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おだわらちゃんと合作!!
前編をおだわらちゃんが
書いてくれているので、
ぜひそちらを読んでから読んでください!
【君と会えなくなる日まで】
nmmn stpr 桃赤 病気表現多々あり
地雷さん&苦手な方は回れ右
おだわらちゃんが選んでくれた
“膵臓がん”
僕の祖父も膵臓がんでした
僕はお見舞いで毎日病院へと
2歳でしたが 行っていました
闘病の末、 祖父は旅立ちましたが
今でも心の中に
いや、身体のそばで
見守ってくれています
本当に、
たまに後ろにいる気がするのです
それまでたくさんの愛情を注いでくれ、
今この瞬間も見てくれているであろう
祖父に敬意を払いつつ
ここに物語を納めます。
START
ぼんやりとした意識の中、感じ取る医者の声と知っている大好きな声。
──────莉犬。
「さとちゃんっ、!!」
あたりを目だけで見回すと、泣きそうな莉犬が目に入った。
結局、心配、かけちゃったな。
隠してても、結局はこうなっちゃうんだな。
ごめん、と、そう言いたいけど、今の俺の体は言うことを聞いてくれない。
だからせめて、少しだけ口角を上げてみせた。
“俺は大丈夫”と。
まあ、大丈夫ではないけど。
もうすぐ死ぬ身だけど。
ぶっちゃけ、倒れた時はもう死んだかと思った。
でも、今こうして病院で目を覚ましたことは、さすがに夢ではないだろう。
「さとちゃん、さとちゃん…っ!」
莉犬の声からは、怒りも感じられる。
ごめん、ごめんね。
医者が俺に近寄ってきた。
「さとみさん、2人だけで少しだけお話をしましょう。付き添いの方には少しだけ外で待っていただきます。」
その声から少しだけ、緊迫感を感じる。
まあ、そうだよな。
だって、宣告された余命まで、あと4日だもん。
逆に、なんでここまで家で持ち堪えられたのか不思議だ。
莉犬が部屋を出て、医者と2人きりになる。
医者が発した第一声はこれだった。
「さとみさん、本当に余命どおりになってしまいますよ」
しばらく、沈黙が流れた。
そんなの当たり前じゃないのか?
普通は、余命より長生きするものなのか?
「私たちもできるだけ全力は尽くしますが…覚悟はして下さいね」
医者の顔が少し歪んだ。
俺は何とも喋る気にならず、軽く首を動かした。
「……では、失礼します」
医者と入れ替わりに、今度は莉犬が入ってきた。
俺はどんな顔をすればいいのかわからなかった。
「……さとちゃん、なんで、隠してたの」
椅子に座って俺の顔を見た莉犬は、そう言った。
「俺、ずっと心配してたんだよ…!言ってくれれば、助けられることだってあったかもしれないんだよ!!」
ぼろぼろと涙をこぼす目は、すでに赤く腫れている。
「馬鹿なの…?俺、言わないより言ってくれた方が嬉しかった。なんで、あと4日しか一緒にいられないの!?!? 」
莉犬の口から出る言葉から、様々な感情を感じる。
俺は、大好きな人を悲しませてしまった。
だめな男だ。
何か伝えたかったけど、だるさと酸素マスクが邪魔をして、何も言えなかった。
「さっき、メンバーのみんなにも連絡した。明日来てくれるって。」
こんな姿みんなに晒しちゃうのか、参ったな。
「今日は面会時間ももう終わっちゃうし、帰るね。これから、絶対にずっとそばにいるから」
莉犬の気持ちの整理のためにも、今日は帰ってもらった方がいい。
俺だって少しでも長く一緒に居たいけど…病院の定めた面会時間には逆らえない。
その時間が終わる前に目覚められて良かった、と考えるしかない。
はー、なんか、だんだんもうすぐ死ぬんだってことを、実感してきたような気がする。
自分に繋がれた機械に、周りの状況。
もう俺は助からない。
そんなこととっくに知っていた。
わかっていたつもりだった。
でも、今更受け入れられない。
もっと、一緒に居たかった。
まだ、やることいっぱいあったのにな。
誰も居ない病室に響く機械音の中で、少しだけ、泣いた。
