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『やばいっ…!!!ほんとにヤバいっ、』
初めての遅刻。
起きた時には8時半を回っており、入学式が始まるのは8時50分。
そして電車が来るのは40分で、どうしても間に合わない。
『はぁ…もう最悪。高校の一番最初に印象を与える入学式に遅刻?ありえない…もうやだ。あの人と同じ高校に行けたって言うのに…」
「ねえ」
『わっ!?!?』
諦めて駅のホームに死んだ魚のような顔で立っていたら、急に後ろから話しかけられた。
「あっ、驚かしてごめん。もしかしてその制服、〇〇高校?」
『え、あ、はい?』
思わずはい、と言ってしまう。まあ、合ってるけど。知らない人に高校の名前言っちゃうなんて、今日はもうなんていう厄日。
そう思いながら恐る恐る相手の顔を見たら、見覚えのある顔。
「…あ、やっとこっち見た。久しぶり」
『え…?み、湊?』
幼稚園の頃から親友の、不破湊。小学のときに引っ越して顔を見ることはもうないと思っていた幼なじみが今、私の目の前にいる。
「やっぱ瑠花だ。良かったあ、人間違いだったらどうしようかと…。」
『なんで、湊、帰ってきたの?』
「うん。一人暮らし始めたんだ。…てかそんなことより、同じ高校じゃん!ヤバすぎ〜」
『え、ほ、ほんとだ。』
チラッと湊の制服を見たら男用の、〇〇高校の制服で、本当に同じ高校なんだと分かった。
こんな奇跡、あるのだろうか。
「てか、瑠花も遅刻?珍しいねー」
『ほんとだよ…湊は相変わらずだね。小学の時から身についてるじゃん。』
「ちゃんと直そうと努力はしてます。」
そんな他愛もない会話をしながら共に電車に乗り、10分遅れで入学式に着いた。
これが、幼なじみとの2回目の出会い。
「瑠花って好きな人いるん?」
『えっ!?!?』
「そ、そんな驚く?びっくりしたぁ。」
ぼーって昔のことを考えてたら、突然の恋バナが始まった。
彼の口から、好きな人という言葉を聞くのすらおぞましいのにこんな会話しちゃっていいのかな。
『い、い…いる、って言ったら、どうするの』
「どうもこうも、応援するけど」
『………いる』
「へへっ、やっぱり?俺、そういうの当たるんだよね〜」
『いると思って聞いたの?』
「うん。…で、誰なの?」
急に立ち止まって、私の顔をじーっと見る。
優しい笑顔なのに、どことなく虚ろな目。
『えっと………。』
「言えない?」
『…うん、ごめん。』
「…そっかぁ。分かった。別に俺もそこまで探らないけどね!」
彼の、しょげた顔。その顔を見たら罪悪感が込み上げてきて、思わず貴方だよって言い出しそうになる。でも、今言ったら。
絶対振られるのが、目に見えた。
『ひ、雲雀は好きな人いるの?』
「うーん…いないけど、気になってる人はいるかな?」
「そ、なんだ。いいね。応援する。」
「はははっ!…いやいや、気になってるだけだから!今は俺の事より自分優先して?」
優しい笑顔で私の肩をとんとんと叩く。
さりげないボディータッチが、私の顔を熱くさせた。
『う、うん。ありがとう。』
「…じゃ、俺こっちだから。またね!」
『うん、また明日』
彼が手を振ってこちらを見るから、私もつられて手を小さめに振る。
私が手を振ったのを確認したら目を細めて、私に背を向けて帰っていった。
可愛い。
こんなに話しちゃっていいのだろうか。
そう思いながらも、私は鼻歌を歌いながら下手なスキップをして家に向かって帰っていった。
いつも通り、湊と登校をする。
湊は私の家の近所に引っ越したらしくて、それを知ってから一緒に登校するのが日課となった。
『湊、聞いて。』
「ん?」
『昨日わたら…、雲雀と一緒に帰ったの』
「まじ!!?!??」
