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◆ 血の夜を這う
腹部の傷がずきずきとうずく。
左足に刺さった金属片は、太ももを焼き切るような痛みだ。
俺は岩場の影に倒れ込み、
必死に息を整える。
「侵入者はこの方向だ!探せ!!」
「逃がすな!!!」
敵の怒号が夜風に乗る。
十数人どころじゃない。
増えている。
最初は20〜30人だった。
いまは—おそらく50人を超える。
俺は歯を食いしばる。
「ハハッ、やりすぎて恨まれたか。
いいぜ、全員まとめて相手してやる」
そう強がって言ったが、
現実は最悪だ。
足は動かない。
血は止まらない。
弾は少ない。
俺は“生き残るために”地形を使うしかなかった。
月明かりで薄く見える
険しい崖沿いに、這うように移動する。
砂が血で濡れ、足跡は残る。
だが止まるわけにはいかない。
◆ 追撃――“獣狩り”の始まり
数分後、敵は散開し、
大規模な索敵隊形を取ってきた。
「足跡はこっちだ!!」
「血痕もある……近いぞ!!」
まずい。
相手はプロの武装集団。
追跡の手順を熟知している。
俺は岩陰に小型グレネードを一つ設置し、
わざと血痕を引きずって別の方向へ移動した。
「来いよ」
十数秒後。
ドッ!!
悲鳴。
爆風。
2人吹き飛んだ。
そして――
その音を聞きつけて、
さらに敵が集まってくる。
敵は減るどころか、
逆に俺のいる方向へ雪崩れ込む。
(…クソッ、思った以上に囲まれてる)
月のない夜。
狭い岩場。
俺は“息の音すら殺す”必要があった。
◆ 息を飲む近接の“影狩り”
俺は倒木の影に体を伏せた。
すると――
足音がすぐそこまで来ていた。
ジャリ……
敵兵が一人、
俺の隠れる場所から 腕一本分の距離 で立ち止まった。
心臓がうるさい。
息が漏れそうだ。
敵兵がライトを照らし始めた。
「この辺りか?」
ライトの輪が、俺の足に触れかける。
(動くな……頼む……動くな……)
もう一人が近づき、
砂の上に跪いた。
「血痕が途切れてる。すぐ近くだ」
終わった――
そう思った瞬間だった。
風が吹いた。
砂が舞い、ライトの光が揺れる。
その隙を――
俺は逃さなかった。
サプレッサー付きのM9を静かに構え、
完全な“闇”のタイミングで引き金を絞る。
パスッ、パスッ
二発。
二人の兵士の喉を正確に撃ち抜いた。
倒れる音が砂に吸われる。
「…ふぅ、ギリギリだな」
だが撃ったことが周囲にバレるのは時間の問題。
◆ 包囲網 ― 生存率0%
崖沿いを移動していると、
無線の交信が聞こえた。
「敵は負傷している!包囲網を狭めろ!」
「北側の出口を塞げ!逃がすな!!」
「こっちに血痕発見!!」
しまった。
崖の向こうは袋小路だ。
敵は地形を把握している。
俺は、追い詰められていた。
逃げ道はひとつ、
垂直の崖下―深い渓谷だけ。
「飛び降りれば死ぬ。
でも、ここにいても死ぬ」
選択肢は二つ。
だが実際は一つしかない。
俺はM16A4を握り直し、
腹の傷を押さえ、ゆっくりと立ち上がった。
これから来る敵は、
おそらく20〜30人はいる。
月明かりの下、砂の音が重なる。
ガサッ…ガサッ…
無数の影。
完全な包囲。
「…よし。なら、やることは一つだろ」
◆ 決死の迎撃戦
岩の上に立ち、
M16A4のMROサイトを覗く。
視界に敵の影が何十も動いていた。
俺は深呼吸する。
「こっからは…撤退戦じゃねぇ。
殲滅戦だ」
バババババッ!!
最初の数人を撃ち倒す。
敵が叫ぶ。
「いたぞ!!!」
「撃て!!!」
銃弾が岩を砕く。
俺はそれに紛れ、
反対方向へ飛び込むように滑り落ちた。
腹の傷が開き、血が溢れる。
声を出せないほど痛い。
だが撃つ。
ダンッ! タンッ! タッタッ!
