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絡み合った指、ぴったりと合わさった手のひら。まるで恋人繋ぎのような格好に潔はドギマギするが氷織の真剣な表情に黙ってことを見守った。
手のひらから伝わってくる、じんわりと温かな熱。それが手のひらで増えていってふんわりと広がっていく。
不思議な感覚、けれども嫌ではなくむしろ心地良い感覚に身を任せる。
「今、軽く魔力流してみたよ。分かる?」
「あ、うん!…なんか、あったかいのが流れてる感じ」
「良かった。じゃあ、今度はそれを身体全体に行き渡らせるようにイメージしてみてな」
「分かった」
氷織に言われた通りにこのあったかい何かを身体に行き渡らせることをイメージする。もっと身体の感覚を体感で感じ取る為にそっと目を閉じ、視覚情報を遮断する。
ふわりと何となく手のひらに溜まっていた熱が動く。
じわじわと氷織から伝わってくる熱が手のひらから腕、腕から肩へと伝わってくる。
やがてそれは身体全体に行き渡り、氷織と一体となって繋がっているかのような、または優しく包まれているような感覚になる。
そっと目を開けると氷織がこちらを見ていた。
手はまだ繋がれたままで、そこから魔力が循環されていることがなんとなく分かった。
「なんとなく、分かったかも。これが魔力なんだな」
「!凄いやん、潔くん。もう感覚掴んだんやね」
氷織は驚いたように目を開くとゆっくりと手を離してから素直に凄いと潔を褒めた。
「えへへ…」
そんな風に純粋に褒められ、褒められるのが好きな潔としては嬉しくならないわけがなく、少し誇らしそうにでもちょっぴり照れたように頬をかきながら笑った。
「これを数日何回かやったら自分の中にある魔力も活性化して循環させられるようになると思うよ」
「へ〜なるほど。じゃあ氷織、また明日も会える…?」
何となく今回限りなっちゃうのではないかと不安だった潔は恐る恐る聞いた。
もう帰宅の時間になってしまって、帰ろうとしていた氷織が振り返る。
「うん、ええよ。また明日、ここで」
「!うん、ありがとう!じゃ、また明日!」
「またね」
迷いなくそう返してくれ、一緒に遊べる友達が出来たと感じて嬉しかった潔は笑顔を浮かべ、別れの挨拶をした。
そして、手をひらひらと振りながら草むらに入っていく氷織を見えなくなるまで見守った。
その日はホクホクとしていた。同年代の子と久々に絡めたことが意外と楽しくて、思わず孤児院の掃除中にはちみつきんかんの歌を口ずさむ。
そんな潔に、他の子供たちは何か良いことでもあったのかと聞くが、潔は機嫌良く何でもないよと答える。
氷織の希望により今回会ったことは2人だけの秘密にしようということになっている。きっと何か事情があるのだろう。服装からしていいところの家の息子っぽいので、勝手に家を抜け出してこんな辺鄙な孤児院まで来てたのがバレたら駄目だとかそういうの。
そーいえば氷織ってどこかで聞いたことがあるような…まいっか。これからもっと仲良くなれたらいいなぁ…
そう願いながら潔は、明日も会えることを楽しみにしていた。
とある少年の視点
僕は魔剣士の名家の一人息子として生まれてきた。生まれた時から強い魔力を持った僕に、両親は歓喜していたのを朧気に覚えている。
両親は、僕を育てる為に惜しみなくお金を使い、教育を施してくれた。
少し重いと感じるようなその期待も、息子に対する愛からだと信じて疑っていなかった僕は、その期待に応えるように頑張った。
でも、それは違った。ふと目が覚めた夜、聞こえてきた喧騒。男と女の怒鳴り声。
恐る恐る聞き耳をたて、内容に衝撃を受けた。
どうやら両親の夢はそれぞれ所属していた団体の団長になることであったが、ついぞ魔法師団副団長、騎士団副団長で終わってしまったらしい。そして、夢破れた自分達の野望を息子に叶わせるという倫理もない行動にでた。
夢の書き替えの為の道具として氷織羊に接していたと知り、僕は心が苦しくなった。
両親に沢山言われてきた王国騎士団の頂点に立つことが自分のしたい事でもないと気付き、今まで頑張っていた剣術や魔法理論の授業にも身が入らなくなる。
副団長止まりといっても両親も相当腕の立つ人達だ。その技術は小さい頃から見てきた。しかし、そんな両親でもトップには立てなかったのに自分が立てるとも思えないし、立ちたいとも思えない。
こんなモチベーションでいれば、成績が落ちるのも必然で両親からの小言が増えた。
それが嫌で何とか成績を上げたら褒められるが、以前のように喜べない。気持ち悪い。僕を道具としてしか見てないくせにキモチワルイ。
そんな地獄のような日々を送ってふと思う。
