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「そうかな? でも、何かさ、さっくんの目が、優しかったんだよ。女の人と男の子を見る、あの目が……」
「優しい?」
「何て言えばいいのかな……その、愛する人を見るような目?」
「うーん、まあ、咲結の言いたい事は何となく分かる気はする。とにかくさ、悩むくらいなら朔太郎さんに直接聞いてみれば?」
「ええ!?」
「ここでモヤモヤしてるくらいなら聞いた方が早いと思うけど?」
「そ、そりゃあそうかもしれないけど……」
「何にしても、既婚者って線はないと思うよ? もし結婚してたらアンタが告白した段階で断ってるわよ、普通」
「そ、そっか……」
「メッセージ打ってみれば? それか、どうしても話があるって電話してみるか」
「……どうしよう……でも、電話は迷惑だよね、まだきっと女の人たちと一緒に居るだろうし……」
「それじゃあ、メッセージ打ってみなよ。ね?」
「……うん」
優茉に促され、ひとまずメッセージを送ってみることにした咲結は、《ちょっと、聞きたいことがあるんだけど……》と送ってみる。
すると、すぐに既読表示が付くと同時に、朔太郎から電話が掛かってきた。
「も、もしもし?」
『何だよ、聞きたい事って?』
「えっと……あの……今、電話してても大丈夫?」
『ん? ああ、今はちょうど暇してたとこだから。つーか咲結は今どこにいるんだ? 家か?』
「ううん、あの……友達のところだけど」
『そっか、友達のとこか』
咲結と朔太郎の電話の様子を傍で見守っていた優茉は、『今から会えないか聞いてみな』と口パクで咲結に伝えると、それを読み取った咲結は迷った末、
「あの、さっくんが良ければ、今から会えない? 出来ればその、話、直接会ってしたくて……」
会えないかと朔太郎に訊いてみると、
『おー、いいぜ。それじゃ迎え行くよ。友達の家、どこなの?』
イエスの返事が返ってきて咲結は驚きながらも嬉しさに顔を緩ませた。
「あの、S駅の近くだから、駅まで来てもらってもいい?」
『駅な、分かった。ここからだと三十分はかからねぇと思うから、それくらいに着くように駅で待っててくれ』
「分かった! 待ってるね」
こうして急遽朔太郎に会える事になった咲結は、『心配ごとは全部聞いてきなさいよ』という優茉の助言を受けつつ、待ち合わせ場所の駅へ向かう事にした。
「咲結、待たせたな」
「ううん、私も今さっき着いたところだから」
「そうか? ま、乗れよ」
「う、うん……お邪魔します」
駅に着くと、丁度いいタイミングで朔太郎と合流する事が出来た咲結は促されて車に乗り込んだ。
「で? 話って何だよ?」
咲結がシートベルトを締めたタイミングで車を走らせた朔太郎は、前を向いたままそう問い掛けた。
「あの……その……」
「ん?」
問い掛けられた咲結は、どう切り出すべきか迷い、なかなか言葉に出来ずにいる。
そんな彼女の様子から余程言いづらい事なのかと思いつつもう一度問いかけようとすると、
「……さ、さっくんって……、子供いるの!?」
「――はぁ?」
突然の咲結の質問に驚いた朔太郎は、丁度赤信号で引っかかったタイミングという事もあり、何言ってんだコイツと言わんばかりの表情を浮かべながら咲結の方に顔を向けた。
「何なんだよ、いきなり。子供も何も、俺、結婚してねぇし、この前も言ったと思うけど、彼女もいないんだけど?」
「あ、そ、そうだよね。ごめん、話が飛び過ぎた」
朔太郎の言葉で、自分が飛んでもない質問をしたと気付いた咲結は謝りながら一旦深呼吸をすると、
「……その、実は……ね、昼間、繁華街でさっくんを見かけたんだ」
「昼間に、俺を?」
「うん、それでその時、さっくんが女の人と、男の子の三人で居たから……」
繁華街で見かけた事を話し、相手が誰なのかを問いかけようとすると、
「ああ、あれね……つーか、あれ見て咲結は俺に子供がいると思った訳ね。ははっ」
何で突拍子の無い質問をして来たのかが分かった朔太郎は笑いを堪えきれなかったのか、可笑しそうに表情を緩めながら、
「あれは、俺の尊敬する人の奥さんと、その子供。俺は送迎役で一緒に居ただけだよ」
事の次第を説明した。
「そ、そうだったんだ……ごめん、私勘違いして……」
「いや、別に良いけど。まあ、今まで考えもしなかったけど、傍から見ればそういう風に見えるのかもしれねぇな」
朔太郎から聞いて女性は恋人じゃない事が分かりひと安心したものの、尊敬している人の奥さんだからなのか、あの優しげな眼差しについては未だに気掛かりだったりする。
(……本当に、尊敬する人の奥さんってだけなのかな? 何だか家族みたいに親密そうだったけど……)
まだまだ気になる事は沢山あるけど、聞いてウザがられても嫌だと思った咲結はそれ以上質問する事はしなかった。