次の日、俺が死ぬまであと3日の日。
メンバーがみんなで来てくれた。
みんなは心配と怒りの言葉を口々に言った。
でも決して、全てを憎んでいるわけではなさそうだった。
どうして言ってくれなかったの、の言葉の裏には、寂しさが隠れているような気がする。
みんながそんな顔をしているから。
そして俺は、こう言った。
「最後に配信がしたい」
──と。
すでに病院側に話してはいた。
俺が配信者をしていることや、最後にもう一度だけ配信をしたい、ということを。
それを病院側は了承してくれていた。
でも、問題は内容をどうするかだ。
いつも通り何もなかったかのように配信をするか、余命を伝えるか。
そんなことを考えていると、中の方から鉄分の匂いがしてきた。
───────吐く。
「吐く、っ」
莉犬がバケツを渡してくれる。
「っ、ごほ、おぇ…っ」
びしゃびしゃと、赤い液体が自分の体から出てくる。
何度目だろう、本当に不快だ。
でも、もう吐くことは当たり前だった。
「……大丈夫?」
みんなが心配の眼差しを向けてくれる。
それでも止まらない。
「うっ…おぇ…げほ、ごほぉ…っ」
もっと楽に死ねる病気ないのかなぁ。
やっと落ち着いて、口をゆすぐ。
こんな状態で配信なんてして大丈夫なのか、という恐怖が頭をよぎる。
頭がそれだけでいっぱいになり、俺は黙っていた。
「さとみくん、やろう」
「ころん…」
「配信、しよう」
ころんが、寂しそうな顔をしつついつもの明るさで背中を押してくれた。
「俺…全部話す。ちゃんと、感謝伝えてから死ぬ」
覚悟が決まった。
今までお世話になったリスナーさんに、感謝を伝えなきゃ。
「明日、夜7時から、やる。」
俺の命は、あと2日。
「どうもこんばんは〜、さとみでーす」
いつも通りとはいえ、サムネに示した“重大発表”。
みんなにはきっといい報告だという認知をされているだろう。
でも、残念ながら違う。
「えーと、今日はみんなに重大発表をしたいと思うんだけど…」
コメント欄は忙しなく動く。
『なになに!?』
『気になる〜!』
『楽しみ!』
そっか、楽しみか。
俺だけ少し、寂しくなる。
リスナーさんは、少しもおかしいことなんてしていないけど。
「じゃあ、早速行きますか!」
むせないようにすぅ、と大きく息を吸い、はぁ、と深く息を吐く。
反応が怖いけど、どうせ炎上したって俺はもういなくなる。
よし。
拳に力を入れた。
「えー、俺さとみは、あと2日で余命がやってきます。あと数日で俺は────」
ごくり、と生唾を飲み込む。
「死にます。」
コメントを見る。
『え?』
『死ぬ、って…そんな』
『嘘だよね?嘘って言って?』
まあ、そうなるよな。
「俺は膵臓がん、って病気で、実は1年前くらいから余命宣告されてた。隠しててごめんね。」
こんな状況なのに、なんで俺はこんなに冷静なんだろうと客観的に考える。
もう、解っているからなのだろうか。
俺は死ぬんだ、と。
現実味を帯びてしまうほど、“ああ、俺死ぬんだ”で終わってしまう。
もちろんやり残したことはまだたくさんある。
でも、もう治しようがない。
ずっと解っていた。
「だから、感謝を伝えたくて。今までありがとう、って」
思いのままに、言葉を紡ぐ。
これが、リスナーさんに声を届けられる最後だ。
全部伝えよう。
「最初は、まさかこんなに大きくなれるとは思ってなかったんだよ。でも実際活動していく中で視聴者が増えて、どんどん人気になっていった。みんながいてくれたらから今俺はこうして幸せでいられる。」
自分の本当の気持ちを、全部さらけ出す。
少し嫌だったこと、怖かったこと。
楽しかったこと、嬉しかったこと。
がんと闘った日々。
そして感謝。
気付いたら消灯時間が近づいていた。
ああ、この配信切りたくないな…。
この配信を切らずにずっと喋っていたら、死ななくて済むんじゃないかと思う。
でも、でも。
だめなんだ、躊躇っちゃ。
「じゃあ、もうそろそろ、消灯時間だから…」
ぽろっと、涙が溢れる。
あれ…?
