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穏やかな風が吹く4月の公園。私がこの公園に来るのは何年ぶりだろうか。別に会いたい人なんていないし、特に目的もない。でも、来てしまった。またここに。
あれは小学4年の春だった。私の父は転勤が多い人だった。いわゆる転勤族だったのだ。その影響で私も転校を繰り返していた。
「これが最後の転勤になるだろう。」
そう言われて私たち家族はここ桜町に引っ越してきた。桜町は名前の通り桜の木がたくさんある町だ。春になると美しい桜の花が咲く。桜が散るころには道路は一面桃色の絨毯が敷かれる。私は内気な性格でなかなか友達もできない。だから今回もそうだろうと思ってた。でも、今回だけは別だった。
私は引っ越してきた新しい町がどんな町なのか知りたくて一人で散歩に出かけていた。かなりの時間を一人で歩いていたのだろう。歩き疲れてしまった私はたまたま見つけた公園でひと休みすることにした。少し離れたところでは同じくらいの歳の子たちがドッジボールをして遊んでいた。内心いいなと思いながらも私は気にしないふりをしていた。そんなとき、ふと何かが目に入った。石畳だった。近くで見てみると桜の形をしてる。その横には石碑があった。
「桜の形の石畳なんて不思議だなー」
私は石碑には見向きもせずに桜の石畳へと足を踏み入れていた。石を見つめていた顔を上げた。
「わぁ…綺麗…」
ちょうど石畳を中心にするかのように周りには桜の木があった。満開の桜は美しく、地面は桃色の絨毯のようになっていた。
「ねぇ…そこの君」
誰かが私を呼んだ。
「え…?」
振り向くとそこには同い年くらいの男の子。同じ石畳のなかに彼も立っていた。
「俺、君のこと見たことない。引っ越してきたの?」
「え?あ、うん。数日前に」
「ふーんそうなんだ。どうせまだ友達もできてないんだろ?俺らが一緒に遊んでやるよ。一緒にドッジボールしようぜ」
「え…?いいの?うれしい!」
「別に、ただの人数合わせだから。勘違いするなよ」
彼の言葉は当たりが強くて正直今聞けばいい気はしないだろう。でも、当時の私にはすごくすごくうれしく感じた。私と友達になろうとしてくれる人がいるんだってわかって少し安心もした。
夕方のチャイムが鳴り響く。楽しい時間も終わりを告げる。みんなが手を振って帰っていく。なのに彼だけは私に近づいてきた。
「なぁ、どこの小学校通うの?」
「えっと、桜木小学校」
「じゃあ俺と一緒じゃん。何年生?」
「よ、4年生」
「…学年も一緒なんだね」
「え?そうなの?!」
「うん。まぁどうせ同じクラスにはならないさ。この学校は6クラスもあるからね」
「そんなに多いんだ」
私の転校先であった桜木小学校は市内で一番大きな小学校で、各学年6クラスもあった。案の定、その後彼と同じクラスになることもなかった。でも彼は時々私に会いに来てくれて、一緒に遊んでくれた。小学校を卒業して中学に上がるとやばり彼とは一緒だった。中学生になっても彼は私と話してくれた。私のなかには少しだけ彼に好意の気持ちがあった。でも、彼は私のことなんか好きじゃないんだろう。そう思って片思いで終わらせていた。
ただただ平凡で幸せな日々が続いていた。そんなあなか、家に電話がかかってきた。急遽1週間後に転勤が決まり遠くに引っ越すことになった。中学1年が終わってもうすぐ2年生になるという春のことだった。私は悲しみを抑え普段通りに生活をした。明日引っ越すとなったとき、さすがに彼に伝えないとと思い、震えながらも彼にメッセージを送った。
「ずっと言えなくてごめんね。私は明日引っ越すよ。遠くにね。今までずっと仲良くしてくれてありがとう」
このメッセージを送った後に私は公園に向かった。彼と出会ったあの場所に。もう一度、桜の石畳に足を踏み入れた。まだ桜の絨毯は敷かれていない。ただ桜が咲いているだけだ。もうこの町ともお別れかと思いを噛み締めながら私は桜を眺めていた。
「おい!」
あの声に呼ばれた。
「なんで…なんでもっと早く言ってくれなかったんだよ…!おれ、たくさん話したいことあったのに」
「ごめん…」
「なぁ、また戻ってくるのか?大人になってからとかでもいいから」
「うん。きっと戻ってくるよ。この桜の石畳に」
「約束」
そう言って彼は私に小指を突きだした。
私が桜町を離れてから3ヶ月が経った。こっちの生活にも慣れてきていた。彼のことは少しずつ忘れていた。そして引っ越してから2年が経った。私は中学を卒業して近くの公立高校へと進学した。そこでも私は平凡な毎日を過ごしていた。とくに問題もなく、普通の女子高生として。高校を無事卒業し私は一人暮らしを始めた。大学に入学してからは忙しく感じた。大学での勉強にバイト。今までで一番つらい時期だったかもしれない。だからか私は心も体も疲れてしまっていた。そんな時にふと思い出したがあの石畳だった。今はちょうど春。きっと桜は満開だろう。そんなことを思っていたら無意識のうちに家を出ていた。早く行きたい。なぜかそんな気持ちが深まっていた。
「ただいま」
あの公園のあの石畳。私はまた足を踏み入れる。私はここで出会いと別れを経験している。もう一度…
「…あの…」
「え…」
そこにはあの頃の笑顔で微笑む彼。
「おかえりなさい。俺、帰ってくるって信じてた。信じててよかった」
「…ただいま…!」
「もう…俺から離れないで。本当は俺、あの時言えなかったけど、お前が好きだったんだ。」
「え…それって…」
「俺と付き合ってください」
「もちろん!」
桜が祝福するかのように散りゆく。紙吹雪のようだ。桜の絨毯は私たちを包み込むかのように花びらを舞い上げる。会いたい人なんていないなんて、目的なんてないなんて、そんなの嘘だった。私は…彼に会いたったんだ。
私が素通りしていた石畳にはこう書いてあった。
「桜の中で出会いましょう。
桜の中で別れましょう。
桜の中でもう一度。」