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マジで大好きです最高でした...。両者の感情の表現が素敵すぎて、とても見入ってしまいました...!!テラーで、誰かの作品にコメントしたことは無かったのですが、思わずコメントしたくなってしまうくらい素敵な作品でした🙌🏻
最っっっっ高です。悲しい話じゃないのに読んでいて、鳥肌(いい意味)が立って涙がでた(何の涙かわからないのですが)のは初めてです。 カーテンを読んだときも思ったのですが、文章が本当に素晴らしいです。何度も読ませていただきます! 長文、失礼しました。
俺たちはアイドルで、需要と供給のバランスが大事な事なんて重々理解しているから 今更、気になんてしていない。俺たちはファンに夢を見させる存在なのだから…
事件はテレパシーのDance Practice Movieの撮影時に起きた。
勇斗がまぁ、その場のノリもしくはファンへの供給で柔太朗のほっぺたに口付けをした。
3080と呼ばれ、需要があるコンビの為勇斗的にはアイドルとしての供給に過ぎないのだろう。
だが、こっちからすればいい気はしない。撮影時も各々にリアクションをしていたが、 俺の態度はあからさまだっただろう。
なんなら、み!るきーずの皆さんにはすぐにバレたことでしょう。
別に、俺と勇斗は付き合ってるわけじゃない。
グループの位置づけとして夫婦みたいなポジションにあるだけで、口に出して伝え合ったとかではない曖昧な関係の為、文句を言う権利すらない。
「仁ちゃん、うまいもんでも食って帰ろうぜ」
撮影後、珍しく太智が飯に誘ってきた。普段の太智はそんなこと絶対にしない。そういう奴だ。
「太智が誘ってくるなんて珍しいじゃん」
「そぉだっけ?都合悪かったら別にいいけどぉ」
わかってる太智が俺の事を気にかけてくれてることなんて入所してからずっと連れ添ってきたから 誰よりも俺の事を理解している太智なりの優しさだ。
「いいよ。行こうぜ。そのかわり、太智のおごりな!」
「仁ちゃんそれはねぇよ~」
気を許した太智とくだらないことを話しながら食べるうまい飯は俺の心を満たしていく。
太智はむやみに人のプライベートな部分に踏み込んではこない。
普段は何も考えずに話してそうに見えるが誰よりも周りを見て、人に寄り添える奴だ。
だから、ずっと一緒にやってこれたのだろう。
「もうすぐ、ツアー始まるね」
「だな。演出の構成順調?」
「もーね!すごいよ!楽しみにしててよ!」
「おう!」
M!LKとしてこれからに繋がるであろうツアー。
太智の演出に不安なんてない。今回も期待しているし、きっと楽しいツアーになる。
み!るきーずに最高の景色を見せたい。
「おっしゃ!やるぞ!」
「おー!」
無駄に二人で気合を入れ、自分の出せる最高のパフォーマンスを出すと誓いを立てた。
ツアーは無事に大成功で幕を閉じた。
最高に楽しかったし、手応えも感じた。み!るきーずも今まで以上に盛り上がってくれた。
横を見ればメンバーがいて前を向けばファンがいる。
あーもっと頑張ろう。もっともっとって気持ちが溢れてくる。
こいつらといつまでもステージに立っていれるように。
「吉田さん…吉田さん家着きましたよ」
「ん…?家…」
マネージャーに肩を揺らされ目を覚ますとそこは車の中で他のメンバーも疲れ切って夢の中だ。
「あー…はい。すみません。お疲れ様です」
「はい。お疲れさまでした。明日、明後日オフなんでゆっくり休んでください。明々後日からまたよろしくお願いしますね」
「2日間休み…久々っすね。お疲れさまでした」
メンバーを起こさないようマネージャーに挨拶し車を降りる。
「俺もここで」
「え?」
「お疲れさまっした!」
「お、お疲れ様です」
さっきまで夢の中にいたはずの勇斗が俺と一緒に車から降りる。
マネージャーも不思議そうに挨拶を返し、車を出す。
「勇斗、なにしてんの?」
「まぁまぁ、な?」
何が、な?なんだ。俺を置いて俺の家に向かう勇斗に首をかしげながら追いかける。
「なんか用あったのか?」
「いや、別にねぇよ?」
「はぁ?」
勇斗も疲れてるはずなのに何がしたいんだこいつ。
「俺、風呂入るけど…」
ライブで疲れてもう、風呂に入って死んだように寝たい。
「一緒に入る?」
「入らんよ?」
「そんな食い気味に断んなよ」
「変なこと言ってんな」
「なんで、駄目なわけ?」
勇斗が急に真面目な顔になる。
「はぁ?お前普段そんなこと言わねぇーじゃん。なんか変。疲れてんだろ?帰りな?」
一歩また一歩無言で近づいてくる勇斗。イケメンの真顔ほど怖いものはない。
「な、なに…?」
壁際まで追いつめられる。怖い…。怒られてるわけじゃないのに怖い…。
無言の勇斗に見つめられるのがすごく怖い…。
「今日のあれってわざと?」
「あれ…?」
心当たりはあるけどすっとぼけてみる。
わざとやったわけじゃない。ただなんとなく…ノリ的な?
