桃紫です
nmmnです
理解のない方地雷の方注意される方
今すぐお引き取り下さい!
キス描写あり、性描写なし
長編です。頑張ってください。
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ずっと紫side
優しげな彼が好きだった。
おはようと言えばおはようと笑ってくれて
かまそっていったら一緒に言ってくれる。
映画アニメドラマをすすめれば
一目散に見てくれて、感想言ってくれて
あっちからも、教えてもらって、
よく俺の好みを知っているみたいで。
人一倍俺を好いてくれる彼が、
好きで俺は好意を抱いた
言えることの無いこの思い。
触れれば触れるほど奥深くまで沈む。
だから絶対、このことは
言わないよう、胸に閉じ込めた。
だけど、俺は、言ってしまったようで。
「紫くん、今なんて」
「へ..え、?」
気づけば彼の隣に座っていた
彼は泣きそうな顔で見つめてくる
「…なんて、いった?」
『桃くんとずっと一緒にいたい』
「って、いったよ」
え、、これ、実質告白だ、
こんな形でするなんて。
「ねぇ、本気?」
「黙ってちゃわかんないよ」
「紫くん_?」
彼がなんて言うのか、
怖くて仕方がなかった。
いつも通り話してくれなかったら、
いつも通り笑ってくれなかったら。
いつものように、話して、笑って、
たまに泣いて、たまに、抱え合って
それが無くなったら..どうしよう。
「紫くん」
ずっと呼んでくれる言葉を、
ずっと無視をしていた。
顔も見れない、桃くんに、
嫌われたりなんか、したら。
「………俺も一緒に居たい」
「だから顔上げて、言って」
「一緒にいたい、って」
「ぇ…..、?」
信じられなくて、
驚きながら顔を上げた。
すると、かわいい音がなる
「え、ぁ、えっ桃ちゃ、」
「ん」
休む間もなく、彼は噛むように
音を部屋に響かせていく
「っ….、ふ、ぁ」
「…..、ん!、へへ、これ5年分ね」
5年。その言葉に戸惑った。
「っえ?…出会った、時から、?」
「そーだけど」
「…う、そっ」
「もー自分Sなのに、
そんな照れてどうするの」
「ち、が、そう言う事じゃ」
「俺はそれほど好きなのに
驚いたってだけで…!」
「..ふーん、じゃ、紫くんは
いつから好き?」
「…いつから…?」
思えば数えたり、気にしたり
そんなことはしなかった。
気が付いたら追っかけてて、
気が付いたら好きだった。
理由なんて思い出せない。
確か、あったような….
「…わかん、ない」
「え、嘘」
「そういうの気にしないから、
ていうか桃ちゃん一目惚れ?」
「うん、だよ」
「へ~…….」
俺なんかよりずっと一途..
彼が元々顔も何もかも
良かったのになぜか自分磨きをした
それも少し関わっていたり、
するのかもしれない、のかな
「……..、」
「紫くんは知らないと思うけど」
「ん…?え?」
急に彼が語り始める。
きっと重要だ…
そう思って俺は真剣に話を聞く。
「俺、高校の友達..に」
「告白されたことあって」
「勿論、そいつ男で」
「『ごめんね 振って』って
言われたんだけどさ」
「俺その頃から同性が好きで
その時そいつじゃないやつがすきで」
「でもどんなに仲良いやつでも
俺のことは明かさなかった」
「嫌われたくなくて、ね」
「あ、話、戻すけどそいつのこと、
俺最終的に振っ、たんだよ」
「実際友達のままが良かったし、
ただ仲良いやつで終わりたくて」
「んで、ごめんって言ったら」
「そいつ死ぬほど病んじゃってさ」
「思えば思うほど好きになるって
もう無理だって、辛いんだって」
「どうしたらいいか分からなくて」
「付き合う訳にはいかないし、
だからといって元気付けるのは
また何か違うと思って」
「それで、何も、言えなかった」
「…今でもすげー後悔してる」
「今はもうそいつ自力で吹っ切れて、
今でも一緒にゲームするくらい、
超仲良しだから大丈夫なんだけどね」
「それでも心残りだ」
「…もし寄り添えていたらって」
「思えば思うほど_」
「…..」
言葉が詰まって、息を止めて、
彼は俯いてきっと思い返している。