M16A4が火を噴く。
敵が次々と倒れる。
しかし――
数が多すぎる。
弾が尽きた。
ついにマガジンが空になった。
◆ 絶対絶命 ― 最後の選択
背中に銃弾が掠め、
体が地面に叩きつけられた。
目の前には、崖下の深い闇。
その後ろには敵兵十数人。
終わりだ。
俺は笑った。
「…こんな死に方、ゴメンだな」
M9の最後の一発だけが残っていた。
俺は崖の縁に立ち、
M9を敵に向ける。
敵のリーダー格が叫ぶ。
「投降しろ!!死にたくなければ武器を捨てろ!!」
俺は吐き捨てる。
「俺は…誰にも飼われねぇ」
敵が銃を構える。
「撃て!!!」
その瞬間――
俺は、自分で自分の運命を選んだ。
崖下への自由落下。
ザァァァアアアッ!!!
足元が砂とともに崩れ、
視界が反転する。
敵の叫び声が遠ざかる。
重力に体が引かれ、
俺は暗闇の渓谷へ落ちていった。
(…生き残る。絶対にだ)
意識が遠のきながら、
俺は最後まで目を閉じなかった。
◆ 墜落の果て
崖から落ちた瞬間の、あの重力の引きずり込むような感覚。
陽菜は、胸の奥に焼き付いて離れなかった。
意識が戻ったのは、
暗い渓谷の底。
月光すら届かない岩陰の中だった。
「……っ、あ……!」
体が動かない。
腕は折れている。
腹の銃創はさらに開き、血が固まって服が肌に張り付いていた。
左足は不自然な向きに曲がっている。
落下の衝撃で痛覚は焼き切れ、逆に妙な冷たさが身体を包む。
「死んでねぇ…まだ……生きてる…」
それは希望ではなく、
「ここから地獄が始まる」という確信だった。
◆ “獲物”の発見
遠くでガサガサと音がした。
砂利を踏む音。複数。
「崖下を捜索しろ!死体でもいい、確認だ!」
「あの女は落ちただけじゃ死なねぇ。念押ししろ!」
敵の増援。
50人以上が崖の上にいたはずだ。
そのうち数十人が降りてきている。
陽菜は咄嗟に身を隠そうとするが、
傷で指一本すら動かない。
ライトが近づく。
砂と血で黒ずんだ地面に光が走る。
「…いたぞ!!」
鋭い声が渓谷に響いた。
兵士が二人、陽菜の体を乱暴に掴んで引きずり出した。
「息はある!…ククッ、運が悪いなぁ、嬢ちゃん」
「殺さず連れてけ。上に渡す前に死なれたら面倒だ」
陽菜は抵抗できなかった。
銃を奪われ、腕を縛られる。
落下の衝撃で視界が霞み、
足が地面を引きずられていく砂の感触だけがリアルだった。
◆ 敵ベースへ
車の金属音と砂煙。
陽菜の体は後部スペースに投げ捨てられた。
軽トラックのような古式の輸送車。
足首の鎖が鉄床を擦り、ジャリジャリと嫌な音を立てる。
腹の傷が開き、熱い血が背に広がる。
(…痛い…眠い…でも……寝たら…死ぬ)
「寝るな」。
自分に言い聞かせるように、歯を食いしばっていた。
車が止まる。
陽菜はまた地面に転げ落ちる。
目の前には巨大な廃工場。
壁には錆びた鉄板、砂嵐でボロボロのフェンス。
敵の前進基地(アウトポスト)—孤立した監禁所だ。
◆“治療なし”の監禁
陽菜は薄暗い小部屋へ引きずり込まれた。
コンクリートの床。
窓はない。
兵士が陽菜の顔を靴で踏み、顎を上げさせた。
「ほう、まだ意識あるのか」
「あの崖から落ちて生きてるとか化け物だな」
リーダー格らしき男が陽菜の傷を見て、鼻で笑う。
「治療は要らん。自然に死ぬか、生き残るか……それだけだ」
「生かすか殺すかは上が来てから決める。とりあえずこのまま放置だ」
陽菜は床に投げ捨てられ、
ドアが閉じられる。
金属音が重く響く。
ガシャアン!
