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渡辺先輩said
渡辺「おい康二、その案件のリスケジュールに関するエビデンスはコンプライアンス的にアグリーなのか?」
向井「渡辺部長、だから何言ってるか1ミリも分からんって言うてるやんかぁ!」
定時間際の営業部のフロアで、俺は康二先輩の提出してきた書類を見ながら、あえて難解なビジネス用語を並べ立てていた。普段から「やたら横文字を使いたがる部長」として部下からイジられている俺だけど、康二がこうやって「もう〜!」と怒る顔を見るのが、実は少しだけ気に入っている。
渡辺「めめがカナダに行ってから、康二の書類の精度が落ちてる気がするぞ。寂しくて集中できてないんじゃないか?」
向井「う、うるさいわぁ! //めめとは毎日ビデオ通話してるもん!」
そう言い張る康二だったが、ちょうどその時、康二のスマホがブルブルと震え出した。画面を見た瞬間、康二先輩の顔がパァァッと分かりやすく輝く。
向井「あ! めめや! 渡辺部長ちょっと電話出ていい!?」
渡辺「おう、手短にな」
手招きして許可を出すと、康二先輩はデスクから少し離れた窓際にすっ飛んでいき、ビデオ通話の画面に向かってブンブンと手を振り始めた。
向井「めめ〜! お疲れ様! カナダは今何時?……え、こっちはもうすぐ定時過ぎるとこ。なぁ、めめ、カナダの出張ってあと何日残ってるん?……えぇ、まだそんなにあるん? 寂しーわぁ……。俺、毎日オフィスで星型のクリスプ握りしめてめめのこと考えてんねんで? 早く帰ってきて抱きしめてやぁ……」
完全に2人だけの世界に入り込んで、画面の向こうのめめにこれでもかとデレデレ甘えている。寂しさが隠しきれていなくて、本当にめめのことが大好きなんだなと微笑ましくなる。
渡辺「はは、正直でよろしい。ほら、これ」
通話を終えて、まだ少し名残惜しそうにしている康二が戻ってくると、俺は引き出しから、康二が一番好きな味のクリスプの限定パックを取り出して机に置いた。
向井「わぁ! 渡辺先輩、これ探してたんよ! ありがとう!」
渡辺「仕事頑張ったら、もっと美味いもん奢ってやるから。ほら、早くそのデータをコミットさせろ」
向井「おん! 俺、めめが帰ってくるまでしゃかりき頑張るわ!」
康二は一瞬で元気を取り戻して、俺にペコペコと頭を下げながらデスクに戻っていった。付き合っているめめとの遠距離恋愛を健気に頑張っている康二を見て、俺も「後輩」として、しっかりサポートしてやらなきゃなと思う。
ラウール「おやおや、渡辺部活。部下へのコミットメントが実にロマンチックですね。カメラの露出を調整したくなるほどのホワイト上司っぷりです」
物陰から、新入社員のラウールがサングラスをかけてスマホを構えていた。あいつ、仕事中に何を観察しているんだ。
渡辺「ラウール、お前は早くそのクリスプのゴミを片付けろ。あと、広報部のほうからなんか騒がしい声が聞こえるぞ」
俺が指差した先では、広報部のさく美が、経理部の阿部の周りをグルグルと走り回っていた。
佐久間「あべちゃん! さく美のつまみ食い、電卓で計算して何円分になった!?」
阿部「佐久間、もう3袋目だから…今月の広報部の経費から落として!」
阿部は常に首からさげた電卓をパチパチと叩いて何かを計算しているインテリだけど、佐久間の前では完全に目元を緩めて、その頭を優雅によしよしと撫で回している。
佐久間「ええ〜、じゃああべちゃんの個人資産から落としてにゃん!」
阿部「それは公私混同でしょ。……でも、まぁ、佐久間が美味しいならいいか」
阿部は笑顔のまま、佐久間の腰をデスクの陰でグッと引き寄せ、空いている手でその髪をよしよしと撫で回していた。
ラウール「……本当に、この会社の営業部と広報部は、公私のラインがハチミツより甘いですね。僕はこれ以上の糖分を摂取すると倒れるので、先に失礼します」
ラウールが冷ややかな声を出しながら、無音カメラのシャッターを連打し、満足げにオフィスを出ていった。それを合図にするように、阿部と佐久間、そして康二も
「お疲れ様でした!」
と次々に片付けをして退社していく。静まり返ったフロアを見渡し、俺も自分の荷物をまとめた。
