「何が、いいんだ? 華さん」
蓮水さんがその女性に顔を向け、不思議そうに首を傾げると、
「ああ、この人は、名越華さんと言って、私の家の手伝いをずっとしてもらっている人なんだ」
そう私に紹介をした。
「はじめまして、三ッ塚 鈴と言います。今日から、お車の運転手をさせてもらいますので、よろしくお願い致します」
頭を垂れて応えた私に、
「ええ、こちらこそ。ですが、お気をつけくださいましね。陽介様は、これで意外とたらしなところがありますから」
声をひそめて、含むようにも話した。
「……たらし、ですか?」一体何のことだろうと感じる。
「天然の人たらしですので、お気をつけを」
本気とも冗談ともつかないような口ぶりで、華さんから返されて、
「…はい」と、戸惑いつつ頷く。蓮水さんが”天然の人たらし”って、どういう意味なんだろうとぼんやりと思った……。
「それじゃあ、ガレージに行こうか? 」
華さんからカバンを受け取って、蓮水さんが先に立って歩き出して行く。
その背中に、「いってらっしゃいませ」と、声がかけられて、奥様が結局は出て来られなかったことに引っかかりを感じはしたけれど、何か事情があるのかもしれないと、理由を聞くのは憚られた。
車庫へ着いて、
「その車だ」
指を差された車の大きさに、驚きのあまりその場に棒立ちになった。
「こ、これって、なんていう車なんですか!?」
信じられないくらいのサイズ感に、唖然として口を開く。
「ベントレーだ。イギリスのメーカーの物で、私はこの車が好きなんだ」
「……ベントレー、ですか?」
聞いたこともない車種だと思う。
それにしても、このラグジュアリー感は……。なんていうか車まで、スケールがでっかくて……。
目の前にでんと鎮座する、銀色に輝く車体に圧倒されて、呆然と突っ立っていると、
「……そろそろ運転をお願いしてもいいかな? あまり会社へ行くのが遅くなってもだから」
と、キーが手渡されて、
「ああ、はい。すいません、すぐに出発させますので」
ドアを開けると、醸し出される高級車の雰囲気にビクビクと
しながら運転席へ乗り込んだ──。
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