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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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出雲さんこと出雲詩袮(いずもうたね)はこの木霊神社で霊具屋をやっている女性だ。話によると以前は霊滅師だったようで、身体が弱っているのも視力がほとんどないのも、戦いの後遺症のようなものだという。

「まあ、そういうわけで私この先あんまり長くないから、今の内に仲良くしてねー」

まるで何でもないことのように言ってのける詩袮に、和葉は面食らう。

「悪趣味なジョークと変なあだ名はやめなさいっていっつも言ってんでしょーが!」

「まあまあ。良いじゃない良いじゃない」

どこまでも軽い調子で詩袮は露子をあしらった後、思い出したように箱を露子へ差し出した。

「これ、例のやつね。特注よ」

「まああの値段は特注でしょうよ」

すぐに露子が箱を開けると、中に入っていたのは銀色の拳銃だった。普段露子が使っているものとは形状が異なっている。チラリと見えた砲身も、普段のハンドガンタイプのものよりも大きい。

「おや、新型ですか?」

「ま、そんなとこ。良いでしょ?」

浸に言いつつ、露子は握り込んだり試しに構えてみたりと少し楽しげに銃を触り始める。

「ああ、かっこいいじゃないか」

「アンタには言ってない」

すかさず口を挟んでくる絆菜に憎まれ口を叩き、露子はあからさまにそっぽを向いて見せた。

「箱の中に説明書も入れといたから、確認しておいてね」

「当然よ。あたしは毎回マニュアルは読み込むんだから」

得意げに答える露子に微笑んでから、詩祢は和葉と浸の方へ向き直る。

「びたしーちゃんは? 付き添い?」

「ああいえ、先日愛用の青竜刀を紛失してしまいまして……。もしすぐ用意が出来るのであればいただきたいのですが」

「あー、オッケーオッケー。大丈夫よ、後で倉庫見に行きましょうか」

「……びたしー……ちゃん?」

詩袮の口にした聞き慣れない単語に、和葉は首を傾げる。隣では絆菜も少し首を傾げていた。

「ほら、私の名前は雨宮浸なわけじゃないですか。まるで雨でびちゃびちゃみたいな名前だと言われまして……」

「……じゃあ、水浸しのびたしーなのか?」

まさかとでも言わんばかりに絆菜は問うたが、浸も詩袮も同時に頷いた。

「なんてことだ……浸にはもっとこう……良いあだ名があるべきではないのか……」

「私も最初は驚きましたが、もうすっかり慣れましたよ。良いじゃないですか、びたしーも」

「じゃあ、あなたはびたしーちゃんにどんなあだ名をつける?」

楽しげに詩袮が割って入ると、絆菜は真剣な面持ちで考え始める。

そこから数秒間があって、絆菜は真っ直ぐに浸を見た……後でちょっと目をそらした。

「……ひたるん」

「ひたるん……」

浸がそのまま言葉を繰り返した後、その場に沈黙が訪れる。

さっきまで銃に夢中だった露子は口をあんぐりと空けて絆菜を見ており、和葉はキョトンとしていた。

「……よし! で、そっちの子は和葉ちゃんだっけ? どんなあだ名が良いかしら」

「待て! もう一度チャンスをくれ! 私が浸に相応しいあだ名を思いついて見せる! お前を越えてやる!」

しかしもう詩袮は絆菜には取り合わない。わざとらしく笑みを浮かべている辺り、はやくも絆菜で遊んでいるようだった。

「えっと……私、霊具が欲しいんです!」

「なるほど。どういうのが良いの?」

「それがまだ……よくわからなくて……。今までは、浸さんに弓を借りて使ってたんですけど……」

「そうねぇ……。それでも弓って即答しないってことは、何か別のものが欲しいのね?」

「かも、知れません……」

少し申し訳無さそうに、曖昧な返答をする和葉だったが、詩袮はカラッと笑って見せる。

「それじゃあ、一緒に倉庫見に行きましょうか。青竜刀も取りに行きたいし」

「よし、ひーちゃんはどうだ?」

「……結構普通のチョイスできたわね……」

まだあだ名を考えていたらしい絆菜に苦笑しつつ、詩袮は控えていた巫女に支えられながら立ち上がる。

「詩袮様。倉庫への案内でしたら私共の方でさせていただきますので、部屋でお休みになられては……」

「ちょっとくらい大丈夫よ。つゆぽんは?」

「あー……一応あたしも行こうかしら」

結局、詩袮と付き添いの巫女、和葉達の合計六人で連れ立って倉庫へ向かうことになった。



***



倉庫は社務所から少し離れた場所にあり、神社の裏にある大きな蔵がその倉庫なのだという。中へ入ると、古書やわずかな埃の独特な臭いが立ち込める。

「わぁ、すごい……!」

蔵の中には、様々な霊具が種類ごとに整頓されて置かれていた。

刀や槍の他にも西洋の剣のようなものも置いてあり、浸の持っていた霊竿のような一見武器に見えないものもいくつか置いてある。例の釣り竿と似たようなものの姿もあった。

「さあかずちん、好きなの選んで良いわよ~。値段書いてないからそこだけちょっと気をつけてね~」

霊具は、霊力を通しやすいように加工された武具だ。刀剣類は日本に古くから存在する刀匠達が未だにどこかの隠れ里で作っている、というのが霊能者の間での通説だ。詩祢は、彼らから霊具を取り寄せている。

その一方で銃器は国内で作られたものではない。除霊事業は海外にも存在し、銃器が主力のそちらでは必然的に霊具としての銃器が作られている。入荷は勿論、真っ当なルートではないが。

詩祢の他にも、闇ルートで霊具を取り寄せる業者もいくつか存在している。銃器に関してはそちらの方が品揃えが良く、金さえ払えば良質なものが手に入るため、実は露子も利用した経験があったりするのである。

勿論、これらのことは口が裂けても瞳也には話せない。

「さて、私も一番手に馴染む青竜刀を探しますか」

浸が青竜刀を物色する中、和葉が最初に手に取ったのはスタンダードな日本刀だ。見た目は雨霧とそう変わらないが、霊力が込められていない。基本的にここにある霊具は、霊力を通せるだけの霊具だろう。

