テラーノベル
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大きなナッキは自らの口中にチョコンと収まっているサニーを気遣いながら言う。
「ああ、滝壺まで戻ってきたよ、今からジャンプして上の小川に戻るよサニー、確り舌の中に隠れていないといけないからね! ささ、潜ってみそぉ」
「………… ううん……」
「えっ、何? 何て言ったのサニー?」
うっかり聞き逃してしまったらしいナッキに、口の中にウオノエ的にチョコンと収まっていたサニーが声を張る。
「あのねナッキ、オイラ、ううんアタイ自分で飛んでみるよっ! 今までどうせ出来ない、そんな風に逃げ続けていたんだけどさ…… ナッキの枕を受け継いだ今なら、キット今なら出来る気がするんだ! この滝を越える事で今までと違う自分になれる気がするんだよっ! アタイやってみたいっ! だからお願いっ! キャストオフ、吐き出してぇっ!」
「……………… 判った…… 君の覚悟に寄り添うよサニー、良しっ、グフングフン、グフグフ、ンガアァッ! んんんん、ッペェェェェッ!」
ナッキは豪快な咳き込みの後、サニーを吐き出したのである。
吐き出されたサニーは右側の胴体に緑の石をキラキラさせつつ、希望に満ちた表情を浮かべて宣言するのであった。
「さ、サニーィ! 逝きますぅっ!」(誤字では有りません)
ぴょんっ! ヒュゥ~ゥ! ザブンッ……
「やった! やったよぉ! ナッキィッ! 初めてこの滝を登れたよぉぉっ! オイラ、ううん、アタイやったよ! やってやったよぉぉぉっ! ワッチョーイィッ!」
ビョンッ! ザッパーンッッ!!
ナッキは豪快に水飛沫(みずしぶき)を撒き散らせて小川に着水しながら、サニーを見つめて言う。
「良かったよ、サニー…… 初めてとは思えないほど綺麗な着水だった…… 僕感動したよ!」
「ナッキ、ああ、ナッキィ……」
今年生まれた若鮒、ヒットとオーリの子供たちでも容易に越える事が出来た小さな滝である。
しかし、三年の間、どんなに頑張っても越える事が出来なかった滝を飛び越えたサニーは感涙に咽(むせ)び泣くのであった。
ナッキは大きな胸鰭で、小さなサニーを包み込んでいつも以上に優しい声音で言う。
「さあサニー! 帰ろうよ、僕たちの家、『美しヶ池』へ!」
「う、うん! 帰ろうナッキ!」
最早、口の中に隠れようとはせずに、笑顔の二匹は並んで鰭を動かしながら小川を泳ぎ上がって行くのであった。
かつて『死の壁』、そう呼ばれていた『美しヶ池』へと繋がる、ツルツルな壁面の水路、トンネルを進んでいた二匹だったが、小さなサニーがいつもと違う変化に気が付いて、大きなナッキに声を掛ける。
「ねえナッキィ! 水路で遊んでいる子供達がいないことも不思議だったけどさ…… 流石にこれは尋常じゃないよね? 門番役のモロコ、カーサやサム、彼らの部下達ですら居ないなんて…… 普通じゃないよっ、これっ!」
「う、うん、確かにおかしいね…… ま、まさかっ!」
トンボの幼体、ヤゴが孵(かえ)ったのでは、そんな会話を交わす間も惜しむ様に、無言のままで池の中へ急ぐ二匹。
池の中央付近、要塞と化した『メダカ城(改)』の上まで来ると、城の中から慌てて飛び出してきた数匹から声が掛かる。
「お、王様! お帰りなさいませ! い、一大事が起こりましてぇ!」
「ナッキ王、『死の種』から見るもおぞましい化け物達が現れたのですぅ!」
「帰ったかナッキ王よ! 今、皆が出張って上の池から子供たちを退避させている最中なのだ! 無辜(むこ)の命を守らんと、やむを得ず我が指示を出したが、問題無いであろう?」
『『メダカの王様』! 是非、ご指示を!』
モロコのギチョー、大臣のカジカ、殿様ゼブフォが早口で言い、年長のメダカ達も声を揃えた。
ナッキは自身の不在中、指揮を取っていたと言うゼブフォに聞く。
「殿様、現状は? 被害は出ているの!」
「いや、今の所被害は避けられておる、ヤツ等の孵化(ふか)にいち早く気がつく事が出来たのでな! カーサとサムが上の池全体をモロコ達に監視させていたお蔭だよ、子供たちは城の中、卵は今、ギンブナ、ウグイ、モロコ、それにメダカが総出で必死になって搬送しとるぞ!」
「そうなんだ、被害が出ていないなら一安心だね、じゃあ僕も卵の避難を手伝うよ」
ゼブフォは首を左右に振ってから、やや険しい表情で返す。
「いいや、ギンブナやウグイが担当している役目についてはそろそろ輸送が完了している頃合いでしょう、ナッキ王には手の空いた者達を率いて、最前線に居るアカネやブルたちを手伝っていただきたい、如何です?」
「そうなの? 判った、じゃあそっちを手伝うよ、サニーもそれで良い?」
「うん、急ごうナッキ!」
頷きを交わした二匹は、ペジオの門へ続く水路を目指して急ぐのである。
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