彼は深呼吸をした
「…俺そんなことがあってから
人をまともに好きになれなくて」
「..もし俺があいつのような
辛さを味わうなら、」
「もう..一生恋なんてしたくないって」
「でもまあ、紫くんに会って
恋、しちゃったんだけど」
「..俺は後悔してたよ」
「紫くんを好きになってしまって
でも嫌いにも普通にも戻れなくて」
「だから、ありがとう紫くん」
悲しいというより、なんだか
寄り添ってあげたい気持ちになった。
奥の方があつくなって、
胸が苦しくなって感情が溢れる
「….こちらこそありがとう」
「俺を振らないでくれてありがと」
彼なりに、苦しくないような
友達のことをしっかり思って
もう失敗しない と、
決めてくれたんだろうな。
_________________
数ヶ月後
それからというもの、
リスナーさん達には秘密で
メンバーには言って、
「いつも通り」の接し方で
彼氏彼女になると決めた。
しかもあだ名まで。
故にあだ名のあだ名。
「俺はもう紫、っていうよ」
「….配信で言わないようにね?」
「当たり前じゃん」
「てか、俺のは?」
「桃ちゃんは桃ちゃんだよ?
なんかあだ名つけたらしっくりこないし」
「え、俺だけ好きみたいじゃ..」
「いやいや、俺も好きだよ」
「違うよ、そういうんじゃない
俺はあだ名のあだ名が欲しいの」
「俺ら2人だけのあだ名!」
「…そう言われてもね、俺は
絶対桃ちゃんがいい」
「え…んー…紫く..紫が言うなら..」
彼は渋々俺に許諾する。
彼の唯一の弱点は、
「俺に弱いところ」だと思う。
それから、崩れることなく
日々を過ごしていた。
同棲しているのはさっきので
きっと察してもらっただろうけど、
俺らは同じ環境で配信している。
だが部屋は別々にしてやってるし
防音の壁に貼るやつやってるから、
公式放送の時はバレてない(はず)。
だけどこの前、事件があって。
がたんと、彼の愛猫モカちゃんが
公式放送中に物を倒していた。
犬ということもあって、
騒がしくしていたのだろうか..
かなり大きい音で部屋全体に響いた。
ましてやマンション…()
2人同時に、がたんという音が
鳴ってしまったのだ。
防音だとしても、かなり、
響いてしまっていたのだ。
2人とも死ぬほど焦りまくって、
事態は何とか橙くんが乗り切ってくれたが
某ハトのアプリでは、
炎上寸前まで、この事態が広がった。
そのあと枠取る予定だったが、
なんだかコメ欄が荒れそうだったので
急遽取らないことにした。
「ね、どうしようほんとに」
「いやもうどうしようもない。
この際だし開き直ってもいい。」
「え..そんなの、」
「…やっぱり怖いよね」
「…….っ」
「…大丈夫だよ、俺が
全部抱えてあげるから、」
2人で、水曜日。
ゲリラ枠を開こうと決意した。
そして水曜日。
月曜日と火曜日は驚くほど
通り過ぎるのは早かった。
「おはよう紫」
「おはよう、桃ちゃん」
あまり寝付けなくて、
重たい瞼を素早く3回閉じて開く。
今日、話してしまうんだ。
そう思うと不思議と緊張が湧いて、
彼について考えられなくなった。
「…今日、がんばろ」
「これ乗り越えれたら、きっと、
俺らは幸せになれるはずだから」
彼の無責任な言葉さえも、
今の自分には痛いほど響いた。
彼の料理が食卓に並ぶ。
朝からオムライスという食べ物。
現時刻は10時。それで察した。
きっと、お昼と朝兼用だ。
「…怖いけど頑張るよ」
「桃ちゃんありがとう」
彼は俺の頭をそっと撫でて、
嬉しそうに笑った。
まわりに花が咲いているように
見える彼の笑顔は、俺の癒しだ。
________________
そして20時。
かれは配信をとった。
俺の震えた手をそっと握って、
そっと笑って配信を始める。
ひとつのイヤホンを分けて、
ふたり片耳にイヤホンをつける。
椅子に腰をかけて、何も話さぬまま
なにもこたえをいわないまま。
みんなで歌った曲を聞いて、
静かに、時間を過ぎるのを待った。
「いくよ」
そう言ってくれたのは、2曲目が
終わるそのぐらいだった。
彼はBGMなしで入るつもりらしい。
「….いや冒頭、話しずらいな、w」
