テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
それでは、
どうぞ!
ーーー
小さい頃。
幼い頃。
貴女は、引っ越ししてしまう前に『必ず私を探して』とだけ言った。
「勿論だよ。」
私はそう大きく返事をして、泣きながら貴女を見送った記憶がある。
ーーー
大きく息を吸う。
土砂降りの雨の日。だけど妙にぬるい気温が余計に湿度を感じさせる。
傘こそ差してはいたものの、人々が溢れかえっているこの場所で、逆に無意味だった。人とぶつかり合い、高さの違う傘たちから滴り落ちる水滴が私の肩を濡らした。
どうであれ、一滴、一滴肩に落ちる度私の心はひどく沈んでいった。
🤍「、…。」
今日は、私の誕生日。
8月19日。
数年前を思い出す。『くれたん〜!!』と明るく呼ぶ声が何処からか聞こえてくるような気がした。振り向くが、やはり知らない顔だらけ。私がずっと探し続けている子は、現れない。
数年前、私の誕生日に彼女から手紙をくれなかった年。あの年に、彼女は地元を離れ、単身で此処にきたという話を耳にした。私は、ひどく喜んだ。
彼女が私を探してくれるのだ、と。
だけど、その年。彼女からの手紙はなかった。
毎年毎年孤独な誕生日。私はその年から丁寧に一人暮らしを始めていた。
🤍「困ったら、この部屋を貸してあげるんだ、。」
そう意気込み、苦手な整理整頓をして、毎日掃除をした。週末にはちゃんと掃除機までかけた。
なのに、彼女はいつまで経っても私を迎えにきてくれることはなかった。翌年もその翌年も、私の元へ姿を見せることはおろか、手紙を送ってくれることも無くなった。
私は、分からなくなった。
ねえ、貴女は約束を覚えてる?
数年前まで覚えてくれてた約束は、都会の雑踏に飲み込まれてしまったの?
私だけが、貴女を思い続けてるんだね、。
家に帰ろうと帰路に着くと間違いなく彼女の姿が見えた。
いつの間にか私より背は大きくなっていてモデルのような体型。その大きな瞳と特徴的な笑顔、変わっていない。
それだけなら、まだ良かった。
でも彼女は一つ傘の下別の女性と腕を組んで歩いていた。
別に付き合っているわけでもないのに。
私は、貴女が私のことを好き、と勘違いしていたみたい。
全てが崩れた。
意外と人見知りな彼女が私以外の人と気さくに話してて、笑顔を浮かべている。
、なんで。照れてんの。
私だけにしか、見せなかったじゃん。
私を探してくれるって言ったじゃん。
私のことが好きって、…書いてたじゃん。
え?何。
私だけが取り残されたの?
傘を捨てて、走り出す。
一瞬だけ、ほんの一瞬だけ目があった気がした。
その目は私に
『遅かったね、…』
アンタの所為で。
ーーー
記憶、いや、…記録。
私は、あの時あの女の表情をみて何か引っかかった。
その何かを突き止めたくて、棚の奥にしまっていたファイルを取った。そこにあった“記憶“をみて私はハッとした。
私、最低だ。
でも、ごめん。
貴女は追いかけられることに執着しすぎてたみたい。
私、疲れた。
じゃあね。
end…