静寂。
痛み。
血の匂い。
「…そんな……扱い……かよ…」
笑う気力すらない。
痛みで体が震える。
◆ 孤独と痛みの夜
陽菜は目を閉じないように必死だった。
眠れば、体温が下がり、
出血と脱水で死ぬ。
腹の傷は塞がっていない。
腕は折れている。
足は曲がったまま。
敵は治療をしない。
注射も包帯も水もない。
(死ぬかもしれない…)
初めてその言葉が脳裏をよぎった。
でも次の瞬間、
陽菜はかすかに笑った。
「…でも…こんなとこで……終わりたくねぇ」
痛みが強すぎて、
気を失いそうになるたびに壁に頭をぶつけ、自分を覚醒させる。
外では敵兵の笑い声。
銃の整備音。
砂嵐の唸り。
完全な孤独。
(助けは来ない…自分でなんとかするしかない…)
だが体は動かない。
◆ 敵の嘲笑
翌朝。
足音が近づく。
ドアが開き、兵士が陽菜を見下ろす。
「まだ死んでねぇのか」
「とんでもねぇ生命力だな。ククッ、化け物め」
兵士は陽菜の髪を乱暴に掴んで顔を上げさせた。
「お前、昨日ウチの隊を30人は殺したらしいな?」
「バケモンが…だが、その代償は高いぞ」
陽菜は返事ができない。
声が出せないほど乾き、
喉が焼けている。
兵士は唾を陽菜の顔に吐き捨てた。
「上が来るまでに死ぬなよ。つまんなくなる」
ドアが閉まる。
陽菜は体を震わせた。
それは恐怖ではない。
怒りだ。
(こんな連中に…負けてたまるか)
◆ 決意の息
体はボロボロ。
動かない。
けれど、陽菜は諦めなかった。
顔を床に押しつけ、
指一本から動かす練習を始めた。
生き延びるために。
復讐のために。
「…絶対に…ここを出る」
誰に聞かせるわけでもない声。
でもその言葉が、
陽菜を生かし続けた。
そして夜が来る。
敵は寝静まり、
基地は静まり返った。
— 失われゆく光の章 —
◆ 敵上官の登場
監禁されて三日目。
陽菜の世界は、痛みと乾きと吐き気だけでできていた。
傷口は開いたまま。
治療は一切ない。
水も、一日にコップ半分。
壁にもたれた陽菜の呼吸は浅く、
目は乾き切っている。
そんな部屋に、
重い足音が響いた。
**ガチャ**
入ってきたのは、
黒い軍服に身を包んだ長身の男だった。
髭はきれいに整えられ、
歩き方が軍人特有の無駄のないもの。
周囲の兵士たちとは違う。
格が違う。
「やっと会えたな……《HINA》」
その名を聞いた瞬間、陽菜の背筋が凍りつく。
(バレてる…!)
男は陽菜の前にしゃがみ、
死んだような目を覗き込んだ。
「この国で密かに暗躍していた“単独の兵士”——正体を掴むまでに、随分手こずった」
「だが、ようやく捕らえた。価値は高い」
陽菜は唇を噛み、何とか声を絞り出す。
「…俺は……ただの雇われ傭兵だ…」
男は鼻で笑った。
「芝居は、もういい」
胸倉を掴んで壁に叩きつける。
陽菜の視界が白く弾けた。
◆ “傷口への尋問”
上官は陽菜の腹の傷にゆっくり手を伸ばす。
陽菜の呼吸が止まる。
「落下で開いた傷……ずいぶん酷いな。治療もしてない」
「これは訊問には都合がいい」
次の瞬間——
上官の指が、傷の縁を押した。
陽菜の体が跳ね上がる。
「っ……あああぁぁ……ッ!!」
叫ぶと同時に視界が歪む。
意識が飛びかける。
男は淡々と、機械のように続ける。
「聞きたいことは山ほどある。
君がどの国に属するのか、
何人殺したのか、
目的は何か…」
陽菜は歯を食いしばる。
(……喋らねぇ……絶対……!)
