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眠りひめ
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イベント終わり、ステージ裏から楽屋へ戻る通路は、スタッフや出演者が行き交い、いつも以上に慌ただしい。
「すみません、通ります!」
機材を積んだ台車が何台も横切る。
柔太朗も人の流れに合わせて歩きながら、何気なく隣を見た。
……あれ?
少し前までそこにいた勇斗が、いない。
立ち止まる。
右、左と首を振って見ても見当たらない。
ほんの数秒。
それだけなのに、胸の奥がひやりと冷えた。
振り返った人混みの向こうに、
目深に被った黒いキャップが見えた。
見慣れた背中。
見つけた、そう思った瞬間。
「ーーはやちゃん!」
考えるより先に、声が出ていた。
自分でも驚くくらい、大きな声だった。
その声に、人混みの向こうの勇斗がゆっくり振り返り、目が合う。
一瞬だけきょとんとしたあと、ふっと目尻が下がった。
「柔太朗」
名前を呼び返される。
その声だけで、さっきまで胸を締めつけていた何かが、するりとほどけていく。
人を避けながらこちらへ歩いてきて、「いた」、と笑う。
本当に、それだけだった。
「ごめんごめん。スタッフさんに呼び止められてさ」
「……あ、そうなんだ」
何でもない会話。何でもない再会。
いつものこと。
本当に、いつも通り。
なのに。
さっき名前を呼んだ自分の声だけが、まだ胸の奥に残っていた。
「じゃ、行こ」
自然に隣へ並ぶ。
その距離に、また心臓が小さく鳴る。
どうして、あんなに必死になってしまったんだろう。
⸻
シャワーを浴びて帰ってきたから、あとは眠るだけだった。
手を洗って着替えて、部屋の電気を落とす。
静かな部屋のベッドに横になると、今日一日の出来事がゆっくり浮かんでくる。
人混み。
見失った背中。
思わず呼んだ声。
振り返った顔。
目が合った瞬間の、あの笑顔。
目を閉じても、何度も思い出す。
ーーはやちゃん!
あんなふうに名前を呼んだのは、いつぶりだろう。
……違う。
思い返しているのは、呼んだことじゃない。
呼ばずにはいられなかったことだ。
ほんの数秒、姿が見えなかっただけ。
それだけなのに、思っていたより、ずっと心細かった。
コメント
1件
うわぁ……これ、エモすぎるんだけど!!!!😭💕 たった“数秒見えなくなった”だけで胸が冷たくなるの、めっちゃわかる。呼ばずにはいられなかった衝動とか、ベッドで反芻しちゃう感じとか、心臓がぎゅってなる描写が刺さりすぎてる……。 「はやちゃん!」って呼んだ声がまだ胸に残ってる柔太朗、最高だよ〜〜〜!! この距離感、尊すぎて倒れる!!