『!?ちょっ、こえでかい…!』
幼なじみは私の言葉に驚いて目を見開き、大きい声を出した。その声に私は驚いて同じように目を見開き、必死に周りに頭をぺこぺこと下げる。
「めっちゃ進展したじゃん!なんでそこまで進展してんの」
『いや私にもわかんなくて…。』
「はぁ?なんじゃそりゃ」
呆れた顔をした幼なじみは、私の頬をつねる。
痛い。
『ちょっほ!やめへほ…』
「…俺がひばにあんなこと言わなければ進展しなかったのに…」
『?なんか言った?』
小声で湊がなにか喋るものだから、耳を近付けてみる。すると、何も無いよといって私の耳にカプっと噛み付いた。
『!?!?湊っ、!電車の中なのに…!!!』
「電車の中じゃなかったらいいの?やだ〜瑠花ちゃんえっち〜」
『…』
「え、ごめんって。何か言ってよ。」
『はあ…電車の中では散々な目にあった。』
「そんな事言わないでよ。」
「わ〜〜〜っちさ〜〜〜〜〜ん!!!!」
電車から降りて、二人で通学路を歩いていると後ろからドデカい声で走ってくる人がいた。この声は…
『あ、…』
「あ、瑠花!おはよ!」
『お、おはよう。』
「ちょっとちょっと、いつから名前で呼ぶようになったの。」
「んー、秘密!ね、瑠花」
『は、ははは』
ん、秘密?なんで秘密?
疑問に思っていたが、2人が仲良さそうに話しているのをみたらそんなことすぐ吹っ飛んでしまった。
「てか、わっちさんと瑠花っていつも一緒に登校してるん?」
『あ、いや「そーだよー。家近いからね」…。…う、うん……』
「そうなんだ〜…。楽しそうでいいね。」
なんで、シュンってしてるの?
悲しそうな目をして俯く彼が、私の目に写った。
「ひ、雲雀は、誰かと一緒に登校してないの?」
「ん?してるよ!…ほら、今後ろから走ってきてる人いるでしょ?」
『え、そんなのいる…?…………あ、』
「ひばー!!!!!置いてくなー!!!」
遠くから微かに声が聞こえた。…いや、微かではない。めちゃくちゃ聞こえた。
声がする方に目を細めて見てみたら、走ってくる姿が見えた。もう少し目を凝らしてみると、赤色の長い髪を括りながら走ってくる男がよく見える。
ん?待て。あの男は…
「きゃー!!!!ローレン様よ〜!!!」
「ロレ様〜!こっちみてー!!!!!!」
イケメン四天王と言われているローレン?
そんな男がこっちに向かって走ってくるものだから、反射的に幼なじみと雲雀の手を掴んで逃げてしまった。
だって、そんなイケメンがこっちにこられたら悪目立ちするに決まってる。しかもイケメン3人の中に入ってる私めちゃくちゃ邪魔だし。
「ちょっ!?瑠花!?!?」
「瑠花っ、どうしたの?」
2人が必死に腕を掴んで走る私に問いてくる。
『いっいいからっ、!こっち来て…!』
そう言って、3人で空き教室に入る。
「なんで空き教室…」
「ここの教室ホコリすご。マジで使ってないんだね。」
『ひ、雲雀って…イロアスくんと仲良いの?』
空き教室の机の上に座る彼に恐る恐る聞くと、さっきまで真顔だった顔が八重歯が見えるぐらい笑顔になる。可愛い。好き。
「うん!軽音部で一緒なんだ〜。」
『あ、そうなんだ…』
「軽音部ってイケメン四天王って言われてるよね。」
「それ自分で言ってる?」
「あ、俺も入ってんの?」
「四天王なんだから入ってるに決まってるでしょ」
そう言って湊の頬をつねる雲雀。
そっか、湊も軽音部で四天王なんだ。ずっと一緒にいたから彼のイケメンさには気付いていなかったが今気付いた。こいつ、モテるんだ。
『2人が私のそばにいるって、なんだか夢見たい。』
「「え」」
『え?……あ。』
声に、出ちゃった?
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