「..まぁ久しぶりのゲリラ枠そして
久しぶりの紫くんと配信!!」
「本当はゲームとか色々話して
やりたかったんだけどね」
「きっとみんなが不安になっている
であろう、その事件?wについて」
「話したいなと思ってます」
「じゃまず紫くん!いっちゃって!!」
「…うわ、はじめ、迷うね」
「でしょ?wでしょ!?w」
「うんww」
「何話せばいいのか
頭ん中で考えちゃうよねw」
「わかるw明るい感じでいいのか
改まった感じがいいのか、
もう色々考えちゃうわwへへwww」
ふたり謎の会話で笑いあって、
そこで話が途切れてしまう。
萎れた空気に一変した。
「..じゃ早速本題はいる?」
「みんなも気になってるだろうし」
「…うん、じゃあ言おうか」
「….僕ら実はなんだけど」
「..単刀直入に言うんだけど」
彼は言葉を詰まらせたが、
すぐに覚悟を見せつけた。
「…つき、あってる」
「….一緒に住むところまで、毎日、
一緒に助け合いながら生きていて」
「それもお互い認め合って。
隠しちゃって申し訳ないんだけど」
「ごめんね、なんだか、こう」
「君たちを裏切っている、、
そんな気がして、言うのにも、
時間かかっちゃってたんだよ」
「活動者ってこともあって、
毎日毎日ほんとに忙しいけど、
やっぱメンバーとも接点あるじゃん」
「赤とか橙とかで
プライベートで映画行くでしょ?」
「そういうのも実はあって、
まぁ僕ら、趣味合うからよく行ったり」
「暇な時間とか聞いたりして、
それで合間何とか作ったりして。」
「あと俺の配信聞いてくれてる
リスナー達だったら分かるけど」
「俺動画とか忙しいから、
彼女とか作る暇ないって言っ、て」
「…ごめんね裏切って」
ごめんを連呼する彼が、
なんとも悲しくて辛かった。
隣にいるだけで苦しかった。
息ができないほど閉められて、
強制されているみたいだった。
「…だけど、俺も紫くんも
この活動は続けていくから大丈夫」
「あっ付き合ってるんだ〜へ〜
みたいなのが、1番嬉しい」
「勝手なことばかり、
色々してごめんなさい」
ただの活動者。
ただの、エンタメグループ。
そのあと俺から言うことは何も無くて
伝えたいことは全部彼が言ってくれた。
なので俺は何も言わず、ただ、
苦しさと悲しさだけを受け止めて、
配信を切った彼をずっとみていた。
「…やっと終わったね」
「うん」
「これからきっと大変だよ、
DMも何もかもきっと荒れる」
「..降りちゃう子も、いるし
いっぱい偏見言われちゃったり」
「忙しいかもしれないけど、
1年か2年したらもうみんな忘れるし」
「きっと推してくれる子はいる」
「これまで通り、だよ。紫」
「…うんごめんね、一言も、
なにも、いえなくって」
「大丈夫だよ、w端から俺が
全部言うつもりだったから」
その後、鳩のアプリで
散々エゴサした。
この放送で全部を知る。
意見に全部目を通す。
それが俺なりの覚悟だった。
余談だが、メンバーの赤くんと
橙くんが俺らについてツイートしてくれた。
「俺は2人がほんまに幸せそうなん
よく見とった方やったから分かるけど、
そういうビジネス的な偽物的なのは無いし
別れることは無いから願うだけ無駄だよ」
「俺は桃ちゃん達の1番近くで
ふたりを見てたけど、ほんとに、
ほんとに出会えてよかったと思う。
同性って付き合える確率が
ほんとに無いから、祝ってあげて。
きっとその方が2人は幸せだよ。」
リスナーさん達より、
優しげなツイートに心を励まされた。
気づけば夜が更けていて、
また寝付けないことに気付いた。
「うぅ……..、」
結局一睡も出来なくて、
一晩中エゴサをしていた。
普通に今日ガッツリ仕事あるのに。
なにもやる気なんてでなくて、
体が鉛のように重たい。
行かなきゃいけないのに…。
これはもはや自殺行為に値する。
30分くらいずっと布団にくるまり、
何も考えられない頭を落ち着かせた。
「…..紫?」
大好きな彼の声。
俺はやる気がどうとか頭痛いとか
そんなの全部放ったらかしで、
部屋に入って心配してくれたであろう
彼に、彼の優しさに触れたくなった。
