※一部奇病(天使病)の表現があります
小さい頃、『空を飛んでみたい』なんて誰しも1度は考えたことはあるだろう。
勿論、僕もその1人や。
どこへでも飛んでいけるような大きな翼が欲しい…なんてな。
…だけど、こんな形で叶うなんて予想もしていなかった。
始めは少し痛むな、とかその程度やった。だが、徐々に痛みも増していき普通ではない事くらい直ぐに気付く。
「いっつー、なんやろこれ」
ちょうど肩甲骨あたりにポコッとした小さいコブが2つ。なにかの病気か、怪我が悪化したのかとペ神に診てもらったが
「んー、俺にもわかんないなぁ。ちょっと調べてみるね」
と、原因不明に終わった。
まぁでも、仕事に支障が出るわけでもないし、放っておいても良いかな。意識しなければ痛みも気にならんやろうし。
それから1ヶ月経った今日。
うーん、非常にマズいやろこれは。
背中に今まで以上の違和感を感じた僕は姿見の前に急ぐ。背中には、昔絵本で見た天使の羽、いや、翼がそこにはあった。
「ぅえ!?なんやこれ!?!?」
浮世の穢れを嫌うような白は、驚きを隠せない僕を横目にただ悠々と暇を持て余している。
現実とは大分かけ離れたこの現象に落ち着いていられる程肝は座っていないが、ここで取り乱す訳にもいかなかった。
少々動きの鈍くなった頭を回転させ、傍のインカムを手に取る。仲間達に“今日は体調が優れないから自室で仕事をする”と伝えるためだ。
「あー、みんな聞こえとる?」
最初に反応したのは桃色。
「トントン?どないしたん??」
「今日なぁ、結構ダルいんやわ。多分風邪かなんなやと思うからあんま僕の部屋来んといてな」
桃色に続いて茶、青、水色の声が聞こえる。
「分かりました。お大事にしてくださいね」
「トンち、早う良くなってな(建前)よっしゃ、仕事サボれるわ(本音)」
「ありがとな、エミさん。大先生は書類倍な」
「ゔえ゙!?」
「ま、ゆっくり休めや!!!」
「はーい、ありがとなぁ」
それを最後に通信は途切れ役目を終えたインカムからは何も聞こえなくなり、気味が悪い程の静寂はじわじわと部屋を侵食していく。
「仕事、始めるか。」
誰に言うでもない言葉は静けさの中へ溶けて消えた。
あれからどれ位経ったのだろう。
山のように積み上げられていた書類は全て終えられ、時計の針は僕を置いて何周も先へと進んでいた。
「もうこんな時間なんか…」
あんなに高く昇っていたハズの太陽は舞台裏に戻ろうとしている。きっと袖の方では次の[[rb:出番> シーン]]に備えて月が待機しているのだろう。
…そういえば、昼飯食べるの忘れてたな。
腹の虫が鳴き出したのは、それを自覚したのとほぼ同時だった。
今から行けば夕食には間に合うだろう、と自室の扉に手をかけ手前に引く。
いや、引こうとした。引こうとして思い出した。今の自分は、普段の姿とは違っていることに。
目的を果たすことが出来なくなった右手は、弱々しく元の場所に戻っていく。
「そっかぁ、僕今、人やないんやったな…」
仕事に没頭していて気付かなかったが、はたまた態とそうしていたのか、意識の外に追いやられていた不安が思考の中に留まり出した。
“元の姿に戻れなかったらどうすれば良いのか”
1度浮かんだ不安は、消える事など知らずにふよふよと自分の頭を埋め尽くし、それに合わせて呼吸の間隔も徐々に短くなっていく。
「カッ…ハ……ハッ………ヒュッ」
少しずつ霞んでいく意識の中で名前を呼ぶ。絶望1色のあの世界から救ってくれた“彼”の名前を。
命を懸けて守り抜く、傍にいると誓ったあの名前を。
「ぐ、る………っぺ……ん…」
それはとてもか細く、誰にも拾われることなどなく、とっくに侵されきった静寂と1つになる……はずだった。
「聞こえたぞ、トントン」
幻聴まで聞こえるなんて、僕もいよいよやなぁ。
歪んでいく視界が最後にとらえたのは、舞い散る白と、揺れる金と……
【暗転】
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