答えられなければ痛みが来る。
だが答えても地獄。
上官は傷口の血を指先につけ、
それを陽菜の頬に塗りつけながら笑った。
「いい表情をする…君は壊しがいがある」
陽菜の心に、“寒気”が走る。
◆ 数日の拷問
● 水は1日コップ半分
● 食料は一切なし
● 傷は開いたまま放置
● 睡眠はほぼ奪われる
上官は毎日やってきた。
「また来たよ、HINA嬢ちゃん」
陽菜は話さない。
何を聞かれても答えない。
その度に、
傷口を拷問、
足を踏まれ、
顔を殴られる。
直接的な破壊はない。
だが治療しない
痛みで殺すという方法だった。
陽菜の意識は常に半分落ちかけ、
何度も“終わらせよう”という誘惑がよぎる。
(……こんな……はずじゃ……)
(俺は……ただ……任務を……)
痛みで涙が勝手に落ちる。
泣きたくて泣くのではない。
体が勝手に反応している。
「随分弱ったな。そろそろ心が折れる頃だろう?」
上官は陽菜の顎を掴んで無理矢理顔を上げさせた。
陽菜は唇を震わせながら吐き捨てる。
「……折れてねぇよ……」
「強情だ。だが…その強さこそ欲しかった」
男は笑う。
その笑顔は氷のように冷たかった。
◆ 孤独と絶望の極限
陽菜はもう指すら満足に動かせなかった。
喉は乾き、声も出ない。
血液は乾き、服は皮膚に貼り付く。
立てない。
歩けない。
戦えない。
それでも逃げる方法を探し続けるが——
体がまったく言うことを聞かない。
日に日に視界が狭まり、
耳鳴りが止まらず、
世界はグラグラ揺れている。
(…マリア…)
初めて、
陽菜の脳裏にあいつの顔が浮かんだ。
変人で、うるさくて、
でもなぜか一番頼りになるスナイパー。
(…来るな……でも……来てくれ…)
思考もまとまらない。
その夜、敵の基地に砂嵐が吹き荒れた。
風の叫びがコンクリートを震わせ、
照明がちらつく。
陽菜は壁に寄りかかったまま、
ほぼ半分死んだ目で天井を見つめていた。
《陽菜 — 処刑台の午後》
— 地獄の境界線 —
◆ 運ばれる囚人
敵基地の地下牢に閉じ込められて数日。
陽菜の身体は衰弱し、まともに立つことすらできない。
兵士たちが牢の扉を開けた。
「立て」
陽菜は立てない。
腕を掴まれ、荒々しく引きずり出される。
外へ出されると、
乾いた砂漠の空気が陽菜の裂けた傷に刺さった。
兵士たちは陽菜の装備をすべて奪い、
戦闘服も剥ぎ取り、
下着だけの状態で
拘束具をつけた。
それは性的な意図ではなく、
“敵への見せしめ、侮辱”
軍がよくやる心理的な処刑前の儀式だった。
陽菜は視界が揺れる中、
ただ一言心の中でつぶやいた。
(終わりか……?)
◆ 基地中央広場
陽菜は木製の柱に縛り付けられた。
腕は頭上に固定され、逃げようがない。
足元の砂は、血を吸って黒く変色している。
周囲には十数名の武装兵。
全員が銃を構え、緊張に満ちていた。
広場の中央につけられた重機関銃
M60E4。
銃身には砂漠の光が鈍く反射し、
今まさに陽菜を撃ち裂くために準備されていた。
男の靴音が響く。
敵上官。
陽菜にとって悪夢そのものの男が、
無表情のまま歩いてきた。
「“HINA”。
ここまでよく耐えた。
だが、この先はない」
陽菜は乾いた声で呟く。
「……好きに……しろ……」
上官は淡く笑った。
◆ 第3章 処刑宣言
広場に、部下たちが一列に並ぶ。
上官は胸を張り、
朗々とした声で宣言した。
「この女は敵国の工作員。
多数の兵士を殺害し、我々の作戦を妨害した裏切り者だ」
兵士たちがざわめく。
「これより公開処刑を行う」
陽菜の心臓がひとつ大きく跳ねた。
だが、もう身体は反応しない。
恐怖さえも薄い。
(俺は…ここで…終わるのか)
角ばった金属音——
M60E4のボルトが引かれる。
ジャキン……
兵士がトリガーに指を掛けた。
◆ 第4章 誰も来ない
陽菜は最後の力で目を閉じた。
