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やらかした。
朝、目が覚めた瞬間、俺はそう思った。
いや、正確には、目が覚めて隣にいる恋人の顔を見た瞬間だった。
「……ん、おはよ、阿部ちゃん」
寝起き特有の、少し低くて柔らかい声。
目黒蓮。
俺の恋人。
大好きな人。
そして、昨日の俺の恥ずかしい姿を、たぶん一生忘れてくれない人。
「…………」
「ん? どした?」
「……なんでもない」
「えー、なんか顔赤くない?」
「赤くない!」
反射的に布団を引っ張り上げた。
だって、思い出したのだ。
昨日の夜。
嫉妬していたことを打ち明けて、めめに抱きしめられて。
寂しかったとか、好きすぎて嫌になるとか、普段なら絶対に言わないようなことを散々口にして。
そのうえ。
『……めめぇ、好き……』
………………。
「~~~~っ!!」
無理。
無理無理無理。
なんであんなこと言ったんだ、俺!!
いや、言ったこと自体は別にいい。
好きなのは本当だし、甘えたいと思ったのも本当だし、めめに抱きしめてもらえて嬉しかったのも本当。
でも。
あの声は何!?
あんな、語尾が伸びたみたいな。
いつもよりずっと甘ったるい声で。
『めめぇ』
って。
「阿部ちゃん?」
「…………」
「ねえ、こっち向いて?」
「やだ」
「なんで?」
「……恥ずかしいから」
言ってから、しまったと思った。
「え?」
めめの声が、明らかに弾んだ。
「今、恥ずかしいって言った?」
「言ってない」
「言ったじゃん」
「言ってない!」
「えー、かわいい」
「っ、うるさい!!」
布団を頭までかぶる。
もう今日は、このまま一日を終えたい。
できれば一週間くらい。
いや、いっそのこと一生。
「阿部ちゃん」
布団の上から、ぽんぽん、と優しく叩かれる。
「……なに」
「出ておいで?」
「やだ」
「朝ごはん、一緒に食べよ?」
「……あとで食べる」
「じゃあ、ここでぎゅーして待ってる?」
「…………は?」
思わず布団を少し下げた。
めめは、にこにこしていた。
ああ、だめだ。
この顔はだめだ。
絶対に俺のことをかわいいと思っている顔だ。
「……なに、その顔」
「んー? 阿部ちゃんかわいいなって」
「昨日のこと、忘れて」
「えー?」
「お願いだから」
「なんで?」
「なんでって……!」
言えるわけないだろ。
自分がどれだけ甘ったれていたか、朝になって冷静に思い返したら恥ずかしくて仕方ないなんて。
しかも、めめは。
「俺、昨日の阿部ちゃん、すっごい嬉しかったけどな」
……そういうことを。
そんな優しい顔で言う。
「……っ」
「いつも俺のこと考えてくれてるの、知ってるよ。でも、寂しいときに寂しいって言ってくれるの、すごく嬉しい」
「…………」
「俺の前では、頑張らなくていいからね」
ずるい。
本当にずるい。
そんなことを言われたら、怒れないじゃん。
「……でも、俺、変だったでしょ」
「どこが?」
「……いっぱい甘えたし」
「うん」
「……変な声、出したし」
「…………」
めめが一瞬、黙った。
やめて。
その沈黙、やめて。
「……めめ?」
「いや、思い出しちゃった」
「忘れてってば!!」
「ごめんごめん! でもさあ……」
めめが笑いながら、俺の頭を撫でる。
「『めめぇ』って、呼んでくれたの、めっちゃかわいかった」
「~~~~っ、ばか!!」
枕を投げた。
めめはそれを難なく受け止めて、さらに嬉しそうに笑った。
「もう一回呼んで?」
「絶対やだ!!」
「えー、お願い」
「やだ!!」
「めめぇ、って」
「言わない!!」
「阿部ちゃーん」
「うるさい!!」
朝から何をやっているんだ、俺たちは。