渡辺「俺も上がるわ。涼子さん、今日も清掃ありがとう」
給湯室の前を通る際、上品に微笑む宮舘に声をかける。
宮舘「お疲れ様、渡辺部長。戸締まりは私がやっておくから、気をつけて帰ってね」
宮舘の落ち着いた声に見送られながら、俺はオフィスの自動ドアをくぐった。
深澤said
岩本「ふっか、今日の分のスケジュール、これで全部終了だね。お疲れ様」
社長室のデスクで、岩本社長が引き締まった男らしい体に纏ったスーツのジャケットを脱ぎながら、低い、落ち着いた声で俺に語りかけてきた。
深澤「はい、岩本社長。今日も社長の代わりに、僕がバッチリ全部署への伝達を代弁しておきましたよ」
そう返し、手元の資料を片付け始めた。社内では、俺たちは完璧な「社長と秘書」だ。
岩本社長の胸元にはいつも、お気に入りのクリスプのぬいぐるみが大切そうに入っている。その少し抜けた、でも仕事に対しては誰よりも真摯な姿を、俺は秘書として一番近くで支えてきた。
岩本「……みんな、もう帰った?」
岩本社長が、社長室の重厚なドアのほうをチラッと見つめた。
深澤「ええ、翔太も康二も、阿部や佐久間も、みんなさっき退社しましたよ。涼子さんは『清掃が終わったから、私も帰るね』って、片付けを終えていきました」
俺がそう答えた瞬間。カチャリ、と静かに社長室の鍵が閉まる音がした。
岩本「え……? 岩本社長……?」
俺が驚いて振り返ると、そこには、いつもの「社長としての厳しい顔」を完全に無くした、男らしい余裕のある笑みを浮かべた岩本社長が立っていた。
深澤「もう誰もいないなら、『岩本社長』って呼ぶの、禁止」
岩本社長は低い声でそう呟くと、大きな一歩で俺との距離をゼロにした。ガタイの良い大きな腕が、俺の細い腰を強引に、でも壊れ物を扱うように優しくグッと引き寄せる。
深澤「っ、ちょ、照……! ここ、オフィスだよ!? 誰か戻ってきたらどうすんの……っ//」
社内では絶対に呼ばない「照」という名前が、余裕のなくなった俺の口から溢れ出た。付き合いは長いけどこういう時の照のストレートで強引な男らしさには、俺はいつまで経っても初心になって顔を真っ赤にしてしまう。
「大丈夫。鍵は閉めたし、今夜は2人きりでここで残業するって、秘書のふっかがスケジュール切ってくれたでしょ」
照はそう言って、俺の顎を大きな手で優しく持ち上げ、ジッと目を見つめてきた。シャイな普段の姿からは想像もつかないくらい、瞳の奥が俺への独占欲でいっぱいに濡れている。
深澤「ばか……。//そんなスケジュール、切ってない……っ」
岩本「嘘つき。ふっかの顔、もうこんなに真っ赤じゃん」
照は嬉しそうに微笑むと、俺の体をさらに強く抱きしめ、広い胸板に俺の体をすっぽりと閉じ込めた。大きな手のひらが、俺の背中から腰のあたりをゆっくりと愛おしそうに撫で下ろしていく。オフィスの窓の外には、静かな夜景が広がっている。
深澤「照……怒鳴っても、誰も助けに来てくれないんだからね……//」
岩本「助けなんて呼ばせないよ。今夜は、俺だけの辰哉でいて」
照の体温が、俺のスーツ越しに熱く伝わってくる。もう抵抗する力なんてどこにも残っていなくて、俺は照の胸元に顔を埋めたまま、静かにその唇が重なるのを待つことしかできなかった。
いつもハートありがとうございます!
でも実は、コメントが少なくてめちゃくちゃ寂しがってます…!
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コメント
1件
めかぶぷりんさん、第3話読了しました! 今回もオフィスの人間模様がほっこり温度高めで最高でした…!康二先輩のめめとのビデオ通話、めちゃくちゃデレデレで可愛すぎる。そして渡辺部長がクリスプの限定パックを差し出すシーン、めっちゃいい上司じゃないですか…グッときました。 最後の岩本社長×深澤の展開には「おお〜!」って声出ました。鍵閉めて距離ゼロの流れ、オフィスでそうくるのか…!照が「俺だけの辰哉でいて」って、普段のシャイな姿とのギャップでやられました。 めかぶぷりんさんの描く、仕事と恋愛の境界線が甘くなる空気感、めっちゃ好きです。続き楽しみにしてます!
蒼❄️
661
めかぶぷりん
588
#向井康二
Yちゃん
80
#短編集?
凛 🍏☃️❤️🌹♡
800