次に青竜刀、試しに霊竿、双剣、と浸が使っていた覚えのあるものを順番に触っていく。

「アンタのスペックなら銃もいけるんじゃないの? 正直本気になったらあたしより扱えそうだし」

そう言って、露子は拳銃を和葉へ放る。

「ちょっとつゆぽん! 一応商品なんだから投げないで!」

「あ、ごめん」

詩袮と露子のやり取りを横目に見つつ、和葉は試しに拳銃を握ってみる。サイズに反してずっしりと重たい拳銃は、ひんやりと冷たい。

「うーん……」

「ピンと来ない?」

「そう、ですね……。なんだか、銃を撃ってる自分がイメージ出来ないです」

「あたしからしたら、戦ってるアンタ自体イメージ出来ないっての」

それは正直、和葉も今まではそうだった。浸の後方から援護することはあっても、自分から進んで戦うようなイメージは和葉自身にも出来ない。

「ナイフはあるか? 出来れば大量にあると良いんだが」

「大量にはちょっとないわね……。時間もらえれば用意出来るとは思うのだけど……予算は?」

「ない」

「じゃあ注文は0本ね」

「ふ……来月を心して待っているが良い。給料が出るからな」

詩袮に対して不敵な笑みを浮かべた後、絆菜は蔵の中を歩き回って先程までの和葉同様、様々な武器を手に取っては眺めていた。

「かずちん、弓は扱えるの?」

「あ、一応は……。あんまりうまくはないですけど……」

「何謙遜してんのよ。後方支援としてある程度使い物になるくらいには扱えてるわよ」

言葉を濁す和葉に、露子が割り込む。

実際、弓道をやっていた時の和葉はそれ程うまいわけではなかった。しかし浸と共に戦う中で、極限に近い集中力で使い続けた結果、昔とは比べ物にならない程上達している。

「それじゃあ、なんで弓じゃ嫌なの?」

「嫌……ってわけじゃないんですけど……」

「うん、かずちんは攻撃するのが好きじゃないんじゃないかしら」

詩袮がそう指摘すると、和葉はようやく自分の本心に気がつく。

「ど、どうしてそう思ったんですか?」

「ちょっと話してみて……なんとなく。かずちん、争い事とか好きじゃなさそうだな~って。すごく優しいもの、あなた」

強くなりたい。そのためには霊と戦えるようにならなければならない。しかしそれは、積極的に霊を自分で祓うということだ。

それが正しいことだとわかっている。悪霊化した霊はもう救う余地がない。祓うしかないのだ。しかしそれでも、和葉はなるべくなら傷つけたくないと本心では思っている。

「甘い……でしょうか」

「甘いわよすごく。でも甘いものっておいしいじゃない、好きよ」

冗談っぽくそう言って、詩袮はそのまま言葉を続ける。

「かずちんは、どうして強くなりたいの?」

「私……私は……」

何のために。

誰のために。

初めから考え直すと、少しぼんやりしていた思考がクリアになっていく。

早坂和葉が強くなりたい理由なんて、一つだけだ。

「守りたい。私……浸さんを守りたい。浸さんだけじゃない……つゆちゃんも、絆菜さんも、みんなも」

どこか迷っていた瞳が、まっすぐと詩祢に向けられる。

「そっか。霊を祓いたいんじゃなくて、人を守りたいのね。だったらピッタリのものがあるわよ」

「ほんとですか!?」

「もちろん。だけど……今うちにはないから……用意しといたげる。特注よ」

「……ありがとうございます!」

詩袮は満足そうにうんうんとうなずいて、和葉の頭をなでる。

