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──翌朝、記された住所を頼りに家を探し当てると、そこは都内の一等地にある閑静な住宅街の中心部で、邸宅の大きさもさることながら、その敷地の広さにも驚かないではいられなかった。
「うわぁー、すごい大きいんだけど……」
大邸宅に圧倒されて、思わず感嘆の声を上げる。
「やっぱり、あのHASUMIのCEOともなると、なんて言うかスケールが違うよね……」
唖然として門前で立ちすくんでいると、不意に黒鉄の門がスーッと横へ滑るように開いた。
「えっ、まだなんにもしてないんだけど、何、どうして?」
自動で開いたことにびっくりして、わたわたと慌てふためいていると、門の脇にあるインターホンから、
「どうぞ入っていらしてください」
と、女性の声が聞こえた。
「は、はい!」と、反射的に返して、(……今の声、奥さんだったのかな?)と、ふと思う。
まるで不審者かのようにびくびくと辺りを見回しながら、広いお庭沿いの道に並んだ敷石を踏み締めて玄関の前まで歩いて来ると、重厚な黒塗りのドアが中から押し開けられた──。
「おはよう。よく来てくれたね」
今日も黒地にグレーのピンストライプが入ったスーツをそつなく着こなした蓮水さんが、ビジネスカバンを抱えた、やや年配のようにも窺える和服を着た女性を伴って現れた。
「おはようございます。本日からよろしくお願いします」
後ろに付き添っている方が奥様なんだろうか……。だけどだいぶ年が上のようにも感じられるけれどと思いつつ、身体を折り曲げて頭を下げると、
「そう緊張しないでいいから、もっとリラックスしていてくれ」
優しい気遣いの言葉がかけられた。
「……今度の運転手さんは、まただいぶお若い女性の方なんですね?」
すると、背後の女性が私の顔をちらりと見やって、そう口をはさんできた。
「いや、年下には違いないんだが……」
と、蓮水さんが多少困っているようにも感じられるのを見かねて、
「私は、そんなには若くはないですから……」
と、口を開いた。
「おいくつなんですか? あなたは」
その女性からぶしつけに訊かれて、
「……32歳です」
応えて返すと、「まぁ」と口にして、
「32歳なら、それほど年も離れてはいなくて……ようございましたね?」
女性はなぜだか意味深とも取れるような微笑を、ふっと口元に浮かべた──。