「うわっ!?ちょ、紫?!」
「…..桃ちゃん」
「…?どした..体調、悪い..?」
「今日だけずっと一緒にいて」
彼といればもう頭も痛くないし、
やる気も出るし、何もかも
できる!って思っちゃうけど
やっぱり優しさというものは
俺の中にはないと困る。
「…仕事、休んじゃうの?」
「..頭、痛くて」
「ん、じゃ連絡しとくんだよ、」
「うん、ありがとう」
本当はリスナーさんのために、
本当は未来のために頑張りたい。
だけど何もやりたくない。
今日だけずっと彼と一緒にいたい。
俺が強く抱きしめると、
彼も優しくハグしてくれた。
離す気のない俺と、
いつでも離せる彼がなんだか
すれ違ってるみたいで面白かった。
「紫くんずっとエゴサしてたでしょ?」
「ゔっ….」
「やっぱり、俺もしてた」
「おかげで頭も痛いし
何も考えられないからさ」
「俺ら一緒でしょ?」
「….2人同じこと、
してたってこと?」
「そーだよ」
「….そっかそれなら」
「あ!だからって、頑張ったり
そういうことしたらダメだから」
「体調崩されたら、俺もう
動画とかそれどころじゃないよ?」
「…..わかった、今日はゆっくりする」
開いた扉からぽむちゃんが
そっと覗くように入ってくる。
不思議そうにしながらも、
俺が飼い主ということもあって
引き剥がそうとしてくる。
「ぽむちゃん..!?」
「あ、嫉妬したのかな?」
彼はそっと離れて、俺から
距離をとってしまう。
ぽむちゃんはくいくいっと
俺の服を引っ張った。
仁王立ちしてるし..
「…ん、きゃわいいねぽむちゃん」
ふわふわの毛に顔を埋めて、
ぎゅっと抱きつく。
ぽむちゃんは満足そうに
目を細めて笑っている。
よっぽどこうして欲しかったのか、
離れようとすると怒ってしまう。
「ふ、w紫、今日ずっと家でしょ。
ご飯置いてるからいつでもきて」
「うん..すぐ、行くよ」
ぽむちゃんに数分癒され、
まだ離れる気のないぽむちゃんを
抱きしめてリビングへ向かう。
リビングには映画を見ながら
ご飯を食べる彼が居た。
「ん、そこ置いてるよ、」
「ありがと..」
彼の見ている映画は、
いやきっとドラマだろう。
「…なんてドラマ?面白い?」
「面白いよ。んーとね、、
主人公が解剖医なんだけど..」
このドラマのあらすじを言って
また画面へと顔を向ける。
「これ、何話?」
「さっき見始めたから1話。
絶対紫もハマるからさ」
「一緒に見よ」
ぽむちゃんは彼が言った途端、
そっと俺から離れた。
気まぐれな猫だし、と思って
あまり気にはしなかった。
彼の隣へ座って、画面を直視する。
ご飯なんて放ったらかしにするほど
ドラマの内容や展開を見た。
気付けばお昼頃。
ドラマも見終わって、
2人とも最高の余韻に浸っていた。
「…何かみたいのある?」
彼はカチカチと画面を操作している。
「見たいもの」と書かれたフォルダには
何一つ入ってなどいなかった。
「..最近見れてないから
おすすめもなんにもないな」
「..やっぱり、ね」
「俺も全部見ちゃったし
もうなにも用はないね」
そつとアプリを閉じて、
テレビの電源を落とす。
傍にあったスマホをとって、
慣れすぎた手つきでアプリを開く彼。
俺は寝室に置いたままなので
すぐ取りに行ってそこで見た。
DMにも検索にも、俺の名前と
放送という文字をつけてまた見る。
誹謗中傷の数々。
俺は真っ向に受け止めず、ただ、
じっと見つめているだけ。
だが、彼は、どう受け止めているんだろう。
悲しみに浸るか、無感情か。
呆れるか、飽き飽きするか。
予想の斜め上をよくいく彼だから
考えても考えても想像はつく。
全てに当てはまり、沼のように
沈んで沈んで考え込んでしまう。
それが「彼」なのだと、
ずっとこういう場所に辿り着く。
エゴサにはおめでとうの文字も
ひとつも無いし、祝福も、何も。
赤くんが言った言葉や、
橙くんが言った言葉など
何一つ、刺さることはない様だ。
「紫、起きてる?」
「なんか青きたんだけど」
「え?青ちゃん?」
「呼んでない?なんで来たんだあいつ」
インターホン、郵便じゃないの?