自分は単独を好んだ。
誰にも頼らない。
誰にも背中を預けない。
だから——
誰も助けに来ない。
(当たり前だよな
俺が望んだ生き方だ…)
脳裏にマリアの顔が浮かぶ。
奇天烈で、
うるさくて、
でも戦いになると別人みたいに冷徹になるスナイパー。
(マリア…
来んなよ……
こんなところ…)
喉が自然と震える。
(でも…
最後に…一度だけ…
あいつの声…)
言葉にならない願いが胸を締め付ける。
◆ 第5章 死の一秒前
上官が手を上げる。
**「撃て」**
兵士がトリガーを絞る。
世界がスローモーションのように流れ出す。
陽菜の耳に風の音が響く。
まばたきする時間すら惜しい。
(終わる…)
陽菜は、
自分の死を悟った。
死の一秒前
M60E4の銃口が陽菜の胸元へ向けられ、
射手がトリガーへ指をかける。
上官が手を振り下ろす——
**「撃て」**
乾いた引き金の音が鳴る瞬間。
ドンッ——。
射手のヘルメットが激しく跳ね上がり、
彼は糸が切れたように崩れ落ちた。
当たった部位は確認できない。
ただ、**即死**
だったのが一目でわかる。
次の一発。
ドンッ。
上官も、言葉を発する暇もなく後ろへ倒れ込んだ。
敵兵たちが混乱する。
「どこから撃たれた!?」「スナイパーか!?」「遮蔽物へ!」
基地全体に警報が鳴り響く。
陽菜は縛られた柱に凭れ、
呆然と空を見上げた。
(誰だ…? マリアなんて…いないはず)
その時——
空気を震わせる轟音。
**ヒュゥゥゥ……ドゴォォン!!**
RPGが敵陣中央の弾薬箱付近に着弾し、
爆炎が砂を巻き上げ、兵士たちは悲鳴を上げて散った。
基地は瞬時に地獄と化した。
砂煙の向こうから現れた影
爆煙の向こうから、
ひとつの影がゆっくりと歩いてくる。
黒いダスターコート。
肩から下げた古いFAL。
腰には左右対称に輝く——
デザートイーグル ×2。
男は歩きながら、
敵へ最小限の動作で射撃した。
バン、バン。
敵兵が倒れる。
無駄がない。
速い。
迷いも焦りもない。
その姿を目にした瞬間、
陽菜の身体が震えた。
「さすらいの武器商人」。
男が陽菜の前まで来ると、
デザートイーグルをホルスターに戻し、
大型ナイフでロープを切り落とした。
陽菜は崩れ落ちるが、男が片腕で支える。
「嬢ちゃん?覚めてるか」
声は低く落ち着き、砂のように乾いた響きがあった。
陽菜は絞り出す。
「……なんで……助けに……?」
男は肩をすくめた。
「買い手を失うのは商売にならねぇ。
……それだけだ」
◆ FALの咆哮
敵の増援が四方から押し寄せる。
武器商人は陽菜を担ぎ、
大きく後方へ跳ぶと物陰へ下ろした。
「動けるか?」
「……む、無理……」
「ならそこで寝てろ」
次の瞬間、男はFALを構えた。
フルオートの銃声が砂漠を貫く。
ダダダダダッ!
7.62mmの重い反動を片手で制御しながら、
敵を次々と沈めていく。
遮蔽物の後ろに隠れようとした敵兵も、
走り寄る増援も、
全て正確に撃ち倒されていく。
陽菜は半ば朦朧としながらも、
その動きを目で追った。
(こいつ…プロなんてもんじゃ…)
しかし敵の数は減らない。
基地全体がこちらに集中し始めた。
◆ 二丁の巨獣
弾倉が空になり、
男はFALを背中に戻す。
そのまま歩き出しながら——
腰のデザートイーグル2丁を引き抜いた。
「さて……こっからが本番だ」
敵兵が突撃してくる。
デザートイーグルの重い発砲音が響いた。
ドンッ! ドンッ…!
9mmとは明らかに違う凶暴な振動。
反動は信じられないほど大きいはずだが、
男は微動だにしない。
左右の敵を交互に撃ち倒し、
弾切れの瞬間にはスライドストップに触れもせず、
体の動きを止めずに次のマガジンを装填する。
戦場がダンスのようだった。
——強すぎる。
陽菜の全身が震えた。
(本当に……一人で来たのか…?)
