第12章:遺された声と、ふたつの鼓動
レファリエの休息を終えたゲズとセレナは、旅を再開した。
次なる目的地は、「カランの星」――かつてリオンが独りで守り抜いた村がある場所。
小さな輸送船に乗りながら、ふたりは穏やかな時間を過ごしていた。
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―星降る旅路にて―
「ねぇゲズ、昔は……恋とか、したことあった?」
セレナの問いに、ゲズは飲んでいた水を吹きかけそうになった。
「こ、恋!? え、いや、そんな……」
「ふふ、やっぱり。そんな顔すると思った」
「お前は……あるのかよ」
「……ないよ。私はずっと“誰かの妹”とか、“サポート”って立場だったから。
でも今は、そうじゃない気がしてる」
その言葉の意味に、ゲズは言葉を返せなかった。
ただ胸の奥が、雷よりも熱くなるのを感じていた。
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―カランの星・“英雄の村”―
そこは静かな、草花に囲まれた村。
かつてリオンが命を賭して守ったこの地には、今もリオンを敬う小さな祠が残っていた。
祠の中には――リオンの遺した映像記録が残されていた。
映像が起動する。
「……もし、これをセレナかゲズが見ているなら、俺はもうこの世にはいないだろう」
「セレナ、お前はもう“誰かの影”じゃない。
自分の足で歩いて、自分の感情で生きていいんだ」
「ゲズ……お前に託したのは“力”じゃない。
世界を救う“心”だ。
セレナを、俺の代わりに――じゃなく、お前自身の意思で守ってやってくれ」
ふたりは、言葉を失っていた。
映像が終わってもしばらく、空気は止まったままだった。
セレナが、静かに呟いた。
「……私は、あの人を超えてはいけないと思ってた。
でも今は――超えてもいいって、思える」
ゲズは、そっとセレナの手を取った。
「俺も、もうあの人の背中を追うんじゃない。
セレナ。これからは、お前の隣を歩きたい」
ふたりの手は、もう離れなかった。
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―暗黒の刻印、目覚める黒騎士―
一方、月の影で――
黒き鎧の男、レル=ザイオスが完全に覚醒していた。
だがその目には、わずかに、かつての「意志」が揺れていた。
「……俺は、なぜ戦う?
何を、壊そうとしている……?」
その刹那、ルシフェルの囁きが空間を満たす。
「すべては“愛”が生んだ愚かさだ。
お前もまた、情に堕ちた敗者にすぎん」
レル=ザイオスは剣を手に、再び無言の兵器となって消えた――
だが、その魂の奥には、“何か”が確かに残っていた。
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