テラーノベル
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第3話:守られた温度
その日は雨だった。
朝からずっと降り続く冷たい雨。
「傘持った?」
玄関で湊が聞く。
「持ってる」
藍音はそっけなく答えた。
でも。
本当は少し嬉しい。
こうして気にかけられるのが。
「では放課後お迎えに参ります」
「いいって言ってるのに」
「命令ですので」
「もう…」
小さく笑ってしまう。
放課後。
雨はさらに強くなっていた。
「最悪…」
校門を出た瞬間。
車のクラクションが鳴る。
キキーッ!!
「え――」
視界が揺れた。
次の瞬間。
強い腕に引き寄せられる。
ドンッ。
背中に衝撃。
でも痛くない。
温かい。
「……お嬢様」
耳元で低い声。
湊だった。
藍音を抱きしめるようにして庇っていた。
「大丈夫ですか!」
「……う、うん」
でも。
湊の腕が震えている。
「湊?」
「……申し訳ありません」
声がいつもと違った。
怖がっている。
「私がついていながら」
「違うよ!」
思わず叫ぶ。
「湊のせいじゃない!」
沈黙。
雨の音だけが響く。
藍音は初めて気づいた。
彼の胸の鼓動。
速い。
「……怖かった?」
小さく聞く。
湊は少し黙ってから言った。
「ええ」
「え?」
「貴女を失うかと思いました」
その言葉で。
胸が強く締め付けられる。
苦しい。
でも――
嬉しい。
自分でも意味がわからない感情。
気づけば。
藍音は彼の服を掴んでいた。
「……離れないで」
湊の目が見開かれる。
「お嬢様?」
「今日だけでいいから」
声が震える。
「そばにいて」
数秒の沈黙。
そして。
優しく頭に手が置かれた。
「……承知しました」
その夜。
藍音はソファに座っていた。
湊が隣にいる。
それだけで安心する。
「お嬢様」
「なに」
「少し失礼します」
次の瞬間。
額に手が触れる。
「熱はありませんね」
近い。
顔が近い。
心臓が壊れそう。
「……湊」
「はい」
「なんでそんなに優しいの」
彼は少しだけ微笑んだ。
「貴女が大切だからです」
ドクン。
その瞬間。
藍音は初めて理解した。
自分の気持ちを。
(私……)
(この人のこと……)
まだ言葉にはできない。
でも確実に。
恋は始まっていた。
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