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自閉症の親友
会議の画面越しに上司の声が響いている中、
かすかに聞こえた横から聞こえる小さなすすり泣きに、俺はマウスの動きを止めた。
莉犬の体が、さっきからずっと小刻みに震えてる。
目はうつろで、手の指をぎゅうっと握ったり開いたり。
自分の服の袖を噛んだり、手の甲をこすったりしてる。
「……莉犬、大丈夫?」
小声で問いかけるけど、こっちを見ない。
「やだ……やだやだぁ……」
声が漏れた瞬間、莉犬の目からぶわっと涙がこぼれた。
「うわああぁあぁっ!!!」
叫びながら、床に座りこんで、ばたばたと足を動かす。
耳を塞いで、腕を自分で叩き始めた。
「――莉犬! だめ、やめよっ? 」
俺は急いで会議をミュートにして立ち上がり、莉犬に駆け寄った。
だけど、俺の声も届いてない。耳も、きっと音でいっぱいだ。
「聞こえる? 俺の声、聞こえる?」
そう言っても、莉犬は遠くを見てる。返事はなくて、ただ「やだやだ……やだぁ……」って、震えた声が続くだけ。
俺はすぐに部屋の照明を落として、間接照明だけにした。
パソコンの音も止めて、カーテンも閉めて。
スマホの通知音まで全部切って、静かな空間を作る。
「うるさかったね、ごめんね、大丈夫、大丈夫」
そう言いながら、莉犬のそばに座って、そっと背中を撫でる。
最初はびくっと震えてたけど、撫で続けると、だんだん体の緊張が緩んでくる。
息がひゅっ、ひゅっ、て浅いままだけど、さっきより落ち着いてきてるのがわかる。
「……さと、ちゃ……?」
小さく名前を呼ぶ声が聞こえて、俺はそっと笑った。
「うん、俺だよ。ずっとここにいるよ」
莉犬は俺の胸元に顔をくっつけるように倒れこんできた。
ぐずぐずと鼻をすすりながら、俺の胸にぴったりくっついて――しばらくすると、小さく「とくん、とくん」と俺の心音を聴きはじめる。
「……さとちゃんの、おと……すき……」
そう言うと、莉犬はくすぐったそうに「へへっ」て、ちょっとだけ笑った。
さっきまでぐちゃぐちゃだった顔も、少しだけ笑顔に戻ってきてる。
涙のあとをぬぐってやりながら、俺はそっと髪を撫でた。
莉犬は俺の腕の中で、くたりと力を抜いて、まるで赤ちゃんみたいに眠りに落ちていった。
その頬には、少しだけ残った涙のあとと、小さな“安心”があった。
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