俺はノックもせず急いで
入ってきた彼に驚いた。
それに青ちゃん..なんの用だろう
紫と桃色の花が
綺麗に飾られた玄関へ駆けつける。
はーいと言って、彼は出迎えた。
「青?どした?」
青ちゃんは俯きながら、
携帯を突きつけた。
「これ、どういう事なの?」
「なんで、リスナーさんたちに?」
「言わない約束でしょ?
放送橙くんが上手くかわしたじゃん」
「ねぇなんで嘘ついたの」
「リスナーも僕らも
裏切るつもりだったの」
青ちゃんも普段忙しいから、
放送とか見れなかったんだろう。
それで動画の一区切りついて、
エゴサして見てみたらこれ。
ってこと?
「…ほんと、意味わかんない」
「もう正直祝えないんだけど」
「….青ごめ..、」
「いいよもう」
「君たちはずっとふたりで、
いればいいじゃん」
「どうせ黄くんも聞いてなくて、
これから知ってまたツイートするし」
「僕もう冷めた」
「相方だろうがこんな嘘つく人
僕嫌いなの、知ってるでしょ」
「仕方ないとか言うなよ」
「…ほんと、ふざけんなよ」
「信頼した僕が馬鹿だよ
約束守れない人なんか知らない」
「..は〜…もうやだ…」
「僕5年も一緒にやってきた人達
こんなふうに言いたくないよ」
「こんなふうに言って、
嫌いになんてなりたくないよ」
「…なんでだろうね」
一言も、何も、言えない。
リスナーさんの混乱を防ぐため、
言わない約束を持ちかけたのは青。
俺もみんなも守るために、
これについては承諾した。
それを「仕方ない」で片付け、
掟を破ってしまった。
青にとって許されなくて、
信じられなくて悲しいのだろう。
まだ混乱したまま、青は
言うだけ言って帰ってしまった。
静かな空間に、俺と、彼だけが
取り残されてしまった。
「…思わぬ刺客がきたね」
「分かってくれるって、思ったけど
やっぱり無茶だったみたい」
「..ごめん紫」
「..桃ちゃんが謝ることじゃない、んだよ」
「俺だって覚悟したよ、
無茶かもしれないけど隠し事は、
やっぱりダメだと思ってるよ」
「ねぇ桃ちゃ…」
気付けば彼は俺に向かって
身体を預けていた。
….あつい、?
「…桃くん、?」
健康な寝息と、メトロノームのように
一定の速度で鳴る機械音。
真っ白な部屋に、何も置かれず、
ただ彼を眺めるだけ。
あの時ぶっ倒れて、短い息遣いに
驚きすぎて救急車を呼んでしまい、
超絶パニックになってしまった。
測ったら40度越えの熱。
割と重症だといわれたので、
救急車は正解だと言われた。
意識を失うほどだったらしく、
後もう少しまでいってたら
命の危機だったらしい。
俺すげぇなんて思うより、
彼にそう背負わせたんじゃないか。
そう思って頭から離れない。
何時間もきっと彼の隣で、
座っているはずなのに全く…
時間が経っている気がしなかった。
ただ白い部屋に綺麗な桃色の髪が
綺麗すぎて、目立ちすぎて、
すっごく愛らしくなってしまう。
彼はどれほど我慢したのだろうか..
