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『首すじに落ちる熱 ― 最後のページ』
数日ぶりに顔を出したスタジオ。
気まずさと緊張を引きずったまま、あなたはドアをそっと開ける。
中には、若井滉斗と藤澤涼架のふたり。元貴の姿は、まだなかった。
「……あ、おつかれ」
藤澤さんが先に気づき、軽く手を上げる。
若井さんも続いて「おつかれっす」と微笑んだ。
「お、おつかれさまです」
自然に返したつもりだったけど、声が少し裏返る。
すると、藤澤さんが――何かを察したような顔をした。
「……ねぇ」
「……はい?」
「元貴と、なにかあった?」
「……っ!」
その一言に、心臓が止まりそうになる。
顔から一気に血の気が引いていく。
「べ、別に、何も……っ」
「うそ下手すぎ」
若井さんが、くすっと笑った。
「元貴、この前のリハ後、やけに機嫌良かったしさ。しかも次の日も、首になんかついてたし」
「……!」
「しかも隠そうともしないで、スタジオ来るんだもん。わかるって」
言葉に詰まるあなたに、藤澤さんがやさしい目で近づいた。
「別に、怒ってないよ。誰が誰を好きになったって自由だし。……ただ、ちょっと心配にはなるかな」
「心配……?」
「うん。元貴って、いざってとき、暴走するでしょ?」
あなたは思わず苦笑した。
あの夜を思い出さずにはいられなかったから。
そのとき――
「何話してんの?」
元貴がスタジオに入ってきた。手にはコーヒー。表情はいつもの“無害”な笑顔。
「いや〜なんでもないよ〜」
と、藤澤さんがとぼける。
でも、あなたの目を見ていた。
そして、その目は言っていた。
**「秘密にしておくよ」**と。
あなたは小さくうなずいて、意を決して口を開いた。
「……あの、お願いです。まだ……誰にも言わないでほしくて」
若井さんが腕を組み、ふっと息を吐いた。
「まぁ、元貴のことを本気で考えてるなら、俺は何も言わないよ。でも……」
彼は少しだけ真剣な目で、あなたを見つめる。
「泣かせたら、許さないからね」
その言葉に、あなたは驚いたように目を見開いたけど、すぐにうなずいた。
「……はい。私も、元貴くんを大事にします」
「ならよし」
藤澤さんがニッと笑い、若井さんもそれに続いた。
それから、元貴があなたの隣に静かに座り、何も言わずにそっと手を握ってきた。
誰にも気づかれないように、そっと、でも確かに。
あの夜から始まったふたりの関係は、
まだ秘密のまま、少しずつ――確かなものへと変わっていく。
そしてこの物語は、
あたたかい沈黙の中で、そっと幕を下ろした。
おわり
次回若井…かも……?