というか、なんでこの人は、恋人が恥ずかしがっている姿を見て、こんなにも幸せそうなんだ。
……いや、 知ってる。
俺が照れていると、めめはいつも嬉しそうなのだ。
俺が普段見せない顔を見せると、まるで宝物を見つけたみたいな顔をする。
それが、嬉しくないわけじゃない。
むしろ。
すごく、嬉しい。
……悔しいけど。
「……めめ」
「ん?」
「……ぎゅー、して」
言った瞬間、めめの表情がふわっと緩んだ。
「うん。おいで」
布団から出ると、すぐに腕が伸びてきた。
そのまま、ぽすん、と胸に収まる。
大きな手が背中を撫でてくれる。
ゆっくり、ゆっくり。
俺が落ち着くまで、何度も。
「……あったかい」
「うん」
「……眠くなってきた」
「寝ていいよ」
「……朝ごはんは?」
「あとで一緒に食べよ」
「……仕事は?」
「まだ時間あるよ」
「……ほんと?」
「ほんと」
全部、優しく答えてくれる。
俺がどれだけ面倒なことを言っても、めめは絶対に急かさない。
それどころか。
「阿部ちゃん、今日いっぱい甘えていいからね」
なんて。
「…………」
「昨日、いっぱい我慢してたんでしょ?」
「……別に」
「うん。別に、ね」
否定しないでくれる。
無理に聞き出そうともしない。
ただ、抱きしめてくれる。
……好きだなあ。
どうしようもなく、好きだ。
「……めめ」
「ん?」
「……好き」
胸に顔を埋めたまま言う。
今度は、昨日みたいに勢いで言ったわけじゃない。
ちゃんと、自分で言いたかった。
「俺も好きだよ」
頭に、ちゅ、とキスが落ちた。
「大好き」
「…………っ」
「阿部ちゃんは?」
「……もう言ったじゃん」
「もっと聞きたい」
「……欲張り」
「うん。阿部ちゃんのことは、欲張りになっちゃう」
……ほんとに。
この人には敵わない。
「……大好き、だよ」
小さく答えると、めめが俺をぎゅっと抱きしめた。
「ん、ありがと」
その声があまりに嬉しそうで。
俺はまた、胸の奥がくすぐったくなった。
……ああ、もう。
昨日からずっと、心臓が忙しい。
結局、そのまましばらく抱きしめられていた。
ようやく起き上がって、二人で朝ごはんを食べて。
俺がコーヒーを淹れていると、後ろからめめが近づいてきた。
「阿部ちゃん」
「ん?」
「今日、仕事終わったら何する?」
「んー、特に決めてないけど」
「じゃあ、帰ったらいっぱいくっついてよ」
「……は?」
思わず振り向く。
「昨日みたいに」
「っ、だから!!」
「ん?」
「昨日のことはもういいでしょ!?」
「えー、なんで? 俺、嬉しかったのに」
「俺が恥ずかしいの!!」
言ってしまった。
めめが、ぱちぱちと瞬きをする。
それから。
「……そっか」
いつもより少しだけ、優しい声になった。
「恥ずかしいんだね」
「…………うん」
「わかった」
……あれ。
意外とあっさり引いてくれた。
ほっとしたのも束の間。
めめが後ろから俺の肩に顎を乗せてきた。
「じゃあ、昨日のことは言わない」
「……うん」
「かわいいって言うのも我慢する」
「……うん?」
「ぎゅーってするのも、阿部ちゃんが恥ずかしくないときだけにする」
「…………」
「だから、阿部ちゃんがしてほしいときは、ちゃんと言ってね」
………………。
だめだ。
そういうところだ。
俺が一番弱いところを、どうしてこの人は、こんなにも正確にわかってしまうんだろう。
「……めめ」
「ん?」
「……今、ぎゅーしてほしい」
言うと、めめは一瞬だけ目を丸くした。
それから、ものすごく幸せそうに笑った。
「うん。もちろん」
後ろから腕が回ってきて、優しく包み込まれる。
「……阿部ちゃん、好き」
「……うん」
「ほんとに、好き」
「……うん」
