テラーノベル
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いつもの動画の企画。
メンバーは俺、だて、阿部ちゃん、照。
今日は久しぶりに阿部ちゃんが運転することになった。打ち合わせなしに、だてが当然のように助手席に収まる。それを俺はぼうっと見ていた。
「翔太、乗らないの?」
照が気を遣って声を掛けてきた。
乗るよ、乗る乗る。
無理に笑顔を作ったから、表情筋が疲れる。
最近。
メンバー間で共有された、だてと阿部ちゃんとの交際。みんな驚いてたけど、俺はわかっていた。
いつか、こうなるんじゃないかって。
『翔太と舘様は運命の二人だから』
『俺なんて、足元にも及ばないよ』
阿部ちゃんがそう言って、俺を気遣うたびに、そうじゃねぇよと思っていた。
だては、涼太は、ずっと、阿部ちゃんを見てる。
誰よりも俺は解ってるんだ、涼太のこと。伊達に子供時代から見ていたわけじゃない、だてだけに(笑)
笑い事じゃ済まない胸の痛みを抱えて、俺は後部座席に乗り込んだ。
「もっとこっち来いよ」
さりげなく腕を取ってくる照の気持ち。
それって同情なのか、なんなのか、俺は一切考えないようにしていた。
ここの所、照がすぐそばにいて何となくくすぐったい。でも俺、そんなに切り替え早くねぇから。なんたって、20年以上拗らせてるんだから、こっちは。
「涼太も免許取ればいいのに(笑)」
そう言ってスムーズに車を発進させる阿部ちゃんに笑って答えない涼太。
でも俺は知ってる。
涼太が忙しい仕事の合間を縫って教習所に通い始めたことを。そんなふうに人知れず努力を始めたのも阿部ちゃんのためだってことも。
それからは動画用の会話が続く。
殆ど俺と阿部ちゃんとで近況を話したり、今受けている仕事について話したり。解禁前のもののことは話さないように。プライベートについても話しすぎないように。いつもの通りだ。ちゃんとやれてる。編集は出来ても、撮り直す時間なんかないから、それなりに頭を使って話した。涼太と阿部ちゃんの心の距離が縮まっているのを感じるたびに、胸の奥が引き攣れるほどに痛いのは見ないようにした。
◇◆◇◆
『お疲れ様でした〜』
撮影が終わって、各々仕事に向かうはずが、まさかの全員予定なし。どういうわけか軽く飲みに行くかという話になって、涼太が行きつけの店を予約してくれた。
「あ、俺は」
「涼太も翔太と飲みたいみたいよ。なんだかんだで一緒にいるの久しぶりでしょ」
阿部ちゃんがこっそり耳打ちしてきて、その言葉に悪い気がしない俺も大概だ。阿部ちゃんが涼太と付き合い出してもうすぐで3ヶ月くらい。もう確実に手に入らないのに、涼太に求められると応えてしまう自分がいる。浅ましいと思った。こんなことになるのなら…。
「早く言っとけばよかったって思った?」
阿部ちゃんが離れた後、囁くように照が言う。相変わらずのポーカーフェイスで何を考えてるかわからない。いつもは大したことも考えてないくせに、今日に限っては少し俺を脅すような素振りを見せる。
「うるせぇよ。あいつのことなら、俺の方がわかってっから。どっちみち…」
照のうざい手が、俺の肩に乗った。
振り解こうとしたけど、涼太が心配するからできなかった。笑顔が歪む。
阿部ちゃんが大学に行って、さらに大学院に行くって言って、その頃から涼太にとって、阿部は特別だったんだ。でなきゃあんなに怒るもんか。それももう、全部全部、過去のハナシだ。
「翔太、照、行くよ」
手を振る涼太に、俺たちはついて行った。
◆◇◆◇
「で。なんでこうなったんだっけ」
頭痛がするのか、可愛い顔を顰めさせ、翔太は寝癖のついた頭をポリポリと掻いている。俺のベッドで、パンツ一枚だけのアラレもない姿で。
「安心しろ。何もないよ」
ちょっと。
そんなあからさまにほっとした顔すんなよ。
「無理して飲んだだろ。で、帰れなくなって、舘さんち行くってごねたから俺が引き取ったの。阿部はいいよって言ってたけど…イヤだろ?」
かぁぁぁぁぁ。
そんな音が聞こえてきそうなほど、翔太の白い顔は真っ赤になった。嘘だろ、やばい、とボソボソと聞こえてくる独り言も可愛いなと思ったけど口には出さない。
「悪い。帰る。阿部ちゃんたちにも謝らなきゃ」
翔太は慌てて着てきた服を身に付けて、出て行こうとする。帰り際、ドアのところでありがとうと言ったので、次は覚悟して来いよと言ったのは聞こえただろうか。
待つのは苦手じゃない。
気も長い方だと思う。
それでも好きな人が泣くのはあまりいいものじゃないから。
明け方。
無防備に開かれた唇を奪ったことだけは、黙っておこう。
おわり。
コメント
10件
いいねぇーーはよくっつけよ!💛💙
しょっぴー切ないね😣 いつかひかるを見てあげて💛💙