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エレベーターには「その人」と私、他に二人のボディガードが乗り込んだ。私以外みんな大きい。圧迫感半端無い。
「あの、自分で立てますから降ろして下さい」
私は再度お願いした。
「大丈夫じゃない子程、大丈夫って言うんだよな。君重く無いから、全然。このまま抱かれていなさい」
笑顔でそう返された。全く取り合って貰えない。
仕方ない、このまま始めよう。
私は、針の仕込んである髪飾に手を掛けた。
すると、ボディガードの一人に腕を掴まれて止められる。バレたか。
私は奥歯を噛んで仕込針を出し、ボディガードの顔に向かってプッと吹き出した。サングラスをしているので目は潰せない。眉間に刺して気を逸らす程度にしかならないが、その隙で十分。私はボディガードの手が緩んだ隙に、髪飾りを外して「その人」の首筋に差し込んだ。
「うっ・・・」
力が抜けて膝を付いた所で私は「その人」の腕を抜け出す。
二人居るボディガードのうち一人は、状況について行けず慌てている。新人だろうか?しばし放置。もう一人は、眉間から針を抜き、舌で舐めて毒がない事を確認すると私に向き直り捕らえようと両手を出して来た。
私は小柄な体型を生かして、その腕を掻い潜る。
そこで、エレベーターの天井が抜けてコウが降って来た。
「お待ち」
言って先輩ボディガードの首を締めて私から引き剥がす。コウの体重と勢いに耐えかねて、二人はそのまま「その人」の上に乗っかる形になる。
「カナデちゃん、俺のケツからナイフ抜いて」
言われて私は縺れ合う二人を掻い潜り、コウのパンツの腰辺りに隠されていたナイフを引き抜く。微かに甘い匂い、何か塗ってある。
コウが力任せに先輩ボディガードの首を捻る。決して細く無いその首が、あらぬ方向に曲がった。途端にガクっと力が抜けた先輩ボディガード。少し膨張したかと思うと、輝き出して収縮して行く。光が強くなり、パンっと弾けて消えた。
「あら?殺せちゃった?」
少し驚いた表情でコウが言った。
償いが終わった人間が死ぬと、その場で輝いて消えてしまう。先輩ボディガードは、償いが終わっていた様だ。危ない。
想定外の展開に一瞬止まっていた全員の動きが、突如として動き出す。
「うわぁ!」
「このっ!」
私の後ろの新人ボディガードと、「その人」が同時に声を上げて動き出す。私は「その人」を押さえようと一歩踏み出した。だが、同時に新人ボディガードに向おうと動き出したコウの足が、運悪く私の足を引っ掛ける。
「あ、ゴメッ・・・」
コウはそう呟いて私を支えようと片腕を出し、反対の手で新人ボディガードの顔面を掴んで止めた。サングラスが派手な音を立てて砕ける。
コウが私に向けて出した片腕が、予想外の動きをした。そのせいで更に大勢を崩した私は、
私は・・・
持っていたコウのナイフを、刺してしまったのだ。
「その人」の胸の真ん中、心臓に・・・。
「・・・え・・・?」
繰り返される風景。膨張し、輝き、収縮して、弾ける。
ターゲットの死。
償いは、実行された。
私の手によって・・・。
「あ・・・」
コウの呟き。コウの手で窒息したと思われる新人ボディガードは気絶。
ガラス張りのエレベーターの壁に写る私の顔は虚。額の上にボンヤリと映し出される、私だけに見える数字が、2から1に変わる。
嘘、でしょ?
信じられないという私の表情と、私の視線の位置を確かめて、コウも驚きを隠せないという表情をしている。
私は、右手を見詰めた。コウが渡してくれた指輪がある。
「あー、でもさ、何だかんだで俺も一人殺れたし、これはこれでさ、良かったんじゃね?」
良く無いだろ、全く良くない。何て事してくれたんだ。
私は、思考を上手くまとめる事が出来なくなっていた。
減ってしまった。私の残数。ずっと守って来たのに。ジェイとの時間を過ごす為に、ジェイと出会ったその日から、一人も償わずに来たと言うのに。
後2人しか、猶予が無かったのに・・・。
右手に力を込める。指輪から小さな針が飛び出す。
「カナデちゃん?大丈夫?」
呼び掛けるコウ。彼が私の肩に手を掛けた。その手の上に、私は右手を重ねる。
「ッテ。今チクってしたけど。・・・はぁ?、!」
コウはそこまで言うと、白目を剥いて崩れ落ちた。
チーンとベルが鳴ってエレベーターのドアが開いた。
フロアには一組の男女のカップル。女の方がタバコを吹かしながらこちらを見た。
女のタバコ・・・。
気分が悪い。
エレベーターの中の様子を確認して、カップルは走り寄って来る。
私は一人エレベーターから出て、非常階段へと向かった。
心が、暴れ出しそう。
ジェイ・・・。
助けて・・・。