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結婚相手を間違えました

90 - 第90話 偉央の泣き言と結葉の内緒ごと③

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2025年04月06日

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ちゃんとお勤めを始めて、山波家やまなみけに家賃なり何なりを収めることが出来るようになれたなら……今日これからひとまずお借りせねばならない封筒の中のお金に関しても、キッチリ満額揃えて純子にお返ししようと心に決めている。


だから浮き足立ってアレコレ不必要なものを買わないようにセーブしなくちゃ、と結葉ゆいはは心を引き締め直した。



なるべく支出額が抑えられるようにと、結葉ゆいはが一番最初に目指したのは、商店街の一角に店舗を構えた、少し大きめの規模の百円ショップだった。


店内に入るなり、結葉ゆいはがいの一番に目指したのは便箋びんせんのコーナーで。


結葉ゆいははあの二文だけの短い手紙を読んだあと、偉央いおに返事を書かねば、と思ってしまったのだ。


百均はレターセットも結構充実していて、可愛い絵柄のものが思いのほか沢山並んでいた。


その中に、たまたまハムスター柄の、ほのぼのタッチのレターセットを見つけた結葉ゆいはは、ちょっと子供っぽいかな?と思いながらも、それをカゴに入れる。


あの日、マンションから勝手に連れ出して来てしまったけれど、雪日ゆきはる偉央いおからプレゼントされたハムスターだ。


ちゃんと元気にしていると伝えねば、と思ってしまった。


スマートフォンで撮った写真を、コンビニにある機械で簡単にプリントアウト出来ると聞いた結葉ゆいはは、先日せりにやり方を教えてもらっておいた。


ここからちょっといった交差点のところにコンビニがあったはずだから、そこで一枚だけ雪日ゆきはるの写真を現像して手紙に同封しよう。


そう心に決めた結葉ゆいはは、今度はお弁当箱のコーナーに向かった。


そうが使っているような大きな弁当箱は、百円では買えないんだと知って、「うー」と思わず声が漏れた結葉ゆいはだ。


そこで、そういえば、と思い出した結葉ゆいはは、保存容器が大小様々取り揃えられたタッパーのコーナーに行ってみる。


フタがついた四角いタッパーは、大きさにもよるけれど、数個単位でまとまって百円というのものがいくつかあったのを、前にそうと別の百均に行った際に見ていたのだ。


(そうそう。これ、これ)


心の中でそうつぶやきながら、結葉ゆいはは容量に二七〇mlミリリットルと書かれた正方形の二個組タッパーを三セットカゴに入れた。


「あとは……」


スーパーに寄って、食材をいくつか買って帰れば、今日の任務は完了だ。


そうちゃんのお弁当のおかずを作るついでにちょっとだけ多めに作ってこのタッパーに移したら、偉央いおさんにも分けてあげられる……)


レジに向かいながらそこまで考えて、結葉ゆいはは思わず立ち止まってしまった。


偉央いおからの手紙を見て、(偉央いおさんに何か作って食べさせてあげたい)と思ったのだけれど……それをどうやって彼に届けたらいいのか……。


そこを考えていなかったことに、今更のように気が付いたのだ。


偉央いおさんがお仕事中の間に、マンションの部屋にこっそり入って、置いて帰る――?)


もし偉央いおと鉢合わせたらと考えると、すごく怖かったけれど……クール便を使ったりして送ると、近場なのに送料ばかりがやたらと無駄にかかってしまう。


無一文に近い結葉ゆいはは、なるべくならそういう経費を掛けたくないと思ってしまって。


バスに乗って最寄りのバス停まで行って、こっそり置いて帰るのが一番お金が掛からない方法に思えた。


そうに言えば、きっと連れて行ってくれて、部屋まで付いてきてくれるだろう。


その方が、絶対に安心で安全だと、結葉ゆいはにだって分かっていた。


だけど――。


散々酷い目に遭わされたくせに、その相手にこんなことをしたいと思っている自分の気持ちを、そうに理解してもらうのはすごく難しい気がして。


何より、離婚したい相手に対して、未だにこんな気持ちを抱いていることをそうには知られたくないと思ってしまったのだ。


そうちゃんは、私のためにすごくよくしてくれているから……イヤな思いをさせたくない)


正直、結葉ゆいはは昔みたいにそうに惹かれ始めていて……そうと家族みたいに暮らせている今の生活を、とてもとても大切に思っている。


それを壊しかねないこの愚行は、秘密裏に処理しないといけないと考えた。


(すっごく怖いけど……きっと大丈夫……だよ、ね?)


行く前に匿名で『みしょう動物病院』に電話して……受付に偉央さん院長先生が勤務中かどうかを確認して。


「いる」って言われたら「分かりました」って答えて電話を切ってから、マンションにこっそり入って冷蔵庫の中に料理だけ仕舞って……コンシェルジュのお二方にその旨をお伝えする、というのはどうだろう。


あの日、逃げるようにあの場を後にしてしまったから、散々お世話になったコンシェルジュのふたり――斉藤と白木しらき――に、ちゃんと礼を言えていなかったのもずっと引っかかっていた結葉ゆいはだ。


あの時借りた制服も、結局そうに返しに行ってもらってしまったから。


(行ったら、それも含めてお礼を言おう。おかげさまで、元気に暮らしていますって伝えよう)


そんな風に思って。


結葉ゆいはは、そうに内緒で偉央いおの部屋に侵入するという恐怖を、コンシェルジュの二人に礼を言うという大義名分でコーティングした。



***



翌日の早朝。


前の日から仕込んでおいたおかずと、今朝作ったおかずとをずらりキッチンに並べた結葉ゆいはだ。


隠密おんみつにことを運びたかった結葉ゆいはは、今朝はみんなが起きてくるよりかなり早く――四時前から起き出して作業をしていた。


ひじきと大豆の煮物。

鶏胸肉のつくね照り焼き。

ピーマンの肉詰め。

出汁いりの甘めなお味の卵焼き。

ブロッコリーと豚肉の味噌炒め。

椎茸とねじりこんにゃくのピリ辛煮。

ナスと豚こまの生姜焼き。

ほうれん草のおかかバター炒め。

ホタテのベーコン巻き。

豆腐入りミニハンバーグ。

肉じゃが。

きんぴらごぼう。


昨日百均で買ってきた、六個のタッパーを、アルミホイルやラップで半分に仕切って、十二種類のおかずをみっちり詰め込んで。


それを、同じく百均で買っておいた紙袋の中に収めてから、結葉ゆいはは誰にも見つからないよう足音を忍ばせて、こっそり自室へ置きに行った。

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