「っ…本当に…ありがとう…」
泣くはずじゃなかったのに、勝手に涙が頬を伝っていく。
「こんな俺を、好きになってくれて、ありがとう…っ」
こんなはずじゃなかったのに。
拭いても拭いても流れ出すものは、止まることを知らなかった。
漏れる嗚咽だけが、俺の周りに響く。
「大好きでした、ありがとう」
その言葉を最後に、配信終了のボタンをタップする。
その途端体から何かが抜けていく気がして、崩れ落ちた。
さとちゃんは、昨日の夜配信を終えた後倒れてしまった。
そこから、全てが悪化した。
意識が朦朧とし始め、吐血の回数も増えていき、終いには食事も取れなくなってしまった。
「さとちゃん……」
きっと、昨夜に“さとみ”を終えて…いや、手放してしまったからだと思う。
さとちゃんは全力でいつも頑張っていたから…自分の中心にあったものを失ってしまって、生きる気力を失ってしまったんだ。
寂しかった。
大好きなさとちゃんなのに。
もう、時間がない─────。
宣告された余命まであと1日。
現実として日に日に身に沁みていくその現実。
俺は、目を逸らしたくても逸せなかった。
そうしたら、裏切ることになってしまうから。
目の前で寝ているさとちゃんの呼吸 を聞けるのはあとどのくらいなのだろう。
さとちゃんの心臓は、あと何回血液を送り出してくれるのだろう。
そんなことを考えていると、さとちゃんの瞼がゆっくりと開いた。
俺は溢れかけていたものを急いで拭き、笑顔を向けた。
「おはよ」
返事は返ってこない。でも、頷いてくれるから意思疎通ができる。
「さとちゃん、ずっと一緒って言ったでしょ?俺、覚えてるからね!」
少し冷たい手を握り、多少の強がりを混ぜて話しかける。
「大好き、大好きだよ」
ねえ神様、お願いです。
お願いだから、さとちゃんを連れて行かないで。
これを、夢だと言って────。
「かひゅっ」
さとちゃんの喉が、音を鳴らした。
「さとちゃん!?」
「ごほっ、げほっ…」
むせるとともに溢れてくる血。
今まで、こんなことなかった…!!
