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7話 「ルーラとの日常」
救出から三日。
ルーラはまだ俺たちの家の隅でじっとしていることが多かった。
食事のときも声を掛けなければ動かないし、話しかけても短い返事しかしない。
「ねえ、本当にこの子、大丈夫なの?」
ミリアが小声で耳打ちしてくる。
「大丈夫だ。……たぶん」
自信はなかったが、不思議と追い出す気にはなれなかった。
そんなある日、俺が昼寝から目を覚ますと、台所から良い匂いが漂ってきた。
行ってみれば、ルーラが鍋をかき回している。
「……何してる?」
「……スープ」
小さく答える声。鍋の中では野菜と香草が煮込まれていた。
一口食べて、思わず声が出た。
「うまいな、これ」
ルーラの肩がぴくりと揺れる。照れているのか、ただ黙って鍋を見つめた。
それから少しずつ、ルーラは家事を手伝うようになった。洗濯も掃除も手際がいい。
夜、食後にミリアとカード遊びをしていると、ルーラがそっと覗き込んできた。
「やる?」
差し出したカードを、おそるおそる受け取る。まだ表情は硬いが、その目は少しだけ柔らかくなっていた。
――こうして、のんびりとした日々がまた始まった。
だが、静かな湖面ほど、深く揺れる前触れを秘めているものだ。
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