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そのときだった。ステージに戻ると客席後方のドアの前に、数人の男が現れた。
「お待たせしました! 株式会社ミューズ 米子社長の登場です」
英治の大きな声が、会場に響く。
スポットライトが、中央通路をゆっくりとした足取りで降りてくる社長を追う。
舞台前に来ると一旦立ち止まり、脇の階段を、一段一段登る。
そうして音楽業界、いや産業界の皇帝が、現役ギタリストとして、ついにステージに上がった。
昨日の今頃には、まだなかった話だ。夢は一瞬にして実現するって何かの本に書いてあったけど、本当だった。
社長は客席に手を上げ、それから深々とお辞儀をした。
贈られる花束を受けとり、それから俺に握手を求めた。俺は余裕で受け止めてやった。手は思ったよりも柔らかい。対照的に、指の強さでこの人はまだ現役ギタリストだと悟った。
係が、エレキギターはストラトキャスターとレスポールのどちらのタイプがいいでしょうと米子氏に聞く。彼はどちらも選ばなかった。自分のを持ってきたという。