急いでナースコールを押す。
「さとちゃん…っ!!!」
むせる。
吐く。
莉犬の声がぼんやりと、うまく聞こえなくなってくる。
何度も味わったこの感覚。
でも、なんとなく思った。
もう、本当にお終いだ、と。
本当は明日こうなるはずだった。
でも、ただの余命にそんな正確さなどない。
苦しい、けど、それももう、終わるんだ。
莉犬も、みんなも、こんな風に苦しむことなく幸せに生きていけますように。
俺の分まで、たくさん笑ってほしい。
一瞬上ってくるものが止まる。
これが、神様が最後にくれたチャンスだ。
力を振り絞る。
「────だいすき」
これが言えればそれでいい。
気管に血が思いっきり入った。
激痛が走る。
でも、できるだけ心配をかけたくないから顔を歪めないように、口角を上げるようにする。
莉犬は涙をぼろぼろ溢しているけど、泣いたって、俺は死んじゃうんだよ。
笑ってほしいな。
せめて、ありがとう、って…。
俺はどこまでおこがましいんだろうな。
でも、今くらいはそんな人間でいさせてほしい。
ああ、虚しいなぁ。
もっと笑いたかったなぁ。
俺の視界に医者が入る。
先生、ごめんなさい。
1日、早まっちゃいました。
先生が俺に向かって色々言っているが、何も聞こえない。
それを察した先生の顔は、ひどく歪んでいた。
俺は、先に人生を終えるだけ。
そう、それだけ。
欲を言えばもっと生きていたかった。
ずっと一緒にいられないのは寂しいけど…。
莉犬と会えなくなる日───今日まで、俺はとても幸せだった。
これから先の未来を生きるみんなに幸あれ。
俺の分まで、全部。
どうか、どうか──────────
ずっと抱えた幸せと苦しみが、弾けた。
「さとみくん、!!」
俺がメンバーに連絡をして、はじめに来てくれたのはころちゃんだった。
でも、もう遅かった。
さとみくんの顔には白い布がかかっている。
「さとみくん…さとみくんっ…!!!」
その姿を見たころちゃんは見事に崩れ落ち、泣き叫んだ。
「なんで死んじゃったの、なんでよっ…!!!」
その姿を見るだけで、余計に胸がきゅっ、と締め付けられる。
あれからは、とても早かった。
気管に血が入ったとかで大慌てしていたけど、ただでさえ弱かった呼吸はその血によって止められてしまったようだった。
ねえ、もう苦しくない?
もう痛くない?
もう、こうやって話しかけるしかできないんだね。
知ってる感覚が頬を伝う。
「っ…うっ…さとちゃ…」
俯いて、下唇を噛み締める。
痛い。
でも、こうするしかない。
そうしないと……。
そんな時、俺は大きなものに包まれた。
「!」
るぅとくん…!
「莉犬、泣いていいんだよ。強がらなくたっていいんだよ」
この包容感、少し違うけどさとみくんに似てる。
るぅとくんの言葉と、その感覚に本当に、心の底から何かが決壊した。
「うわぁあああっ…やだぁ…!!!なんで死んじゃったのぉっ、いやだっ…!!!おいていかないでよおお!!!」
人生で一番というくらい涙が溢れる。
わかってる、わかってるんだよ…。
死んだ人はいくら泣いても願っても帰ってこないことくらい。
でも、お願い、今だけはこうさせてください─────。
今日は、葬儀の日。
祭壇にはメインでピンク、他に5色の花で飾られている。
俺は、この前ふと思ったことがある。
無かった食欲も、黄色かった目も、忘れっぽくなったことも、あのサプリも、全部全部病気のことだったんだ、と。
そして、入院すればもっと生きられたのに、活動と俺たちのために、ずっと1人で耐えてくれてたんだ、と。
でも、結局は余命があるのだからと家でも生きるために頑張ってくれていたんだ、と。
花に囲まれたさとちゃんは、もう何にも苦しむことのない、とても優しい表情をしていた。
今にも起きて“莉犬”って言ってくれそうな顔だけど、俺は知ってる。
もう何も戻らない。
でも、俺は、さとちゃんがそばにいてくれるから大丈夫。
絶対に離れていったりはしない。
理由もないけど、確信している。
とうとうさとちゃんは骨だけになってしまうけど、きっと彼は俺の中で生き続ける。
さとちゃんの喉仏は、とても綺麗だった。
FIN.
【あとがき】
ここまで読んでくださりありがとうございました。
普段は書かないstprでしたが、過去に書いていたのでそのまま感覚が戻りました。
最後の方は書いていて心苦しくなりましたがなんとか仕上げられて嬉しく思います。
余談ではありますが
親戚の火葬の際、喉仏が綺麗に残ったことを思い出しまして、声が武器ならば、と最後に入れさせていただきました。
おだわらちゃん、合作してくれてありがとう!
これからもよろしくね!!