テラーノベル
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「おはよう…」 僕の声は、教室の空気にまるで雪のように溶けて消えた。返事などない。まぁいつものことだ。
僕は、この学年でいわゆる「嫌われ者」ということになっている。きっかけはもう覚えていない。誰かが言った小さな陰口が発展してるのか、僕が無愛想すぎたせいか。そして気づけば、僕の周りには見えない壁ができていた。
休み時間、一人で図書室の席に座る。そこだけが、僕に「席」を許してくれる場所だった。
「ねえ、横座ってもいい?」
突然、声をかけられた。内心凄く驚いた。顔を上げると、同じクラスの桜井さんが立っていた。彼女はクラスの中心にいる、いわゆる陽キャ、明るくて女子にも男子にも人気のある女子だ。
「……空いてるけど。僕の隣、嫌じゃないの?」
思わず本音が出た。彼女は不思議そうに小首を傾げた。
「なんで? 君、本好きでしょ?。この前、図書の先生と話してるの聞こえたんだ。すごく面白そうだったから」
それから、彼女は、 ほぼ毎日のように図書室に現れるようになった。僕たちは小声で、好きな物語の話をした。彼女は僕が「嫌われ者」であることを知らないのか、あるいは知っていて無視しているのか。どちらにせよ、僕にとってその時間は、凍った心に指を当てるような、奇妙な温かさと幸せさを持っていた。
ある日、クラスで事件が起きた。誰かの財布がなくなったらしい。
「どうせ、あいつだろ」
誰かがクスクス笑いながら僕を指差した。根拠なんてない。ただ、標的にしやすい「嫌われ者」がそこにいただけだ。周囲の視線が鋭い針のように刺さる。言い返そうとしても、喉が震えた。
「違うよ。彼はその時間、私と図書室にいたもの。ねぇ?」
静かな声が教室に響いた。桜井さんだった。クラス中が静まり返る。彼女は真っ直ぐに僕を見て、少しだけ微笑んだ。
「彼は嫌われ者なんかじゃないよ。ただ、みんなが彼の言葉を聞こうとしていないだけ」
結局、財布は別の場所で見つかった。僕への疑いは晴れたけれど、劇的な変化があったわけじゃない。相変わらず僕は一人でいることが多い。
けれど、放課後の下駄箱で、小さなメモを見つけた。
『明日の休み時間、続きを教えてね』
僕は「嫌われ者の僕」のままかもしれない。でも、世界にたった一人、僕の声を待っている人がいる。それだけで、明日も「おはよう」と言ってみる勇気が、少しだけ湧いてくる気がした。
コメント
5件
なんか、すごいね、うん
新作やん ノベル上手いね(馬鹿になんてしてないからね?)