Side Hedgehog
どこからか鳥の鳴き声が聞こえてくる。
朝になったのか。
でもいつも街で聞いている鳥じゃない気がする。チュンチュンとかじゃない、ピーチクパーチク的な。
まあいいや、と思って目を開けるとそこは森だった。
「え?」
冗談じゃない。
俺は昨夜も、家に帰ってきてベッドでいつものように眠りについたはず。じゃあ夢なのか。
試しに目をこすってみようと思ったけど、手が届かない。
「なんで」
どう頑張っても、手が目に届かないのだ。おかしいなと自分の右手を見てみると、異様に小さいではないか。
しかも人間の手ではない。
「はあ⁉」
ものすごく小さいけど鋭いツメはあるし、身体を見下ろしてみれば……裸だ。足だって手と同じくらい小さい。
どうなっているのか全く意味もわからなくて、呆然として視線を正面に戻した。
すると眼前には、茶色の大きな物体。さっきまでは目に入っていなかったはずだ。
「なんだこれ?」
突然、茶色いデカいものが動いた。
むくりと動き、顔を見せた。それはクマだった。正真正銘の、クマ。ヒグマか何グマかはわからない。
「え、クマ?」
なぜか直感的に、「食べられる」と思った。人間にしろ何にしろ、たぶんこのデッカいやつには食われる。
「…うひゃあ~!」
大声を上げて逃げようとしたけど、後ろからどこか聞き慣れた声がした。
「え、なんでハリネズミがいんの?」
俺は思わず振り返った。そこには相変わらずクマが座っている。でもちょっとだけ見たことがある気がする。いや、よく考えて見ればクマに面識なんてないんだけどさ。
「いやそれはこっちの台詞だよ。なんでここ森な……」
そのとき、視界の隅で何かが動いた。そいつは素早くやってきて、目の前に降り立つ。
ワシ? いやタカだ。黒っぽい茶色で、鋭いクチバシと目。
「うわあやべえ、逃げろー!」
今度こそ直感的に、というかそのもっと深いところで「逃げなきゃ」と思った。いわば本能的に。
でもまた声がする。聞き馴染みのある、低音だった。
「これ……ハリネズミ?」
首で後ろを向くと、タカが鋭い目つきでこっちを見ている。やっぱり怖い。というか、俺ハリネズミなのか?
「てかさ、なんでこんなとこにクマもハリネズミもタカもいんの? 意味わかんねーんだけど」
急に後ろから声。ビクッとして見ると、ライオンがいる。もはや驚かなくなってきた。森にライオン。不思議な組み合わせだが、その声と口調に懐かしさを覚えた。
「いや……ライオンはおかしいって。なんでライオンが喋ってるの」
クマが喋った。やはりおかしい。おかしいずくめだ。
ふと、遠くから足音が近づいてくるのに気がついた。パカラパカラとでもいうようなそれは、声とともに接近してくる。
「すげえ走れる! 俺もしかしてウマになったのかもね!」
そいつは、シマウマだった。縞模様がはっきりとして綺麗である。
そして俺ら“動物”のところへやってくると、急ブレーキをかけた。
「ちょっと待って、ライオンいんじゃん! 俺食われる!」
そしてまたパカラッパカラッと軽快に駆けていく。
ああ、これはジェシーだ。唐突にそう思った途端に、ほかの謎の動物の声の正体もわかった。
クマは慎太郎。
タカは北斗。
ライオンは樹。
シマウマはジェシー。
で俺はハリネズミらしい。クマ……もとい慎太郎が言うには。
あれ、大我は?
「ちょっと待って、お前ら絶対メンバーだよな?」
俺の考えと同じ言葉が聞こえた。それは樹の声で。
「そのデッカいクマは慎太郎の声だし、飛んできたタカは北斗だろ? そんで走ってるシマウマはジェシーの声するし、ちっちゃいハリネズミは高地だし。俺はライオンの色の身体になってるし」
「いやお前ライオンなんだよ」
どこからともなくそんな言葉が降ってきた。慌てて頭上を探すと、木の一番低い枝に黒いコウモリがぶら下がっていた。
ということは、これで揃ったわけだ。
「きょも! そこにいたのか!」
ライオン、じゃなくて樹が見上げて嬉しそうに言った。普段とは違いがっしりしていて、たてがみもふさふさでれっきとした百獣の王だ。
「え待って、一回整理しよ」
タカが言う。というか、完全に言い方が北斗だ。
いつの間にかシマウマであろうジェシーも戻ってきた。「あーびっくりした。食べられるかと思ったら樹じゃん。マジでこれなに?」とつぶやいて。
北斗がまた口を開いた。
「俺らさ、普通に昨日までみんなで仕事してたよな。で家帰って、ふつーに目覚ましたらこんな森にいた。でそこには、声は普通だけど姿が動物になったメンバーがいた。……しかも担当動物まんま」
みんなはうなずいた。
「なんでだろうね」
俺がつぶやくと、シマウマのジェシーが答える。
「別に悪いこと何にもしてないのに。呪われることとか」
「さあね…。夢じゃないかな」
樹上の大我が言った。夢だとすれば、あまりにも面白すぎる。
「でも面白そうだよね! すげー体験じゃん。それにメンバーいるとか心強いし。夢でもパラレルワールドでもさ、せっかくの経験だから楽しもうよ!」
慎太郎はいつものごとく楽しそうだ。
俺はそれに、思わず頬を緩めた。
「じゃあ……とりあえず樹は俺のこと食べないでね。サバンナのライオンってシマウマの天敵でしょ?」
「…気を付けるわ」
怖いな、とみんなの笑みが溢れた。ああ、やっぱりSixTONESだ。見た目は全然違うけど。
念のため、「メンバーを食べない」というルールを設定して、俺らはこの不思議な森を冒険することになった。
続く
コメント
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ほっこり&おもしろの超素敵なお話です🤩 主さんの小説はどれも斬新で全く飽きないですね✨