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「立花! 逆だよ、駅こっち」
息を切らす坪井に背後から腕を掴まれ、力強く引き寄せられた胸の中。
まるで身体を埋め込まれるかのように、しっかりと抱きすくめられた。
「……つ、坪井くん、どうして」
「どうしてって……置いてかないでよ、俺、優里ちゃんと話すことなんて何もないってば」
「……ごめん」
嫌な態度であの場を後にしてしまったことは自覚があった。
理由なんてきっと言葉にするまでもないのだけれど。
「八つ当たり……した、と思う。嫌な態度とってごめんね」
しゅんとした声で真衣香が言うと、頭上で、空気が和らいだような気配がして。
その後すぐに小さく笑い声が聞こえた。
「あの程度の八つ当たりじゃ足りないでしょ」
「……え?」
歩道の端っこだけど、もちろん人目がある。
しかし坪井は気にする素振りもなく、ギュッと抱き寄せる腕に力を込めた。
「てか、そもそも八つ当たりってのもおかしいね。お前はもっと怒っていい」
そうして、聞こえてくる声は穏やかで。真衣香の瞳にじわじわと涙が滲み出す。
「どう、して……」
「俺はそれ、全部受け止める責任があるよ。あ、それも違うか。受け止めさせて下さい、お願いします、だよな」
優しい声に、下を向き、見つめ続けていたアスファルトが歪んで……やがてぼやけて見えなくなった。
「優里は……っ、自慢の友達なの……」
わなわなと震える唇から悲鳴のような声。
「うん」
対して坪井は、静かに、そして短く声を返した。
「わ、私なんかが仲良くなれたの、優里がひとりの時に助けるみたいにして近づいたからで」
「でも、優里ちゃんにとってもお前は自慢の友達みたいだよね」
「うう……」と、変に涙を堪えていたせいか、唸るような泣き声が漏れ出てしまう。
綺麗な思い出に、突如、芹那という存在が加算された。坪井を今も凌駕する人物。
過去も未来も脅かされるような、この感覚は何だろうか。
「元を辿れば全部俺が悪いよ。優里ちゃんが青木に罪悪感持ったままだったの俺のせいだろ」
声を喉に引っ掛けながら、苦しそうに坪井が言った。
それもまた、真衣香の胸を抉る。
こんな声を出させたいわけではないのに。
『違うよ』と言いたいけれど、声にならない。
ポタポタと涙が地面に落ちていく。瞬きをすると視界がクリアになって、でもまたすぐに滲んで。