こんばんはtakuです。
昨日は熱と頭痛があったので出すことが出来なくて申し訳ありません。
いいねありがとうございました。
前回の続きからです。
第6話 逃走衝動
訓練後の更衣室は、やけに静かだった。
シャワーの音も、誰かの雑談もない。
あるのは、ロッカーの扉が軋む音と、
自分の呼吸だ け。
(……逃げたい)
不意に浮かんだその言葉に、
僕は自分でぎょっとした。
逃げる?
誰から?
何から?
答えは分かっているのに、認めたくなかった。
タオルで髪を拭きながら、鏡を見る。
そこに映る僕は、いつもと同じ顔をしているはずなのに、どこか怯えて見えた。
「……情けないな」
呟くと、声が少し震えた。
かっちゃんの腕の感触が、
まだ肩に残っている。
守られているはずなのに、
息が詰まったあの瞬間。
轟くんの冷えた視線が、
その場を切り裂いたこと。
どちらも、優しさのはずなのに。
(どうして、こんなに苦しいんだ……)
ロッカーを閉め、出口へ向かう。
二人と顔を合わせる前に、少しだけ、
一人になりたかった。
廊下に出ると、夕日が長く伸びている。
訓練場とは逆方向へ、足が自然と向いた。
「デク」
背後から、呼ばれる。
心臓が、跳ねた。
振り返ると、かっちゃんが立っていた。
いつもの苛立ちを纏った顔。
でも、目だけが違う。
「……さっきの」
言いかけて、言葉を切る。
「お前、避けてんだろ」
その一言で、胸の奥が締め付けられた。
「そ、そんなこと…..」
否定しようとして、声が出ない。
(嘘だ)
避けている。
視線も、距離も、無意識に。
かっちゃんが一歩、近づく。
「俺は、お前が怪我すんのが嫌なだけだ」
分かってる。」
分かっているから、苦しい。
でも……」
言葉を探していると、今度は反対側から足音がした。
「出久」 轟くんだ。
二人に挟まれる形で、俺は立ち尽くす。
「体調が悪いなら、今日は休め」
「無理をする必要はない」
同時に伸びる言葉。
同時に、俺を見る目。
(やめて……)
頭が、ぐらりと揺れた。
声が、掠れる。
「少し、一人になりたい…..」
その瞬間、二人の表情が、
はっきりと変わった。
かっちゃんは、驚いたように目を見開き。
轟くんは、わずかに眉を寄せる。
かっちゃんが低い声で、
「…..俺が、悪いのか」
「違う!」
慌てて否定する。
「違うんだ……二人とも、悪くない…..」
でも、だからこそ。
「……怖いんだ」
言葉にした瞬間、胸が痛くなる。
「二人が、優しいのが」
風が、僕たちの間を通り抜ける。
「僕、こんなこと思っちゃいけないのに……」
拳を握りしめる。
「…..逃げたいって、思ってしまった」
かっちゃんの歯が、ぎり、と鳴る音がした。
轟くんは、何も言わず、ただかっちゃん
を見ている。
(嫌われたかもしれない)
そう思った瞬間、胸がひどく苦しくなった。
「ごめん……!」
そのまま、僕は踵を返した。
追いかけてくる足音は、なかった。
それが、余計に辛かった。
走りながら、涙が滲む。
逃げたかったのは、二人からじゃない。
“二人を大切に思ってしまう自分”からだ。
でも、一度芽生えた衝動は、
簡単には消えない。
この均衡は、 もう戻れないところまで来ている。
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