあ仕方ない。ゆっくり休ませてあげよう。今日は5人でやろうか」
そしていつものように練習を始めたが、今日はどうも高地の動きが悪い。
最初はおかしいな、と思いながら見ていたけれど、ボールを落としたり挙句の果てに、ボールのほうをよそ見してジェシーとぶつかった。鈍い音がする。
「うおっ、ごめんジェス!」
「いいよ、大丈夫?」
「全然」
そしていつもは精度のいいシュートも、なぜか入らない。
俺のイライラは募っていき、とうとう声が出た。「高地、もっと集中しろよ!」
こちらを振り返った高地は、目を見開いている。
「お前いっつもこんなんじゃなかったよな? もうすぐ大事な大会なんだよ、わかるだろ?」
言ってから、放った言葉のトゲの鋭さを知った。
高地の手はわなわなと震えている。
「ああ、わかってる…」
大我「高地…」
「俺は…、お前よりできないんだよ、バスケが。お前の思い通りにやれなくてごめんな」
悔しげに言い残すと、踵を返して行ってしまった。
俺は慌てて、控室に入った高地を追いかける。でも引き戸を開ける手が動かない。謝らないといけないのはわかっている。だけど……。
ゆっくりとドアを開けて、そっと中をのぞく。高地は車いすから降り、ベンチに座っていた。
「高地…」
こっちを見るが、すぐにそっぽを向いてしまう。近寄り、「ごめん。ちょっとカッとなっちゃって…。ほんと、俺って短気だよな」
「ううん」
短く返事がある。
「…俺は、お前より上手いとは思ってない。むしろみんな互角だと思ってる。高地はなんで、あんな風に思ってるの?」
なるべく優しい声を心がけて、言った。
「……俺っていつも、大会前はプレッシャーでおかしくなっちゃうんだよな。なんか狂うっていうか。しかも次は大きな大会だから……。それをみんながコントロールしてくれて。だからそのたびに、弱い自分を思い知る。悔しくてやるせなくて…」
「そんなことない」
ぶんぶんと首を振る。
「そんなの、普通じゃん。俺だってキャプテンとして責任を感じるし、北斗だってエースって言われてるからプレッシャーが大きいだろうし。慎太郎やジェシーも緊張するって毎回言ってるだろ? きょももこっちのチームで初の大会。要するに、お前だけじゃない」
そして、ふと思い出す。「こんな感じのこと、前も聞いたような……」
「あ、大我だ」
「ああそうだ。あんときお前もいただろ、なんで学習しねーんだよ」
笑いながら言うと、高地も笑顔になった。
「ごめんごめーん」
「もう、反省しろよー」
反省する気のない声に、怒る気もない声。何だか兄弟みたいだな、なんて。
「ほら、戻るぞ」
「ああ」
力強い返事が返ってきた。
続く