テラーノベル
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そして、翌日の休み時間、僕は約束通り図書室に向かった。 いつもの窓際の席に、彼女はもう座っていた。机の上には、僕が昨日勧めた古い短編集が置いてある。
「……昨日、あんなこと言って、大丈夫だった?」
僕が座るなりそう尋ねると、桜井さんは悪戯っぽく笑った。
「何が? 本当のこと言っただけだよ」
「でも、僕と一緒にいると、桜井さんまで変な目で見られるかもしれない。君は、あっち側のにいたほうがいい」
僕が指差したのは、図書室の窓から見える、校庭で笑い合う一軍グループたちの姿だ。そこには彼女の「居場所」があるはずだった。
桜井さんは本を閉じ、真剣な目で僕を見た。
「あのね。みんなに好かれるために、思ってもないことに頷くのって、すごく疲れるんだよ。それって、一人でいるよりずっと寂しいことだと思わない?」
その言葉は、僕の中にあった「嫌われ者」という被害者意識を、静かに突き崩した。僕は自分が「拒絶されている」と思っていたけれど、同時に僕自身も、彼らを「理解不能な群れ」として拒絶していたのかもしれない。
「……読み終わったよ、これ」
彼女が本を差し出す。
「最後、主人公が自分の名前を思い出すシーン。あれ、君みたいだなって思った」
その本は、世界から忘れられた男が、たった一人の理解者によって自分の名前を取り戻す物語だった。
「僕の名前、知ってるの?」
「バカにしないでよ。出席番号4番、秋山くんでしょ」
彼女はカバンからペンを取り出すと、僕が持っていた貸出カードの隅に、小さく自分の名前を書き込んだ。
『桜井 結衣』
「これで、私たち共犯者ね」
何が共犯なのかは分からなかった。けれど、彼女が書いた文字は、僕の真っ白だった日常に落とされた、鮮やかなインクの一滴のように見えた。
チャイムが鳴る。教室へ戻る廊下、僕の半歩先を歩く彼女の背中を追いながら、僕は心の中で自分の名前を繰り返した。
嫌われ者の、秋山。
誰でもない僕から、名前のある僕へ。
教室のドアを開ける。相変わらず冷ややかな空気はそこにあったけれど、不思議と心臓の鼓動は穏やかだった。
「……秋山、ノート、ありがとな」
前の席の男子が、ボソッと呟いてノートを僕の机に置いた。昨日、僕が疑われていた時に彼が借りっぱなしにしていたものだ。謝罪の言葉はなかったけれど、彼の手は少しだけ震えていた。
世界が急に優しくなるなんて魔法はない。
でも、僕が僕を諦めなければ、物語は続いていく。
僕は筆箱からペンを取り出し、教科書の余白に、小さく今日の天気を書き込んだ。
「晴れ。少しだけ、風が温かい」
コメント
13件
たしかにAIっぽさ混じってる気がする
秋山裙か もしゃもしゃ(?)