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第7話:壊れるほどの愛と、深夜の弱音
妊娠九ヶ月。
私のお腹はまるで大きなスイカでも入っているかのように大きく、重くせり出し、自分の足元が全く見えないほどになっていた。ここまで来ると、「幸せ」という言葉だけでは片付けられない、凄絶な肉体の限界が日々私を襲う。
重心が完全に変わり、歩くたびに骨盤がミシミシと悲鳴を上げる。仰向けに寝ることはお腹の重みで内臓が圧迫されて息ができなくなるため、常に横向きの同じ姿勢を強いられ、肩や腰は鉄のように硬く凝り固まっていた。夜中、お腹の子供が激しく動くたびに膀胱が刺激され、激痛とともに何度も目が覚める。靴下を履くのすら、息が切れて涙が出るほど大変な作業だった。
「ネス、動くな。靴下は俺が履かせる。お前はただ座って、俺に身を委ねていろ」
「もう、ミヒャ……。これくらいゆっくりやれば、自分でできるよ……?」
「だめだ。万が一バランスを崩して転倒でもしたらどうする。俺が全部やる、お前は俺の言う通りに甘やかされていればいいんだ」
そう言って、カイザーは私の前に膝をつき、まるでシンデレラにガラスの靴を履かせる王子様のように、丁寧に、私の浮腫んだ足に靴下を履かせてくれる。その手つきは、どこまでも優しく、労わりに満ちていた。
しかし、出産予定日が近づくにつれ、カイザーの精神状態にも明らかな変化が現れ始めていた。
*
ある夜、私が痛む腰を庇って小さく寝返りを打った時、隣で寝ているはずのカイザーが、じっと私のお腹を見つめたまま起きていることに気がついた。部屋の薄闇の中、彼の青い瞳は、痛切な、そして狂気的なほどの光を帯びていた。
「ミヒャ ……? 起きてたの? 眠れない?」
「……起こしたか。すまない、ネス」
カイザーは私の額にそっと唇を触れさせ、私の髪を優しく撫でながら、ふう、と深く、重いため息をついた。
「……心配なんだ。お前の身体が、壊れてしまうのではないかと」
彼は私の手を強く握り締め、自分の頬に寄せた。その手が、ピッチの上では決してブレることのないその指先が、微かに、けれど確実に震えていることに気がつき、私は息を呑んだ。
「出産は、命がけだと聞いた。どれほどの激痛を伴うかも、男の俺には想像すらできない。毎日毎日、お前が痛みに耐え、身体を削りながらこの子を育てているのを見ていることしかできない……。俺は世界最強の男だ。どんなディフェンダーも、どんな理不尽な戦況も、すべて俺の右足で叩き潰してきた。なのに、なぜこんなにも怖い? もし、この出産のせいでネス、お前の命に何かあったら……。そんなことになれば、俺は子供ごとこの世界をすべて滅ぼしてしまうかもしれない。それほどに、俺はお前を失うことが恐ろしいんだ」
それは、完璧な「皇帝」が初めて見せた、むき出しの焦燥と「弱音」だった。私を愛しすぎるがゆえに、彼は出産という命の神秘、そして自分がコントロールできない領域の前に圧倒され、恐怖に狂いそうになっていたのだ。彼のその深い、深すぎる愛の闇に、私の心は震えた。私は自由になる左手で彼の美しい髪を強く引き寄せ、その唇に深いキスをした。
「大丈夫だよ、ミヒャ。私は強いもん。それに、世界一のミヒャエル・カイザーに、世界一愛されている妻だよ? 負けるわけないじゃない。私、絶対に元気な赤ちゃんを産んで、カイと一緒に抱きしめるって決めてるの。だから、信じて。私と、私たちの赤ちゃんを。あなたがパパなら、私たちは無敵だよ」
カイザーは私の胸に顔を埋め、子供のように強く私を抱きしめた。その背中を擦りながら、私たちは夜が明けるまで、お互いの愛を言葉と体温で確かめ合った。
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