5月4日
入学式の一件は昨日のように覚えている
だかそんな呑気なことは言ってられない。
なぜなら三年生は学力調査があるからだ。
夕暮れ時、静まり返った図書室でカウンター当番の仕事をこなしながら
参考書を開き、黙々と問題を解いていた。
幸い、この時間は本を借りにくる生徒は少ない
おかげで勉強が捗るからそんなことはどうでもいいが。
「すみません。本、借りてもいいですか?」
透き通った声が静寂を遮った。
「あっ…、すみません気づかなくて,」
「いえ、3年生って大変ですね」
そよ風がカーテンを揺らし彼女は窓の外をそっと見た。
「桜、少し前まで満開だったのにもう散り始めてますね、」
花が好きなのか、彼女の借りた本は花言葉についてのものだった。
「花、好きなの?」
私の問いかけに微笑みながら静かに答えた。
「えぇ。舞い落ちる姿でさえ美しく、人々の心を魅了するところが」
「私の名前は”つぼみ”だから一生咲かないままなんですけどね、笑」
そういい彼女は自然な笑みを浮かべた。
「私、咲(さく)っていうの。」
「だから、なんだか私たちって対照的だね笑」
「そうなんですか!じょあサク先輩ですね笑」
キーンコーンカーンコーン〜♪
完全下校時刻のチャイムが鳴る
「あ,もうこんな時間。勉強中失礼しました、さようなら」
「あ、また来てね、」
そういうと、彼女は足早に図書室を立ち去った。
7月31日
時が過ぎるのは早く、初夏の匂いを感じていた
気温は30℃を超えていたため,教室内の空気もじめじめしていた。
明日からは夏休みが始まる
「あっちぃーーー先生ぇー冷房つけてーー」
「まだ7月なんですけど〜!」
クライメイトたちは口々に文句を言う。
「これぐらい我慢しなさい!窓際の人窓開けてくださーい!」
この先生は本当に考え方が古い。
いや、この学校に金がなくて冷房をつけたくないのか否や
女子たちが持参した汗拭きシートやスプレーの匂いが鼻を刺激する
「えぇー。皆さんご存知の通り,明日からは夏休みです。」
「ですが、皆さんは受験生ということを忘れないで下さいよ!!」
ざわざわ
「よっしゃぁあ!今日久々のオフだからどっか寄ってこうぜー!」
「さんせーい!」
誰も先生の話など聞いていないようだ。私もそのうちの1人だが。
今日は終業式ということもあり、午前授業だった。
まだ辺りは明るいし、どこか寄って帰ろう。
8月14日
ミーンミーン。
夏休みがはじまり、2週間が経過した。
特に変わり映えもなく、なんとなく1日を過ごしていた。
家と塾を行き来するだけの生活。こんなのでは息が詰まってしまいそうだ。
何か刺激が欲しい。そう思っていた。
真っ直ぐ家に帰ったとしてもやることはただ勉強。
息抜きがてら、とある神社へと向かった
ここは風通しがよく、人があまりこない。私にとってはうってつけだ。
時刻は午後3時。気温は頂点に達していた。
「あぁー。暑い…」
蝉時雨は静まるどころか大きくなる一方だ。
いつも腰掛けているベンチの方を見ると先客がいるようだ。
「つぼみちゃん,久しぶり。こんな所で会うなんてびっくり…笑」
内心,すごく驚いたがとても嬉しかった。私の夏休みは一気に彩りついた
「え、サク先輩…お久しぶりです」
以前話した時よりもなぜかよそよそしい。
いつも綺麗に整えていた髪も今日は少しぼさついている。何かあったのだろうか?
「先輩、私人を殺してしまいました。」
「えッ、!?」
頭の整理が追いつかなかった。どうして、だれを?、どうやって? 聞きたいことは山ほどあった。
だが、私が問いただす前に全てを話してくれた。
つぼみ)私,母子家庭なんです。って言っても父親は生きてます
でも愛人との子供ができて、そのまま家を出て行きました。
その後,母は私に過保護気味になって。まあ、所謂毒親ってやつですかね、笑
生活も、友人関係も、すべて母の管理の上でした。
もう耐えられなくなって、階段から突き落としたんです
表向きは事故死、ということになっています
怖くて自首できない私はとんだ親不孝者ですね、笑
さく)ッ、
こういう時、どうすればいいのわからなかった。目も合わせられない
どうしよう、どうしよう、彼女が捕まってしまう…
太陽は私たちの感情とは裏腹にキラキラと輝いていた。
さく)一緒に逃げよう。どこか,見つからない、遠くへ行こう
つぼみ)え、?
自分でも何を言っているのかわからない。けれど自然と言葉がでていた。
彼女1人で抱えるには重すぎる悩みだ。神様はなんて不平等なんだろう。
心優しい彼女は自首するか,自分で命を絶つかのどちらかだとおもう。
既に彼女の目には光が灯っていない
つぼみ)…先輩、私の為に人生を捨ててくれますか?
バシャッ‼︎
水飛沫が舞う。私は自分の水筒に入っていた水を自分の頭にかけた
さく)勿論。これが、私の覚悟。
嘘ついたら,”針千本飲ます” でしょ?
つぼみ)指切り、しましたっけ?笑
さく)あ…たしかに
つぼみ)先輩、小指出してください
さく)うん
そうして2人は小指を交え、お決まりの台詞を唱えた。
“指切りげんまん 嘘ついたら針千本飲ます”
つぼみ)裏切ったら、本気で飲ませます
さく)縁起でもない笑
さく)ねぇ、何かやり残したことってある?
つぼみ)… 水族館に行きたい。あと、夏祭りも。海にも
さく)いいよ、全部叶えよう。罪を償うのはこの後でも遅くないと思う
最後にいい思い出作ろう、ね?
つぼみ) …うん、!
小悪魔のように笑う彼女はいつもより幼く見え,
口の端から見える八重歯はさらにそれを引き立てた。
それから日が暮れるまで語り明かした。
時刻は午後6時を回っていたが,まだ空はオレンジ色で明るかった。
出発は3日後。この日2人はこの町から姿を消す。
行先なんてどこにもない。ただ,進むだけだ。
誰にも見つからない場所へ。
三年間過ごした友達も。昔遊んだあの公園も。もうすべて捨てる、彼女の為に_。
episode2 終
〜筆者のあとがき〜
2600字お疲れ様でした! 書くの大変でした➰📝
長く間が空いてしまってすいませんでした💧🙏🏻
全然ストーリーの先が見えなくて、、
なにか、アドバイスがあったら是非お願いします🙇
コメント
4件
お名前のくだり大好き…💘 ガチで文才ありすぎんか📕 わけてほしいもん…ww! こういうシチュ大好きすぎる…🫶 言葉で表せないくらいの神作をありがと😭💖終わり方が特に好きすぎる…
待ってました〜!!!! マジで才能あると思う!ふつうに書籍化して欲しい