(どうやって…ここまで)
その疑問は、次の言葉で吹き飛んだ。
◆ “取引”の提案
敵部隊をほぼ壊滅させたあと、
男は陽菜の前に戻ってきた。
その顔に、笑いが浮かぶ。
「さて。
あんたの命…一度助けた」
陽菜は浅く息をする。
「……借りは……作らない……」
「いいねえ。
じゃあ“返す方法”を教えてやる」
男はそう言って、
ぽん、と陽菜の肩を軽く叩いた。
「俺の武器。
を買ってくれ」
「ああ…それくらい…」
陽菜は目を細める。
今は生きているだけで精一杯。
だが——
男は陽菜を抱え上げながら言った。
「行くぞ。
この基地……もうすぐ爆発する」
陽菜は思わず聞き返す。
「は……?」
「帰り際に、弾薬庫に“ちょっとした細工”をな」
◆ 脱出
基地の奥で、巨大な爆発が起こる。
火柱が上がり、敵兵の絶叫が遠方に響く。
男は揺らぐことなく歩き、
陽菜を抱えたまま、置いてきた古いジープへ乗り込む。
エンジンが唸り、車が砂埃を巻き上げて走り出す。
陽菜は、痛む体を預けながら、
最後に男へ尋ねた。
「あんた……名前は……?」
男は笑った。
「名前?
戦場でそんなもん気にしてどうする」
陽菜が食い下がる。
「助けてもらった“相手の顔”ぐらい…覚えたい…」
男は少しだけ考え、
ほんのわずか目を細めた。
「……じゃあ好きに呼べ。
俺は“どこにでもいるただの商人”だ」
そして、ジープは夕日に向かって走り去った。
目覚めたら、砂の匂いだった
……熱い。
まず感じたのは、皮膚を刺すような熱と、全身の鈍い痛みだった。
目を開けると、天井はむき出しの岩肌。
洞窟の奥、小さな焚き火の光が揺れている。
近くで鍋をかき混ぜる背中があった。
例の──
さすらいの武器商人だ。
「…起きたか」
低い声が響いた。
俺は必死に腕を動かし、上体を起こす。
痛みが一気に走り、思わず歯を食いしばった。
「……俺…生きてるのか」
武器商人は淡々と答える。
「治療はしてやった。死ぬ気なら止めねぇが、今は死なねぇ」
洞窟の中には、乾いた血と薬品の匂いが混ざっていた。
俺の身体には、
胸、腕、脇腹──複数の包帯が巻かれている。
敵に捕まって受けた拷問の痕。
処刑寸前まで追い詰められたあの瞬間の記憶が蘇る。
背筋が凍り、俺は無意識に震えた。
武器商人は鍋の火を止め、俺の前に座った。
「三日寝てた。よく持ったな」
別れ際の一言が、心臓を刺した
日が暮れ、月が昇り、
夜明けが近づく頃──。
武器商人は荷物をまとめて立ち上がった。
「…出て行くのか」
「ああ。ここに長く居られるタマじゃねぇ」
俺はうなずくしかなかった。
そして、商人が洞窟の入口まで来たとき──
ふと思い出したように、振り返った。
「…言わなきゃならねぇことがある」
「…なんだ」
商人は、短く息を吐いてから言った。
「お前のM16A4…敵に叩き壊されてた」
俺の時間が止まった。
「…は?」
「処分された。完全に。
銃床も、上部レシーバーも粉砕。
使ってたMROサイトは跡形もなかった」
視界が一瞬暗くなる。
胸が裂けるように痛い。
あれは戦場で唯一、俺を裏切らなかった相棒だった。
新人傭兵の頃
から握り続け、
血も砂も雨も一緒にくぐり抜けた武器。
家族より長く一緒にいた。
なのに──
敵の手で、意図的に壊された。
商人は淡々と続けた。
「お前を屈服させるために
破壊したんだとよ」
頭の奥が真っ白になり、
俺はゆっくり膝をついた。
砂に手が落ちる。
「……なんで……なんで……俺より……先にあいつが……」
声が震えた。
情けなくても止められなかった。
武器商人は、しばらく俺を見下ろしていた。
そして──
ため息をひとつついた。
“みかねて”差し出された新たな相棒
ゴト、と商人の足元に置かれたもの。
俺は涙でぼやけた視界のまま見た。
それは──
AK-74。
黒く滑らかなフレーム。
MROドットサイト装着。
