街はクリスマスカラーで彩られ、イルミネーションが点灯し始めた。道行く人たちは浮足立ち、恋人同士が寄り添い幸せそうにしている。
それなのに心が凍り付いたままの自分の目には、紗が掛かったように、すべての物が灰色に映る。
今から4年前、晴れて青空が広がりうららかな日の出来事だ。
キッチンで調理している私の横で、冷蔵庫を開いた妻が声を上げた。
「あー、牛乳買うの忘れちゃった。ちょっとコンビニに行ってくるね」
少しお腹が目立ち始めた妻は、無意識にお腹を擦っていた。
「歩くの大変だろう? 私が行ってくるよ」
「牛乳だけだし、そのまま料理お願いしてもいい? だって、翔也さんの作ったパスタの方が美味しんだもん。それに少しは運動した方がいいってお医者さんからも言われたの。大丈夫だから、いってくるね」
パタパタとサンダルを履いた妻がふわり微笑む。
「翔也さん、直ぐに帰って来るからね」
玄関を出て行く妻の背中を見送った。それが、元気な妻の最後の姿とは考えもせずに……。
なかなか帰ってこない妻の携帯電話はつながらず、パスタも冷めきった頃、一本の電話が掛かって来た。
「はい朝倉です」
「……朝倉亜希さんのご主人でいらっしゃいますか?こちら北浜警察署です。落ち着いて聞いて下さい」
抑揚のない声に、息が詰まる。
自分自身の心臓の音が大きく聞こえ電話先の声が遠くなった。
それでも重要な内容を聞き逃してはいけないと、震える手を動かしメモを取る。
警察からの電話を切ると財布と携帯電話を掴み、慌てて玄関へと向かう。
ついさっき、この玄関で見送った妻は微笑んでいたのに……。
信じられない思いで病院へと急いだ。
タクシーで病院に駆け付けた時には、心拍計はフラットの状態で看護師が付き添っていた。
目は閉じられベッドの上に横たわる妻。その妻の赤く擦り傷のついた頬に手をあてると仄かに温かく感じる。
もう、二度と目を開けて微笑む事ができなくなった妻の横で呆然と佇む事しか出来ずにいた。
直ぐに帰って来ると微笑んでいた妻は、コンビニ手前の横断歩道を渡っている時に車に轢かれてしまったのだ。
何故、あの時、一緒に行かなかったのか。いや、自分が買い物に行けば良かったんだ。そうしたら彼女もお腹の子も助かったのではないか。
そう思わずにはいられなかった。
その日以来、心の中は冷え切ってしまい何を聞いても、何を見ても気持ちが動かない日々が続いていた。
景色は色を失い、心が凍り付いている。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!