Side Bear
「てか腹減ったんだけど」
普段の樹ならありえないことを、ライオンの姿で言っている。お腹が空いたと主張することは滅多にないから。
俺ら動物は、とりあえず探検してみようと歩き出したところである。
「え…今何食べたい感じ?」
怯えたようにジェシーが言う。さっきから少しだけ樹と距離を取っている。まあ、シマウマなんだから仕方ない。
「別にわざわざジェシーの声がする獲物を食べようとか思わねーよ」
「なら良かった」
傍から見ればおかしな会話をしていると、
「でどっちに行くの?」
タカが言った。いやタカじゃなくて、北斗だった。
探検しようとは言ったものの、道らしきものは俺らの左右に伸びている。その周りは木が生い茂っていて、進めそうにはない。
「北斗見てきてくんない? 飛べるでしょ」
俺が声を掛けると、
「京本も飛べるんだろ。行ってきてほしい」
未だ木の枝にぶら下がっているコウモリの大我にそう投げた。
「……えー」
結局ふたりでそれぞれの方向に飛び立っていった。
すると、どこからか高地の声がしてきた。
「おーい、みんなー!」
振り返ってみると、茂みの中からハリネズミの下半身が見えている。トゲトゲの。
「どうした?」
何やらガサゴソとして顔を出すと、小さい口には少し大きな瓶をくわえていた。
「何それ」
そっと取り上げ、しげしげと眺める。そういえば、手を使えるのはどうやら俺だけのようだ。
それはガラスの小瓶だった。コルクの栓がついていて、取ってみるといとも簡単に外れた。中身は空だ。
「あ…見て、ここにもある」
いつの間にか生えている草を食んでいたジェシーが声を上げる。ひょいっとそれをくわえて見せる。
「何だろう。みんなの分あるのかな」
樹がそう辺りを見回す。
呼ばれて戻ってきて、地面を尾を振りながら歩いている北斗が、「見つけた」と言って全く同じ瓶を持ってきた。これで3つ。
ふと大我のことを思い出して、視線を上げる。戻ってきてまた木にぶら下がっている。
「きょもって下りてこられないの?」
大我は黒々とした瞳で見返してきた。「行けるんじゃない?」
そして脚を離し、少し滑空したあと地面に下りてくる……否、落ちてきた。
「え、俺立てないじゃん…」
コウモリは歩くのに適していないらしい。草の上に転がる形で、「助けて」と小さくつぶやいた。
しょうがないな、と北斗が歩み寄って大我の軽い身体をつまみ上げる。背中に乗せると、翼を広げて木の上に下ろしてあげた。
「サンキュー北斗、マジ助かった」
そんな頭上の会話を尻目に、俺らはもう3つの瓶を見つけた。これで6つが揃ったわけだ。
「たぶんこれは薬とか毒だろうな」
下のほうから高地の声がした。
「何でかわかんないけど、瓶の中身を飲んだか飲まされたかでこうなったんだろ」
「すごい、マンガみたい」と反応したのは大我だ。俺は苦笑する。
「それなら天才科学者にでも薬作ってもらわないと、元に戻れないよ」
みんなは閉口した。意外と本気で行く末を案じているのかもしれない。森の中の静寂を破ったのは、北斗だった。
「とりあえず探検してみよう。なんかわかるかもしれない」
鶴の一声ならぬ鷹の一声で、俺らはようやく前へ——コウモリとタカは空を飛び、ハリネズミを背中に乗せたシマウマとライオン、クマは肩を並べて歩き出した。
続く
コメント
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おー… 今から最後どうなるのかが気になりすぎてます笑