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無言の蓮さんに手をひかれ、部屋の中に入る。
「お邪魔します」
私があんな態度をとってしまったから、怒ってるよね……。
蓮さんはタクシーの中でも何も話してはくれなかった。
「ソファに座ってください」
彼の言うまま、ソファに座る。
彼は上着を脱ぎ、違う部屋から救急箱を持ってきて、この間と同じようにテキパキと私の膝の処置をしてくれる。
「沁みますが、我慢してくださいね」
「……!」
案の定、両膝の出血している部分は沁みた。
「良かった。この間よりは酷くなかった。他に痛いところはありますか?」
私は、首を横に振った。
しかし彼は
「手のひらとか、肘見せてください」
見ると、少し血が滲んでいた。
「ここも消毒しますよ?」
慣れた手つきで、処置を進める。
「終わりました」
彼は使った綿や救急箱を片付け、部屋を出て行った。
いつもの彼ではない、怒っている理由が浮かびすぎてどこをどう謝っていいのか考える。
彼がリビングに戻ってきて、私の隣に座った。
沈黙が続く。
謝らないと、そう思い口を開こうとした時
「すみません」
蓮さんが一言、呟いた。
「もう愛を傷つけないと決めたのに、またこんなに痛い思いをさせて。自分が嫌になります。もちろん、真帆《あの子》とは何もありません」
なぜ彼が謝るのだろう。
「私の方こそごめんなさい!お店が終わって蓮さんが見えたと思ったら、あの子がいて。なんでいるのかよくわからなくて。そしたら蓮さんが抱きつかれて。蓮さんのこと信じなきゃいけないのに……。動揺して……。他の女の子に抱きつかれているのを見たくなくて、その場から逃げてしまって……」
「蓮さんのこと信じているなら、ちゃんとあの場にいなきゃいけなかったのに。私が弱いから……。ごめんなさい」
私の言葉を聞いて
「最初から説明します」
そう言って、アルバイトが終わる私を待っていたら、急に真帆ちゃんが現れたこと、写真を見せられたこと、告白をされたこと、蓮さんは全て話をしてくれた。
私が想像をしていた以上の彼女の行動にゾッとした。
「急にあんなところを見せられたら動揺だってします。俺が気をつけるべきだった。すみません」
彼は、俯いていた。
どうして自分を責めるの?
なぜ、私を責めないの?
「どうして、私を責めないんですか?怒らないんですか?冷静に判断できなくて、勝手に走って転んで。また蓮さんに迷惑をかけちゃったのは私です」
彼は悲しそうにふっと笑い
「愛は何も悪くないですよ」
そう言った。
「俺の話、全部信じてくれるんですよね?」
「当たり前じゃないですか!」
「不謹慎かもしれないですが、愛が妬いてくれたのは……。嬉しいです」
彼女が、蓮さんに一方的だが抱きついているのを見たくなかった。蓮さんに触れているのを見たくなかった。
これはすごく焼きもちかもしれない。
「はい。蓮さんが他の女の子に触れられているだけで、すごく嫌だって思ってしまいました」
こんなことを本人に伝えてもいいのだろうか。
重い女とか思われてしまう?
「俺は、あなたにしか興味がありません。なので信じてください」
私を見る、まっすぐな瞳。
「はい」
「せっかく治ったのに、痛かったですよね?本当に他に痛いところありませんか?」
彼が私の近くに寄って、再度ケガをしていないか確かめてくれた。
なぜだろう、すごく愛おしく感じた。
私は蓮さんに抱きついてしまった。
「愛……?」
「好きです。蓮さん」
「俺も好きですよ」
彼に抱きしめられ、頭を撫でられる。ずっとずっとこの空間が私の場所であってほしい。
「蓮さんにずっと好きでいてもらえるように頑張ります」
私の言葉に少し笑って
「そんなに可愛いこと言わないで下さい。これでも、自重しているんですよ?あなたにケガをさせてしまったから……」