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それから3年の月日が流れた。
20歳となった梓は、地元の商社に就職し、OLとして忙しい日々を送っている。
あの騒動以来、駿と離れ離れの生活となってしまった梓は、アルバイトをしながら学費を稼ぎ、親友である聖奈や沙月、それから新しく担任となったつかさの献身的な支えもあって、高校生活を楽しく過ごせた。
卒業後の進路についてつかさから大学への進学の提案もされたが、梓は就職の道を選んだ。
いち早く社会に出て、駿と同じ土俵に立ちたいという梓なりの想いがあったからだ。
そんな梓は同窓会の為に霞プリンスホテルのロビーにやって来ていた。
「みんなまだかな?」梓は辺りを見回す。
するとそれに気づいた聖奈と沙月が梓に満面の笑みで手を振りながら、小走りで近づいて来る。
「梓ー!」「会いたかったよー!」
聖奈と沙月は梓に抱きつく。
「あはは!みんな何言ってんの(笑)この前だってご飯食べに言ったじゃん!」
「ごめんごめん!なんか言ってみたかっただけ!」聖奈は笑みをこぼす。
「何それ!変なの(笑)」
あれから高校を卒業した聖奈と沙月は、2人で地元の大学に進学した。
就職と進学、別々の道に進んだ梓、聖奈、沙月だが、今でも交流は続いており、今でも互いの家を行き来したり、食事に行ったりしている。
「そういえば、つかさ先生見た?早く会いたいんだけど」
沙月が辺りを見回しながら呟く。
「もしかしたらもう会場に言ってるのかもよ?早く行こ!」
梓は、聖奈と沙月の腕を引っ張り、同窓会の会場となっている、黄藤の間へ向かう。
黄藤の間には、すでにほとんどの卒業生が集まっており、その奥に皆と談笑しているつかさの姿があった。
「つかさ先生ー!」つかさの姿を確認した梓は、走って近づき、力強く抱きつく。
「金森さんじゃない!!元気してた?」
「うん!元気だったよ!つかさ先生は?」
「私は・・まぁぼちぼちかな(笑)それに秋根さん!椎名さん!ふたりも久しぶりね!」
「お久しぶりです!つかさ先生も相変わらずお綺麗ですね」
「何言ってんのよ!そんなアナタこそ相変わらず口がうまいわね!」
つかさは満更でもないと言った様子で、聖奈な脇腹を突っつく。
それから皆は各々席に座り、昔話に花を咲かせながら食事を楽しむ。
「そう言えばさ?いまだに駿くんから連絡って無い訳?」沙月がそれとなく梓に尋ねる。
「うん・・あれからもう3年・・ずっと連絡ないんだよ?駿・・私の事なんて忘れちゃったのかな?」
梓は寂しげな表情で、グラスのオレンジジュースをストローで飲む。
「そんな事ないって!駿くんが梓の事忘れるはずないよ!」
聖奈が梓の肩に手をそっと添える。
「私だってそう信じたいけどさ・・こうも連絡ないとさ・・流石に心配になっちゃうよ・・・」
「そう・・だよね・・」沙月と聖奈は梓を黙って見つめる。
「どう?楽しんでる?」そこにビールが注がれたグラスを手にしたつかさがやって来る。
「ん?なんか暗いわね?何かあった?」
「駿くんの話ですよ・・あれから全然連絡無いらしくて・・・」
「ああ・・皆川先生か・・・」
聖奈の言葉を聞いたつかさは、梓を不安な眼差しで見つめる。
「つかさ先生には駿くんから連絡あったりしないんですか?」
「あ、あぁ・・うん・・私にも無いのよね・・・」
つかさは申し訳なさそうな顔をする。
「そうだよね・・私に連絡してないんだもんね・・つかさ先生に連絡・・してる訳ないか・・」
梓はがっかりした様にグラスをテーブルに置く。
それから皆は同じテーブルで食事をとっていた。
すると聖奈が「ねえ?つかさ先生?」とつかさに声をかける。
「なに?どうかした?」
「いや、どうって訳じゃないんだけどさ・・ただ・・さっきから腕時計で時間ばかり気にしてるから・・このあと予定でもあるのかな?って」
聖奈が指摘した様に、つかさは先程がらしきりに腕時計で時間を確認していた。
「あ、いや、別にそういう訳じゃないのよ?」
つかさは慌てた様に腕時計を手で隠す。
「え?実はこのあと彼氏とデートだったらしてー❤︎」
沙月はつかさを揶揄うように薄ら笑いを浮かべる。
「バ、バカ言うんじゃないの!」
つかさがそう言うと、ポケットに入れたスマホからLIMEの通知音が鳴り響く。
「ちょっとごめんなさいね」
つかさはそう言ってスマホを取り出して席を立つ。
「もしかしたら彼氏からのLIMEじゃないの?」
「あり得る!あり得る!つかさ先生って顔イケてるしスタイル良いし
聖奈と沙月が顔を見合わせて笑みを浮かべる。
「おまけに強いしね」
「きゃはは!そうだった!そうだった!」
梓の言葉に聖奈が手を叩きながら爆笑する。
「何を笑ってるの?」そこにつかさが戻って来る。
「別に何でもないですよ!こっちの話です!ねー❤︎」
3人はコソコソしながら笑みを浮かべる。
「まぁ、いいけど・・ところで金森さん?外の空気吸いたくない?」
つかさが急に思い立ったように梓に語りかける。
「え?外?私は別にいいけど・・にしても急だね?」
「いやね、ちょっと人酔いしちゃって、外の空気吸いたいんだけど・・付き合ってくれないかな?」
「まぁ・・いいけど」
急に外に行こうと言い出すつかさを疑問に思いながらも、梓は立ち上がる。
「じゃあ私たちも!」聖奈がそう言って立ちあがろうとするが「あなたはいいから!」とつかさが止める。
「え?なんで?」聖奈は首を傾げる。
「いいから!あなた達はここに居て!それより金森さん!行こう!ね?ホラ!ホラ!」
つかさは梓の背中を押しながら歩き出す。
「わかったから!押さないでよつかさ先生!」
テーブルに2人残された聖奈と沙月は互いに顔を見合わせる。
「ねぇ?なんか今日のつかさ先生・・様子おかしくない?」
「うん・・確かに変だよね?なんか私たちの事避けてるみたいに・・・」
「ちょっとさ!様子見に行ってみない?何かありそうな感じするし!」
「確かに!気になるし行ってみよっか!」
聖奈と沙月はコソコソと黄藤の間を出ていく。
つかさに手を引かれロビーに向かう梓。
「ねぇ?なんか今日のつかさ先生・・おかしくない?」
「何が?私は普通だけど?」
「何か私に隠してない?」梓はつかさに疑いの眼差しを向ける。
「いやね!さっきも言ったでしょ?外の空気を吸いたいだけよ!」
「まぁ・・それなら良いんだけど・・」
ロビーにつくとつかさは、誰を探すように辺りを見回す。
「ねぇ?外行かないの?空気吸いたいんでしょ?」
「ああ・・う、うん・・・」つかさは空返事をしながら辺りを見回す。
「もう!私戻るよ?」梓はうんざりした様子で、黄藤の間に戻ろうとするが「待って!」つかさが声を張り上げて梓の腕を引っ張る。
「ちょっと!良い加減にしてよ!私だって怒るよ?だいたい今日のつかさセンセ」
梓の言葉はそこで途切れた。
「え・・・・な、なんで・・・?」
梓の目から大量の涙が溢れ出る。
梓の視線の先には、大きめのスーツケースを手にした駿の姿があった。