あの時言うことも、あの時、
青ちゃんに言われたことも
すべてを背負わせた気になって
彼のそばを離れたくない。
「….起きない、みたいですね」
そう、倒れたという知らせを
グループで送った時に、真っ先に
駆けつけてくれた黄くん。
はじめは割と弾む会話は、
いつしか自然消滅していた。
「..うん」
「かなりキツかったんですかね」
「…たぶん、そう」
「きっと、色々言われて、
辛かったのかなぁって思って」
「..想像つきます」
「憶測ですが青ちゃんが
押しかけたと思うんだけど」
「やっぱり色々、
言われましたよね」
「…うんまぁ、」
「勿論許してあげて下さいね
青ちゃん今後悔してるので」
「…わかるの?」
「ええ、きたんですよ、
言い過ぎたって泣きそうって」
「無限にぴえんスタンプ
打たれてすごく驚きましたよw」
「…でも今日はきっと来ません、
青ちゃんあわす顔ないと思うので」
「….」
「今日はもう僕帰りますね..
やらなきゃいけないこと山積みなので」
「うん、わかった、また明日」
「はぁーい、じゃ、」
結局、その日は目覚めることは無かった。
その日の1日後。
また病院へ駆けつけた。
すると、身体を起こして
窓の外をじっと見つめてる彼が居た。
「..桃くん」
ゆっくりと視線をこちらに向ける
虚ろな目をしている彼は
もはや別人のようだった。
「….紫くん」
「おはよう」
あの酷かった病状は回復し、
今日の夜には退院をした。
朝ちらっと見ただけで、
そのあと休んだ分の仕事が多いので
ずっとPCとにらめっこした。
だけど彼の「おはよう」という声が
なんとも心残りで怖かった。
彼はまだ病院。
今は何をしているのだろうか。
そして夜。
迎えに行くため、病院へ行った。
迎えに行ってお大事にと、
頭を下げてくれた看護師さんを
流し目して彼の手を握った。
「ごめんねせっかくの2人きり」
「気分悪かったけど紫くんと
ずっとふたりっきりでいたかったから」
「言わなかったんだ」
「でもごめんね、倒れちゃって」
「しかも危なかったんでしょ?
紫くんに心配かけちゃったでしょ?」
「ごめんね紫くん」
ごめんと言って、おれに、
身を委ねてくる。
「大丈夫だよ…ほら、家ついた」
「あ、久しぶりだね」
「てかここ曲がればすーぐ
家つくの、楽だね」
「知らなかったの?」
「うん、全く」
全く、そんなわけはない。
彼はこの家を選ぶ時、
病院から近いねって言った
それがいい所というまで
きっと頭には強く残ってるはず
「紫くんご飯食べた?
食べてないなら俺作るよ?」
どうしてふたりきりなのに、
「紫くん」って言うんだろう。
なんかおかしい。いや、
だいぶおかしい。
おかしい。
「桃くんなんか変だね」
「ねぇ、何か、隠してる?」
「病気とかなんか、
お医者さんに言われたの?」
「….言われてない、けど」
「あ!紫呼びサボったから?
