ひと夏がこんなに長いと思ったのは、生まれて初めてかもしれない。
何度ギターを握っても、鍵盤を鳴らしてみても、コレという曲が生まれなくて。
ワンフレーズ作っては消し、また作っては消しの繰り返し。
曲って、どうやって作ってたっけ…
はぁーっと溜息を吐きながら椅子の背もたれに全身を預けると、ギシッと軋む音がした。
俺の心が立てた音かと思った。
何もしない時間がもったいない。
手持ち無沙汰なのを誤魔化すように、チラリと携帯を覗いてみる。
『昨日はごめん。ギター壊れてない?』
『大丈夫』
『良かった。ホントごめん』
なんとなく後味の悪いやり取りが最後で、スッキリしないまま…もう2週間か。
夏休みだから、もちろん朝のピンポンもない。
あいつも毎日暇なわけじゃない
俺だって暇じゃないし
どれくらい、ぼぅっと天井を見つめていたのか。
次にギターに向き合った後には
初めてバラードの恋愛ソングを書き上げていた。
若井に聞かれるのは癪に障って、動画サイトにアップすることなく、隠すように保存フォルダに入れ込んだ。
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ピンポーン…
遠くで鳴る玄関の呼び鈴に、夢から意識が引き剥がされる。
まだ夢の中に居たくて、ベッドの中で寝返りをうち、うとうとしていたら
「元貴〜、若井くんきたよー!」
予期せぬ母親の声に飛び起きた。
パジャマのままドタバタと階段を降り玄関先に出ると、しっかりと制服に身を包んだ若井がいた。
「超寝起きじゃん」
「うっせ」
フッと笑う若井は、たった1月程でなんだか大人びて見えた。
あ、背が伸びてるのか。目線が同じだ。ムカつく。
「今日から2学期だよ!学校行く?」
「いかない」
「確かに、その頭じゃ無理だよね」
「え?っあ!うぜぇー!」
寝起きはいつも寝癖が酷いんだった。人に会わないから忘れてた。
慌てて頭を両手で抑えたけど、腹を抱えて笑う若井の前では無意味だった。
まるで友達みたいなやり取りが、すごく心地よかった。
「夏休み中、曲作らなかったの?」
「…俺だって忙しいんだよ!!」
「そっか。新曲楽しみにしてるからな!じゃ!」
走り去る若井の背中を見てたら、今なら曲が作れる気がして。
俺はまた1人、部屋へ籠った。
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遅筆ですみません。
いいね本当に励みになります、ありがとうございます。
アップした後に手直ししちゃう癖治したい。
コメント
8件
いや〜相変わらず大好きです!もっくんとひろぱのトークが最高😆
大森さんの心情の変化がリアルですね!じんわり変わっていく感!