「支払いはものが出来てからで良いわ。見積もりは後で連絡するから、連絡先教えて頂戴ね」

「はい!」

何をどうするべきなのか、具体的な方向性が和葉の中で少し定まる。ただがむしゃらに強くなろうとするのではなく、どうしたいのか。それをハッキリさせられただけでも、今日ここに来たことは和葉にとって大きな前進となった。



***



その後、浸は無事に馴染む青竜刀を手に入れ、そのまま解散することになった。

手を振って見送る詩袮達に別れを告げ、和葉達は木霊神社を後にする。

夕焼け空を時折眺めながら、和葉はゆっくり石段を降りていく。隣には浸がいて、後ろでは露子と絆菜が何やら言い合っている。というか露子が一方的に喚いているだけなのだが。

いつの間にかにぎやかになった自分の周りが、嬉しくて仕方がなかった。

人を遠ざけてきた霊能力が、浸と出会ったことで人と繋がることが出来た。ずっと疎ましく思っていた力は、見方を変えただけで大きく印象が変わっている。今はもう、和葉にとって霊能力とは浸と自分を引き合わせてくれた力なのだ。

「浸さん、私今、毎日楽しいです」

不意にそんなことを言い出した和葉に、浸は優しく微笑みかける。

「そうですか。それは良かった……だとすると、私の仕事はもう終わったのかも知れませんね」

穏やかに一息ついて、浸は語を継ぐ。

「私は、自分の力に苦しめられている早坂和葉を救いたかったんです。この様子だともう、当初の目的は達成されているようですね」

「……かも知れません。でも、今度は私に目標が出来ちゃいましたから!」

そう言って少し歩を早めて、和葉は浸より先に進んで振り返る。

夕焼けに照らされながら真っ直ぐに浸を見て、和葉は屈託のない笑みを浮かべた。

「私は、今の日常を守りたいです! 浸さんと、つゆちゃんと、絆菜さんと一緒にいる毎日を! だからやっぱり、強くなります!」

和葉の言葉に、浸は少し驚いてから目を細める。

いつの間にか自分なりの目標を見つけて、前へ進もうとしている和葉が眩しくて愛おしい。浸はその場で立ち止まって、和葉を見つめた。

「……はい。私も同じ思いですよ……早坂和葉」

「ふふ、おんなじですね、雨宮浸さん!」

和葉が屈託のない笑みを浮かべてそう言うと、浸は目を丸くした。

「……何故急にフルネーム呼びなんですか……?」

「浸さんの真似でーす!」

和葉はおどけてそう言って、少しだけ恥ずかしそうに石段を先に降りていく。そんな背中を見守っている内に、浸の隣を露子と絆菜が通り抜けていく。

「あり得ない! 目玉焼きはケチャップ一択でしょうが!」

「しょうゆ以外考えられん。ケチャップをかけるとうまいのか?」

「卵とケチャップは王道よ王道! オムライスにもかけるでしょうが!」

そのままなんとなくしばらく見守っていると、和葉が振り返る。

「浸さん! ほら、帰りましょう!」

「はい。今行きますよ」

頷いて、浸は歩き始める。

浸も、思いは和葉と同じだ。

和葉を、露子を、絆菜を、みんなを守りたい。そのためにこれからも戦い続けると強く決意する。

才能がなくても、それでも前に進み続けると決めたのはずっと昔のことだ。それは今も変わらない。

「私は……戦い続けますよ、城谷月乃」

この場にいない師にそっと告げて、浸はまっすぐに前を見た。

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