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マッドハッター 〜 シン高地にて 〜


今、アルマロスはシン高地という高地をゆっくり進んでいる。目的地の<ロパライア>まで約五日かかる。それまで長旅になるのだが物資などの在庫を考えて、町が点々とあるルートをアルマロスに通ってもらっている。流石に町の中をアルマロスが歩くのは危険すぎるので一度降りて、町の外でまたアルマロスに乗る。非常に面倒くさいし、手間が掛かるが仕方ない。

私は、欠伸を一つして地図とにらめっこすることをやめた。


「お疲れですか? 主。」


肩を揉みながら、問いかけてくるクロウ。私は返事をする気力もなく、重々しく頷いた。


「少し、お休みになられては如何でしょう? アルマロスを巨大化させたり、縮小させたりと魔力を使いすぎです。」


「仕方ないだろう? 移動は、アルマロスが頼りなんだ。やつがいないと今頃私達はこの高地のど真ん中で死んでるぞ。」


「ですが、<ユナティカ>を出てから早二日が経ちましたが、すでに顔色が悪いですよ。これでは、<ロパライア>に着く前に倒れてしまいます。後のことは、私に任せてベッドでお休みください。」


クロウに背中をぐいぐいと押された私は、渋々寝室へと足を運ぶ。背後でスパイキーとスパイクの声がした。多分、今日の晩ご飯について話し合っているのだろう。なんだか、クロウがここにきてからというものかなり馴染んできたなと思う。


「はぁー…。」


帽子のつばを前に引っ張り、枕に後頭部を埋める。こんな時帽子が脱げないことが非常に不便だ。そして、地味に睡眠のストレスになる。


「…。」


私はまた、欠伸を一つして瞼を閉じる。クロウの言う通り、魔力の使いすぎなのかかなり疲れているらしい。前はこんなことはなかったはずなのに、と考えている間に自分が完全に意識を手放したのがわかった。久しぶりの睡眠だ。どんな夢を見られるのだろうか。


その夜、私は夢を見た。視界に広がる暗闇。そこに呆然と立ち尽くしていた。

私は一瞬、地獄に来たのかと思ったが、これは夢だと理解するのにそう時間はかからなかった。


「ずいぶんと意識がはっきりする夢だな。気味が悪いよ。」


帽子を整えていると、何かが這いずる音が周りから聞こえた。後ろを振り返ると何かの尾が暗闇の中へ消えた、いや。身を隠したのだ。


「…ただの夢、というわけじゃないらしい。それに、思い出したぞ。この感覚。」


正確には、<現実世界>では思い出せないだけ。いや、思い出させないように術でも使っているのだろう。なんとかしたいがここが夢である以上は<ヤツ>の領域だ。


フフフ…。


這いずる音とともに女性の笑い声が聞こえてくる。這いずる音が徐々に近づいてくると、暗闇の中から、爬虫類の持つ特徴的な鱗を纏った長ったらしい巨大な体が私を囲むようにうねっていた。やがて、這いずる音が止むと、正面からクスクスと笑う声が今度ははっきり聞こえてきた。


「フフフ、嬉しいわ。私を覚えててくれたのね? ハッター?」


「夢の中でしか思い出せないのが少し残念だ。現実でも忘れないように術の許可がほしいんだがな? 夢の魔女<イドーラ>。」


ようやく姿を見せたのは美しき女性。顔つきは何処にでもいるような顔をしている。目は黄金色に輝き、髪は海のようにうねり艶がある。人としてならば男を簡単に虜にできるだろう。しかし、ヘビのような体をしている下半身を除けば、の話だ。

夢の魔女<イドーラ>。その名の通り、人の夢を支配する力を持っている邪神。夢の中が彼女の領域であり、思いのままに操ることができる。

過去に、夢の中で彼女に遭遇したがろくな目にあっていないので思い出したくない。


「数十年前、貴方とクロッカーが私を崇めていたカルト宗教を崩壊させて以来、私は貴方達から文字通り尻尾を巻いて逃げるしかなかった。そんな憎らしい相手にまさかここ、エスタエイフ地方で再会できるなんてね?」


背後でガラガラヘビのように尻尾を震えさせては、獲物を見る目で私を見下ろすイドーラ。彼女は身を屈ませ、私の顔を除くように、舐めるように見てくる。

「クロッカーの死。人間どもの夢伝で聞いていたけれど、どうやら本当らしいわね? 目の前で大事なお師匠様を助けられなくてさぞ悔しかったでしょうね?」


「どうだかな。お前こそ、自分の手で葬られなかったことが悔しいんじゃないか? 自分を崇めてくれる人間、そして豪華な供物、玉座のような自分の偶像をじじいにめちゃくちゃにされた女王様気分から一気に引きずり降ろされた気分は、どう?」


「きぃぃいい!!」


イドーラはガラスを爪で引っ掻いたような金切り声をあげると、体を伸縮させ、私の体に巻き付けた。私はギザギザになった歯を見せるように笑って見せる。イドーラの顔は怒りに満ちていた。煽るどころか煽り返された事が効いたようだ。