「今日も明日も、ずっと好き」
「……っ、もう……」
顔が熱い。
でも、離れたくない。
だから俺は、めめの腕に自分の手を重ねて。
ほんの少しだけ、体重を預けた。
「……俺も」
「うん?」
「……俺も、ずっと好き」
そう答えると、めめは何も言わずに、俺を抱きしめる腕に少しだけ力を込めた。
それが、嬉しかった。
そして。
その日の夜。
ソファで隣に座っていた俺は、うっかりしていた。
めめが飲み物を取りに立ち上がったとき。
なんとなく、寂しくなって。
無意識に、服の裾をつまんでしまったのだ。
「……めめ」
「ん? どうした?」
「…………」
しまった。
またやった。
めめが、俺の手元を見る。
俺も、自分の指先を見る。
数秒の沈黙。
そして。
「……阿部ちゃん?」
「……なに」
「今、引き止めた?」
「ち、違う!!」
「えー? でも、服つまんでるよ?」
「これは、その……!」
「寂しかった?」
「違う!!」
「そっかあ」
めめが笑う。
絶対にわかっているくせに。
「じゃあ、俺、飲み物取ってくるね」
「…………」
指先から、そっと服が離れていく。
めめが立ち上がる。
…………。
「…………めめ」
気づいたら、呼んでいた。
めめが振り返る。
「ん?」
俺は、ものすごく小さな声で言った。
「……早く戻ってきて」
その瞬間。
めめが、完全に固まった。
「…………え?」
「……だから、早く……」
「阿部ちゃん」
「……なに」
「かわいすぎる」
「っ、もう!!」
逃げようとした俺を、めめが笑いながら抱きしめた。
「ごめん、ごめん! 嬉しくて!」
「……ばか」
「うん。阿部ちゃんのことになると、ばかになる」
「……知らない」
「ねえ、もうちょっとだけ、このままでもいい?」
……そんなの。
断れるわけがない。
「……ちょっとだけ、ね」
「うん」
ぎゅう、と抱きしめられる。
俺も、めめの背中に腕を回す。
そして、聞こえるか聞こえないかくらいの声で。
「……めめぇ」
と、呼んでしまった。
…………。
………………。
「…………阿部ちゃん」
「…………なに」
「今の、もう一回」
「絶対やだ!!!!」
めめの笑い声が、部屋いっぱいに響いた。
俺は真っ赤な顔を隠すために、めめの胸に顔を埋める。
でも。
その腕の中から、逃げるつもりはなかった。
だって。
こんなに恥ずかしくて。
こんなに甘やかされて。
こんなに、どうしようもなく好きなのは。
きっと、この人の前だけだから。
「……めめ」
「ん?」
「……好き」
今度は、ちゃんと言えた。
すると、めめが俺の髪を撫でながら、優しく囁いた。
「俺も。大好きだよ、阿部ちゃん」
……ああ。
やっぱり、敵わない。
昨日の俺を忘れてほしいなんて、もう言わない。
だって、昨日の俺も。
今日の俺も。
全部、この人が好きな俺なんだって。
そう思ったら、少しだけ恥ずかしさが薄れた気がした。
……まあ。
明日の朝には、また思い出して悶絶するんだろうけど。
でも、そのときは、また。
めめにぎゅーってしてもらおう。
……なんて。
そんなことを考えている俺は、きっともう。
とっくに、めめに甘やかされることに慣れてしまっている。
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前回のお話の続きというか後日談的なのです!
#Snow Man
さくらさく🌸
11,627
NIKITA
455
junp_
6,390
クリオネ?
351
コメント
6件

素敵💓最高🥰 照れまくってる💚 ニヤニヤ😁している🖤
最高だった😭こんなんずっと見てたくなるじゃん!毎回尊く描いてくださり本当に尊敬してます🫡 ありがとうございます、先生!!