すごい剣幕で怒鳴られるのを覚悟で、おれはルティたちのことをミルシェに話した。いつでも謝れるような姿勢を取ろうとしたが、彼女から返ってきた反応は予想に反して穏やかなものだった。
「そうですのね、ルティが……。あの子って、変な運命を呼び寄せてしまうのかしらね。そう思いません?」
「ま、まぁな。心配じゃないのか?」
「ふふっ、心配なのはアックさまの方でしょう? 先程から落ち着かない様子を見せていますわよ?」
「……む」
そんなに必死な形相をしていただろうか。しかし現実問題としてあの湖村が過去だとしたら、彼女たちを過去に置いてきてしまったことになる。あそこの亡霊たちの依頼を遂げていない以上は、もう一度行けそうな予感もあるが。
いずれにしてもギルドに加入して、真面目にスキルを上げておく必要がありそうだ。
「ねえねえ、ミルシェ? わたしのことは聞かないの? わたし、フィーサなんだよ?」
「そんなのは知っているわ。その姿、その話し方……成長でそうなったということなのでしょう?」
「どうして分かるの!?」
「……聞かなくても大体分かることだわ。それより、アックさま」
ミルシェはフィーサに対し、何を今さらといった顔をしている。
「どうした?」
「アックさまを見つけた時のことなのですけれど、ボートの中ではなく、あたしの足下に流れ着いて来たものがありますわ。気になったので、ラーシュさまに見られる前に拾っておきましたけれど……」
「うん?」
ミルシェはごそごそとベッドの床下から何かを取り出す。大きさや形を見る限り、それほど大きなものでは無さそうだが。
「これですわ! このお部屋に隠して置いていましたの」
「――あ! そ、それは……」
「アックさまのものなのでしょう? 身に着けられている腰衣に似た色をしていますわね。大事なものなのにあたしが拾うことになるだなんて、アックさまらしくない不注意ですわね」
「そうだな、ごめん。助かった」
「わ、分かればいいですわ」
ミルシェの手元からおれの手元に引き寄せると、魔法文字が浮かんだ。
【EXレア ハイドロ・ガントレット 霊獣の守り Lv.820】
「これは――! あの時のものか」
「何です?」
「イスティさま、驚きすぎ~!」
「あぁ、いや……ミルシェのそれはガントレットという装備だ。両手に装備するものなんだが、途中で行方が分からなくなっていたものなんだ。助かったぞ、ミルシェ」
「そうでしたのね。それは何よりですわ」
例によって、再生された装備は健在でも湖底のヌシだったシリュールの姿がどこにもない。もしかすればシリュールは、この湖村にミルシェがいることを知っていて装備を託したのだろうか。
そうなればトラウザーのラーナのようにまたどこかで現れるかもしれないな。それにしてもつくづく水装備ばかりだ。以前ガチャで出した時は中途半端な炎系装備だったが、忘れ去られたシリーズは水属性装備ということなのだろうか。
「ミルシェ。ここからラクルまでどれくらいだ?」
「ラクルでしたら歩いて行ける距離ですわ。あたしはラクルからここへ来ましたの。残念なことに、あたしが以前いた水底神殿が沈んでいましたから」
「え、そうなのか? じゃあラクルは無事なんだな?」
「話を聞いていませんでしたの? 至極平和ですわ。沈んだのは神殿の辺りだけですわね」
南アファーデ湖村の亡霊が気になることを言っていたのは、神殿のことだったようだ。そういえば聖女エドラごとあの洞門を崩したが、地形ごとを変えてしまったか。
「ふわぁぁ~……。イスティさま、外に行かないの~?」
「……話の邪魔をしてくるだなんて、姿はともかく小娘以下ですのね」
「む~! そういうミルシェは、おば――」
「な、何ですっっ――!?」
ミルシェとフィーサもあまり相性が良くないみたいだな。
「――っとぉ、ミルシェ。ギルドに誘われたことだし、村を案内してくれないか?」
「い、いいですわ。先にたどり着いたあたしが、アックさまをエスコートさせて頂きますわ!」
「イスティさま、わたしは剣に戻るね。一緒に連れて行ってくれる?」
フィーサはそう言うと、輝くプラチナに姿を変えて見せた。
「あ、あら? 宝剣……にしては、随分と派手になっていますわね。以前はもっと地味な……」
「ミルシェも地味になったなの! わらわは常に輝いているなの!!」
「宝剣から神剣に変わったってことを伝えてなかったな。すまん」
「ど、どうでもいいことですわ。小娘以下なのは変わりようがありませんもの」
「む~~!!」
ミルシェとはまだまだ話足りないが、実在の村を見て回ってそれから考えることにする。
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