仕返しじゃないって言ったら噓になるけど。
「わかってんだろ?すっとぼけても駄目です」
勇斗が弱い顔してみる。
「その口やめて」
「はは」
「はぐらかすなって」
「別に意図してやったわけじゃないって」
「嘘だね」
「はは」
さっきまでの怖い視線が嘘かのように今は拗ねた勇斗の顔に笑いが出る。
本当に自分より年上なのだろうか。感情が表に出やすい勇斗は純粋に可愛いとすら思えてしまう。
これは完全に惚れた弱みだろう。
拗ねた勇斗の頭に手を伸ばそうとしたら手を取られる。
「え?」
あ、またあの目…怖い…
まっすぐに見つめられる視線が、怖い…
手がゆっくりと持ち上げられる。小指にゆっくりと勇斗の唇が近づく。
ちゅとリップ音が響く。勇斗の口がゆっくり開かれ、小指が口腔内に吸い込まれていく。
「いてっ…」
勇斗に小指を噛まれた。
小指の根元にはっきりくっきりつけられた歯形…
「ごめん…帰るわ…」
俺たちの関係は曖昧で言葉にしないせいできっとこじらせすぎてしまったのだろう。
男同士…メンバー同士…その隔たりを曖昧な関係に甘んじてわざと言葉にしてこなかった
そのつけが回ってきたのだろう。
勇斗が怒っている理由も指を噛まれた理由も突然帰った理由もわかっているようで何もわからない。
曖昧な関係が居心地がよかった。そのままこの関係に甘えていたかった。
俺は俺自身が曖昧な関係を望んでいたのかもしれない…
「仁ちゃんとなんかあった?」
M!LKの姫こと、山中柔太朗に聞かれたのは二人での雑誌撮影の休憩時間だった。
「あー…いや、別に」
「今更、気使うことある?」
「姫にはすべてお見通しってことですか…はは」
はぐらかしたくて茶化してみる。
「こっちからすれば、いい加減はっきりしなよって話なんだけどわかってる?」
「なんか、ごめんなさい…」
「で、なにがあったの?今なら聞いてあげるよ」
M!LKのメンバーは本当に優しいやつらばかりだ。
自分がなんでそんな行動をしたかも自分でわかってない。
どう説明していいかもわからない。
でも、柔太朗はただ静かに俺の話を真剣に聞いてくれた。
「はやちゃんってさ、ずるいよね」
「は?」
「それって自分のこと棚に上げて、仁ちゃんに怒ってるって事じゃん?」
「うぐっ…」
柔太朗に相談したのを後悔したくなるほど容赦なく言い放たれる。
「はやちゃんも、俺のほっぺにキスしたじゃん。それ、仁ちゃんがなんも思ってないって思ってる?」
「だって、あいつそのあとすぐ太智と飯行ってたじゃん」
「はやちゃんってさ、全てに鈍感だよね。もうさ、同性とかメンバーとか全部取っ払って自分の気持ちに素直になるか諦めて3080一本に絞るか決めたら?いつまでも、曖昧な関係に甘えてんなよ。もう、一緒に居て10年でしょ。そろそろけじめつけなよ。俺らは否定しないよ」
俺は鈍感なのか?言わなくてもわかってるって関係性に甘えて口に出さずに10年…
このままでいいわけはねぇ…よな。
変わらない関係性。俺は変えたいと思ったから勝手に身体が動いてしまったのだろう。
誰にも渡せない。渡したくねぇ。メンバーでも…ファンでも…
「はは。4つも下の柔太朗に言われて気づくなんてな」
「ほんとだよ。いっこ言っとくとライブの時顔には出てなかったけど目線死ぬほど怖かったから、舜太怖がってたよ」
「まじか!舜太には悪いことしたな」
「最年少いじめないでよね」
あー俺の気持ちだだ洩れってか。
でも、考えてみればメンバーが認めてくれるって死ぬほど心強いな。
ちゃんと、伝えよう。自分の気持ちとちゃんと向き合おう。
「吉田さん、怪我でもしたんですか?」
マネージャーはやはりめざとい。
「あー…まぁ…そんなとこっすね」
「気をつけてくださいよ?今日は取材だけだからいいですけど」
「すんません」
ちょっと不服に感じながら、深く突っ込まれると困る為素直に謝っておく。
小指の根元を怪我するってどんな状況でありえるんだよと苦笑いしたくなる。
勇斗に噛まれた指は2日じゃ治らなかった。しょうがないので絆創膏を貼って隠すくらいしか思いつかなかったため、マネージャーにすぐに見つかってしまった。