「お前が呪いにさえかかっていなければ、ここで八つ裂きにしてやるのにっ!」


「おー、こわ。」


「でも、死ななくても貴方を痛めつけることはできる。まずはそのムカつく舌をひっこぬい…グギャア!?」


私は手に持っていた杖で体に巻き付いているイドーラの体を思いっきり突いた。杖の先はヘビのような鱗に覆われた堅い体をも簡単に傷つけたのだ。


「痛い!痛い痛いいたぁい!!」


イドーラは痛みのあまり巻き付けていた体を緩めた。その隙をついて私は抜け出すことができたのだ。イドーラは、杖で傷つけられた箇所を押さえて涙目で私を睨んでいた。苦痛と怒りと困惑が入り混じった様子だった。


「痛いじゃない! 何すんのよ、それにどうして私に攻撃がっ!?」


「お前、クロッカーがただ死んだと思っているのなら大間違いだぞ。」


私はクロッカーのくれたコープス・ステッキをイドーラに見せるように振って見せると後退りした。


「おのれ…クロッカー、あのくそジジイ!! 死んでも尚、私の行く手を阻むと言うの!?」


クロッカーのことだから何かしらの耐性を仕込んでいるとは思ったが、やはりイドーラ対策として杖に術をかけてくれていたらしい。やれやれ、食えないジジイだ。


「とことんムカつくジジイだろう? だが、こればっかりは死んでからは責められないな。」


私は杖をくるくると振り回し、フェンシングのように杖を構えるとイドーラを暗闇の中へと後ずさりさせていく。


「くっ…。」


「どうする? まだやるか。今ならクロッカーの杖を通じて私の力を使えそうだ。その練習台になってもらってもいいんだぞ? レディー?」

私もじりじり近づいていくと、イドーラは悔しそうな顔で見を翻して暗闇の中へと逃げていった。尻尾を強く叩くと床にヒビが稲妻のごとく走り、やがてヒビが床全体に広がると、ガラスが割れるような音とともに私は、落ちた。



「ッハ!」


目が覚め、体をゆっくり起こす。私はどのくらい寝ていたのだろうか。体を伸ばしながらどんな夢を見たのか思い出そうとしたが、思い出せない。けど、なんだか懐かしい? ような夢を見た気がする。

私は大きく欠伸をした、と同時にドアのノックが聞こえた。


「主、クロウです。入りますよ。」


「ん、入れ。」


クロウがティーセットを手に入って来た。目覚めの紅茶を持ってきてくれたらしい。欠伸をもう一つすると、クロウは作業用のテーブルで紅茶を急いで淹れ、私に淹れたての紅茶を渡してきた。


「何か、いい夢でも見れたんですか?」


「んあ? いいや、内容を覚えていないからなんとも言えないな。今どの辺だ?」


「はい。シン高地を抜ける前にある小さな町の前に。アルマロスはあの見た目によらず賢いようで、町の手前で大人しく静止しております。」


「どうだかな…。」


「それと、これを。」


クロウが手のひらサイズの小包を私に渡してきた。差出人の名前は<クロッカー>。それを見て私は眉間にシワを寄せた。なぜなら、クロッカーはすでに死んでいる。なのに、その死んだ人から荷物が届くことに疑問しかなかった。


「…なにかのいたずらか?」


「いいえ、この字は間違えなく彼の字ございます。恐らく、死ぬ前に出していたものと思われます。」

長年、クロッカーのそばにいたクロウが言うのだから間違いではないらしい。私は小包の包装を解いていくと、一枚の手紙があった。


拝啓 バカ弟子へ


この手紙を読んでおるということは、わしは既に死んでるのだろう。

お前にクロウと杖の他にもう一つ。

わしからお前にこれから先、役に立つものを授けよう。

きっと、お前の助けになるとわしが保証しよう。

死んでいたら保証もクソもないが、ないよりかはましだろう。

先に逝っておる。あの世にきたら、一杯奢ってやろう。

さらばだ。我が友よ。


親愛なる師 クロッカーより


手紙を黙読し終えると、クロウに手紙を渡した。箱を開けると、中には<ドリームキャッチャー>が一つ入っていた。


「我が主、それは?」

「<ドリームキャッチャー>だ。こいつがどう役に立つのか…見ものだな?」


<ドリームキャッチャー>。柳の枝を曲げた輪に糸を張って蜘蛛の巣に見立てて、悪夢を捕らえて防いでくれるように願って作られた魔除けの装飾品。これはクロッカーの手作りしたものと見た。しかし、枝に小さく何か術を文字にして刻んだ後がある。小さすぎて見えないためなんて書いてあるのかわからない。


「まあ、魔除け効果があるのはいいことか。」


<ドリームキャッチャー>を左の裾の中へしまい、残りの紅茶を飲み干した。カップをクロウに渡してベッドから出て、外に出る準備をする。


「やはり、行かれるのですか?」

「当たり前だ。この先何があるかわからんからな。用心に越したことにないだろう?」


手をパチパチ叩くとクロウは本来の姿、カラスの姿になり私の後をゆっくり飛んでついてきた。


「さあ、行こうか。ここが最後に寄る町。<クルデン>だ。」


クロッカーから送られてきた<ドリームキャッチャー>。これが後に、とんでもないモノになるとはこの時の私は予想もつかなかったのだ。

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