僕は何のために生きているのだろう。
今まで魔法(正確には魔力行使)と剣しか扱ってこなかった僕にはそれ以外何もない。やりたい事も好きな事もない。
ぐるぐると僕の中で何かが燻る。
今まで熱心に僕のことを見てくれていたのは、道具としての僕で、氷織羊を見てくれていなかった。その事がどうしようもなく悲しくて寂しくて。
本当はちょっとでも愛してくれているのではないかと期待もした。でも、度々挟まれてくる将来は立派な騎士団長という言葉に期待が砕ける。
受け入れたくない現実だった。
自分が勝手に期待して、裏切られたと勝手に感じてるだけ。そう思うようにして僕は、両親から愛されていなかった事実に蓋をして、ただその日にある稽古や授業を受け、必要最低限に一言二言会話をするだけの人間になった。
魔力を測りに行った日、あれから両親の期待がさらに大きくなった。
僕は家にいるのが息苦しくて、逃げたくて、今日初めてこっそりと家を抜け出した。
初めて繰り出た街は、家周辺と比べると綺麗さが落ち、いかにも発展途上の街という印象を覚える。が、あそこにいるよりはとても息がしやすい。歩けば歩くほど開放感が出てくる。
今頃、護衛が僕のことを探しているに違いないだろうな。
それが申し訳ないなと思いながらももう少しだけ家のことを忘れていたくて、歩き続ける。
少し周りからの目線を感じる。
当然だろう、なるべく質素なものを選んだとは言え、やはり服装は質の良さが全体的に表れていてこの街を出歩くには少し浮いていた。
それが居心地悪くて氷織は人目から離れるように横道の草むらに入る。しばらく草陰に隠れながらぶらりと歩いていたら面白いものを発見した。
「……ふっ!ハァッ…!!」
建物の裏で隠れるように何か掛け声を上げながら珍妙なポーズ(虚空に向かって手を掲げたり、腕を押さえている)をとっていた少年がいた。
妙に気になって少し観察していたら、少年がいきなりこちらを振り向いた。慌てて草むらに頭を隠し、視線を下げた。
気付かれた…?
少年の驚異的な感の鋭さに驚きつつ、もう一度そっと草陰の隙間から少年を覗いた。
チラチラとこちらを見ていて、やはりもうこちらの存在自体には気づいているようだった。
見つかる見つからないの瀬戸際でドキドキしていると、向こうから声をかけられた。出ようか迷ったが盗み見していた罪悪感もあって少年の前に出てみた。
少年はどうやらこちらに見覚えがあったようで大きな瞳を更に大きくさせ、驚いていた。青色の瞳が綺麗だと瞬間思った。
そして、どうやら僕のことは教会で見掛けたらしい。確かにあの時は少し目立ってしまったので見覚えがあってもおかしくない。
少しからかってみると少年はいい反応をくれた。それが楽しくてちょっと気分が上がった。少年は潔世一くんといった。こちらも名前を教えると、嬉しそうに名前を呼んでくれた。
名前を呼ばれて嬉しいと思ったのは初めてだった。今まで自分の上の名前を知っている人達にしか会ったことがなかったから純粋に僕自身と向き合ってくれてるような気がして、心がぽかぽかした。
彼、潔くんはどうやら魔法を習得したいらしく、僕はその手伝いを買って出た。
潔くんは存外、器用で魔力の流れも一発で把握していた。きっと感覚が鋭いんだろう。遠くから見守っていた僕に気付いたほどだ。
凄いと思ったことを伝えたら潔くんは嬉しそうにはにかんだ。それを見ていると僕も嬉しくなって一緒に笑った。
この日は人生で一番楽しかった。また明日と約束をして離れたあとも、夢だったんじゃないかと潔くんに触れた手のひらを見つめる。
初めての友達…と言っていいのか分からないけど、話せる同年代男の子が出来て僕は心が軽くなった。
これならどんな嫌なことがあっても乗り越えられそうな、そんな無敵感がある。
友達一人増えたくらいで大袈裟に見えるかもしれないが、僕にとっては人生で初めての信頼できそうな人間に出逢えたのだ。世界が変わるような衝撃を受けても仕方ないだろう。
今日は、ぷち家出して良かった。今まで家族に固執しすぎていたのかもしれない。外に目を向ければ案外、自分のしたい事も見つけられるかも。
そう思えば心が軽くなった。家に帰るのは億劫だが、またあの子に明日も会いたい。
「あ…」
早速見つけた小さい願い、したい事に気付き足が止まる。
「ふふ」
暗闇の中に見つけた光を思い出し、氷織は少し表情が明るくなった。
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めっちゃお久しぶり更新です。それとこんな駄作に♡沢山ありがとうございます、、めちゃめちゃ嬉しいです
次は誰を登場させようかな…