俺気づくか検証したんだよね〜」
「やっぱり気づく..か..」
「ッ!!っぅげほっ..!?」
あー、ほらやっぱり。
「うう、ん”ん”、ゔっ」
「..気管弱めちゃった?」
「だから言ってって〜
迷惑かからないからさ」
「っ…ごめ、あの俺もともと..」
「元々弱い方だったから、
なんか悪化しちゃったみたいで」
彼は苦しそうに小声で、
負担のかからない声で喋る。
背中をさすっていると数十秒で
そっとなおって落ち着く。
彼自身は苦しそうで、
俺は全く分からないからただ、
彼を落ち着かせることが目的だと思った。
「ぅ…動画とれるかなぁ..、w」
「あ…」
「..リスナーさんにちゃんと
説明したらわかってくれるはず..!」
「もう動画やめようかな」
「こんなんで歌みたとか、
絶対正気じゃねぇし…」
「ましてや好きなゲームさえも、
一旦中断したりしなきゃいけないし」
「見てる方もやる俺も嫌でしょ」
「それにまた悪化でもしたら、
とうとう俺死んじゃうかもしれないw」
「..それって」
「活動辞めようかな」
彼はもう、彼の中にある熱意が冷め、
彼の中で何かが壊れていた。
それが怖くて、信じられなくて
メンバーが5人になるなんて
俺は絶対こんなの許したくない
そしたら絶対、俺まで
俺らまで支障が出てしまう
そんなの5人だったら、、
「..桃ちゃんが抜けるなら
俺も抜けたっていい」
「…何言ってるの紫」
「紫はグループにとって、
大切な大黒柱なんだよ?」
「積み上げた5年間、水の泡だよ?」
わかっている。でも、だけど
メンバーが1人でも欠けたら、
もうきっとダメになると思ったんだ
中学校の3年間は無駄にした
高校の時もダメだと思った
この5年を水の泡にするのは
かなり惜しいけど、惜しいけど
俺はそれくらいの覚悟は出来ている
「いいよ、そんなの」
「桃ちゃんが大事だからいいの」
「….そっか」
彼はそっと口を閉じて、
何もかも悟ったような顔をした。
「もうおわっちゃおうか」
彼が俺に弱いのが弱点なのと
同じように、俺はきっと、
彼だけに一番弱くなってしまう。
今だって5年間に価値を感じないし、
数ヶ月だけ付き合っている彼に
一番価値を感じてしまっている。
5年より、数ヶ月の彼氏。
俺はきっと彼と一緒に居るのが
何よりも幸せなんだ。
毎日鬼のように山積みの仕事
それもおさらば出来るんだ。
楽に、自由になれるんだ
________________
2022年全国ドームツアー。
これは俺たちの活動の最後。
今その状態に陥っている。
本当に、最後。
もうそろそろ終わりだと
楽しかった思い出に浸り続ける。
きっと俺ら2人がいなくなること。
リスナーさんは驚くだろうな。
メンバーはみんな泣いて、
きっとこのグループもおわってしまう、
それを実感しているのだろう。
だけど彼だけは真剣に、
リスナーさん達の方を向いていた。
下を向きながら泣き続ける青ちゃん
精一杯涙を拭きながら前を見る赤くん
険しい表情をして立ち尽くす橙くん
リスナーさんと目を合わせない黄くん
ただ真剣に前を向く彼だけの
ステージのように思えた。
彼はじっと俺を見つめることなく
ただ最後を噛み締めずに待ってる。
俺はそんな彼を抱きしめて、
最後笑って抑えてた感情を吐き出す
「桃くん愛してるよ」
俺がそう言うと、今度は
マイクを自分の顔の前に向き、
リスナー全員に向けるよりも、
俺に向けた言葉と言った方がふさわしい
そんな俺だけの言葉を
このドーム全体に響かせた。
「あいしてる」
彼は歌うことが、喋ることが
出来なくなってしまった。
だからもう、優しい声は聞けない。
かわりのない彼だけの声を。
最後まで愛しられた彼の声を。
だけど、最後に聞けた彼の声が
俺に向けられた言葉だったから
もう何も望めやしない。
ただ最後、ほんとに、最後、だけ
彼から
「結婚してください」を聞きたかった。
_______________
ずっと聞いている人の声でも、
ふっと急になくなってしまったら、
寂しいなって感じますよね
それが元となります
最後本当に声が出せなくなったのか。
それはあんまり有り得ませんよね
気管はどんなに悪化しようと、
悪化→おさまる→悪化を繰り返す(はず)なので
声を無くすことはよくよくありません
きっと置いて行ってしまったのか、
何にも価値を感じずに壊れたのか。
幽霊のように嫌われた彼らは
何を得て何を考えたかみるの、
なんだか楽しかったです。
楽しんでいただけたら幸いです。
これからも何卒よろしくお願いします
コメント
32件
ブクマ失礼します🙇♀️
ブクマ失礼します! めちゃ良かったです(๑ ᵒ̴̶̷̥́ ^ ᵒ̴̶̷̣̥̀ ๑)
ノベルの方が遥かに読むの早くて読みやすくて気に入りました