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桜の樹の下には
※死ネタ
「桜の木の下には死体が埋まっているらしいよ」
青空の下、流れる雲を見ながら、店長はそう言った。
季節はまだ、凍える風が吹く真冬の時期だった。
春、ましてや桜を見ることはまだまだ到底先の話だ。
そんな季節外れの話を持ち出した店長に、私は問いかける。
「急にどうしたんですか?」
「そういう話があるんだよ」
店長はふと、背後へ視線を向けた。
まるで、そこに何かがあるかのように。
「桜の花弁ってピンク色でしょ」
「そうですね」
「じゃあ、そのピンクは何処から来たの?」
空から足元の芝生へ目線を落とし、店長はそれをゆっくりと撫でた。
私はその動きを、ただカメラ越しに追い続けていた。
「そのお話にはね、木の下に埋まっている死体の血を吸い取ってピンク色に染まったって書いてあるんだ」
そう言うと、店長は何かを見透かしたように一点を見つめ続けた。
「……店長」
「なに?」
「貴方には、何が見えてるんですか?」
店長は少しだけ間を置いて、くすりと笑った。
「……さぁ、なんだろう」
──────────
季節が過ぎ、春の日差しが庭に差し込む頃。
そこには、桜の木が立っていた。
最初に気づいたのは、誰だったか。
小さな苗木が生えていると言われた数日後には、もう見上げるほどの高さになっていた。
枝は広がり、淡い花を咲かせている。
誰も不思議がらなかった。
「まぁ、この世界だし」
誰かのその一言で、皆が納得した。
このロスサントスでは、奇妙なことなど珍しくない。
街の一角の庭に、突然桜が生えることなど些細な変化なのだろう。
誰かが言った。
「お花見をしよう」
と。
皆が桜を囲み、それぞれ自由に過ごしている。
私はカメラを回した。
レンズ越しに見る桜は、やけに色が濃く見えた。
風が吹き、桜吹雪が舞う。
気付けば、体はあっという間に花弁で埋め尽くされていた。
体に付いた花弁を一枚手に取り、太陽に透かしてみる。
花びらの中に、赤い道筋が見えた気がした。
次の瞬間、また風が吹いた。
手に取った花弁は、風と共に流れていってしまった。
美しい桜吹雪に、皆は感嘆の声を上げる。
私は庭に腰を下ろした。
ここは、ちょうど店長が座っていた場所だ。
あの時の店長のように、足下の芝生を撫でる。
少しだけ、温かい気がした。
足下に向けて、声をかける。
「綺麗に咲きましたよ、店長」
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