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8話 「依頼とルーラの異変」
この日の依頼は「薬草採取」。
山の中で少し歩くだけ、俺の理想的なのんびり仕事だ。
「ねえ、本当に護衛もいらないような依頼でいいの?」
「いいんだ。危ないのは寝不足の方だ」
「……開き直ってるわね」
そんな軽口を叩きながら山道を進んでいたが、ふと背後で足音が止まった。
振り返ると、ルーラが険しい顔で立ち止まっている。
「……来る」
短い言葉に、空気が一瞬張り詰めた。
次の瞬間、茂みから牙を剥いた猪型の魔物が飛び出してくる。
ミリアが剣を抜くよりも早く、ルーラの手が前に伸びた。
――風が鳴った。
魔物はまるで見えない壁に叩きつけられたように吹き飛び、木に激突して動かなくなった。
「……今の、何だ?」
俺とミリアは同時にルーラを見る。
彼女は自分の手をじっと見つめ、小さく震えていた。
「……わからない。でも、怖くはない」
その日、採取は予定通り終わった。
だが帰り道、俺の頭の中にはルーラの「風」の感触が残っていた。
あれはただの偶然ではない。
そして――あの瞳の奥には、まだ俺たちの知らない何かが眠っている。
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