明日からは撮影も普段通り始まってしまうというのに困るわな。
今日の取材も無事に終わり、マネージャに家まで送ってもらう。
「お疲れさまでした」
「お疲れ様です。明日もよろしくお願いします」
マネージャに挨拶をしエントランスを抜け、玄関へ向かう。
今日は早く帰宅できたため、久々になにか作ろう。
「仁人、お疲れー」
急に声を掛けられ慌てて顔を上げると
「勇斗…なんか用?」
「ちょっと、遊びに来た」
2日前気まずくなったはずの勇斗が居ていつも通りの態度で話しかけてくる。
気にしてんのが俺だけみたいで腹が立つ。
「今日は疲れてるから無理。帰れよ」
「仁人ー、つれないこと言うなよ~」
勇斗の事を無視しながらエレベーターに乗り込み、玄関前までたどりつく。
玄関の鍵を開けながら
「今日はここまで。ほんとに帰れ」
「無理。ちょっとでいいから入れろ」
嫌なんだ。俺のテリトリーに入れてまた傷つくのが。
でも、勇斗があの目をしているのが背中越しにわかる。
俺はきっと…
「10分だけ10分たったら帰れよ」
許してしまう。
「サンキュ」
勇斗なんて存在していると気にしなければいい。
晩御飯の準備をしようとキッチンに立つと
「仁人」
ポンポンと勇斗の座る横を叩きながら俺を呼ぶ。
「なに?俺忙しいのよ」
現在の時刻15時。晩御飯までは全然時間がある。
「仁人」
さっきよりも低く重く呼ばれる。
あー…またあの目線を感じる。俺の苦手な目。
素直に従うのがなんだか癪で、横には座らずソファーを背もたれにして床に座る。
俺なりの小さな抵抗だ。勇斗が降りてくれば終わってしまう。小さすぎる抵抗。
案の定、勇斗が俺の横に座りなおす。
気まずい空気が流れる。体感10分。実際は5分…いや、2分もたってない。
「仁人、手出して」
一昨日の事を思い出し、でも気にしてるそぶりは出さず噛まれてない手を差し出す。
「逆」
俺が差し出したのは噛まれてない手。
嫌々ながら、そっぽを向きながら噛まれた手を差し出す。
勇斗に握られる感覚。なにか冷たいものが小指に触れ、すーっと根元まで押し込まれる。
「うしっ」
勇斗から満足げな声が聞こえてくる。
気になって小指に目を向けると歯形がついていた小指には傷を隠すようにリングで囲われる。
「明日から、これ付けろよ」
「はい?」
意味がわからない。
いや、この指輪で傷を隠せってことなんだろうと理解はした。だが、勇斗に貰わなくても自分もピンキーリングくらい買える。
「いらねぇよ?ピンキーくらい自分で買えるわ」
勇斗から貰ったリングが嬉しくない訳では無い。
ただ、勇斗に付けられた傷を勇斗に貰ったリングで隠すというのが小っ恥ずかしい。
指輪を外そうと手を伸ばすと手首を掴まれる。
「ダメです。俺が仁人にやったので、俺の許可なく外すのはダメです」
「はぁ??意味わかんねぇから!要らねぇよ!」
強く反発すると掴まれた手首を更に強く掴まれる。
あ、また、あの目…あの声…
「仁人外すな」
俺が抵抗出来ない目と声。
「分かったから…手離せ…痛いから」
「悪ぃ」
勇斗は手首は離したが手を握り、にぎにぎしながら色んな角度で指輪を眺める。
「ん、似合ってんな」
満足気にいつもの笑顔を向けてくる勇斗に溜息に似た笑いが出る。
やっとまともに目を見れた気がすると思ったら、ゆっくりと手を持ち上げられ、勇斗が小指に、リングに、触れるだけのキスをしてきた。
目を見つめられたまま
「もう、あんなことすんなよ。仁人が他のやつに触れた触れられたってなると、なにしでかすかわかんないから俺。これで仁人は俺のな?」
あぁ。こいつはほんとに嫌になる。
拒否なんてさせてくれない俺様な勇斗。
きっと俺よりも首輪が必要なのは勇斗のはずなのにな。
「さぁね!!」
俺にだってプライドはあるし、勇斗に囲われる気なんてさらさらないし、甘んじてお前のお姫様になるなんて以ての外。
だから、俺は変わらずこの関係に名前を付けず曖昧なままでいる選択をさせてもらう。
いつか、俺が素直になるまで気長に待ってな。
END