レーザーサイト固定済み。
新品に近い30連マガジンが4本。
信じられなかった。
「…これ…なんで」
武器商人は顔をそらした。
「見てられねぇ顔してた」
「は…?」
「M16を失って潰れちまいそうな奴に、
何も言わず背を向けるほど冷たくねぇ」
俺は銃を握る。
その冷たさが、心臓の奥をじわりと温めた。
「…無料で?」
「代金は、お前が生きてることだ」
「意味がわからねぇよ」
商人は荷物を背負いながら肩をすくめた。
「俺は武器商人だがな…
ときどき、売れねぇ“縁”みたいなもんもある」
俺は言葉を失った。
そのとき商人は、
俺の手に何かを放ってよこした。
M9のホルスター。
「俺の…!」
**「それだけは壊されていなかった。
弾も残ってた。大事にしろ」
心がまた締め付けられる。
あぁ…
また、涙が出そうになる。
商人は背を向け、歩き出す。
俺は叫ぶ。
「名前くらい…教えてくれよ!」
武器商人は振り返らず、片手を挙げた。
「名前なんざどうでもいい。
俺は……“さすらいの武器商人”。
それで十分だ」
そして砂の彼方に消えた。
簡易キャンプの夜、俺は一人で座っていた
夕方。
俺は砂漠の窪地でタープを張り、
小さなキャンプを作った。
傷は痛む。
包帯の下で脈打ち続けている。
──生きてる。
けど、心はまだ破れたままだ。
火を焚きながら、
俺はAK-74をゆっくり分解し始めた。
ボルトの金属音
木製ストックの温かみ
オイルの匂い
M16とは違う。
全てが違うのに──
なぜだか、不思議と心を支えてくれる。
商人の言葉を思い出した。
“代金は、お前が生きてることだ”
俺はポツリと呟く。
「……よろしく頼むよ。
今度は、お前と一緒に行く」
星空の下、
新しい相棒を胸に抱いて、
俺は静かに目を閉じた。
砂漠の夜風だけが、優しく吹いていた。
◆陽菜 ― AK-74初陣
依頼は静かに落ちてくる
砂漠の夜明け。
俺は簡易タープをたたみ終えたところだった。
腹の傷はまだ疼くが、立てる。歩ける。
呼吸をするたび、肋がきしむ。
だが──戦える。
そんなタイミングで、
古い軍用端末に通知が届いた。
クライアントは名を名乗らない。
だが、金額は悪くない。
依頼内容は短い。
「武装キャンプの調査および破壊。
敵は少数精鋭に見えるが実数不明。
単独行動に適した任務」
──単独、ね。
俺の得意分野だ。
端末を閉じ、腰のM9を確認し、
新しい相棒・AK-74のセーフティをそっと撫でた。
「よし…初陣といくか」
砂漠の風が吹いた。
まるで背中を押すように。
AK-74の重さが、まだ“知らない”重さだった
キャンプに近づくまで、丸一日かかった。
途中、伏せて進んでいるとき──
ふと気づいた。
AK-74の重量感、質感、
手の中での微妙な癖。
M16とは全く違う。
* リコイルの方向
* グリップの角度
* 安全装置の位置
* マガジンの挿し方
* チャージングハンドルの動き
全部違う。
だが──
「……悪くねぇな」
そんな感覚も湧き上がる。
異物感と馴染みかけている感覚が混ざりあい、
心の奥に奇妙な高揚が生まれ始めていた。
敵キャンプ潜入──新相棒、試し撃ち
夕暮れ。
敵キャンプは岩山のくぼ地にあった。
バリケードと監視塔。
見張りの数は……六人以上。
俺は腹の傷を押さえながら、
岩陰に身を潜ませる。
M16があれば距離をとって狙撃できた。
でも今は違う。
AK-74で行く。
不安はある。
でも、その隣に奇妙な期待もある。
「さあ、いくぞ。相棒」
俺は深呼吸し、MROドットサイトを覗いた。
最初の見張り。
距離50m。
トリガーに指をかける。
軽く呼吸を止めて──
バンッ!
乾いた発砲音と共に、
見張りが静かに倒れた。
反動はM16より軽い。
そのくせ、弾道が素直だ。
「悪くねぇ」
続けて二人目が塔から走り出る。
照準を合わせる体の動きが、いつもより早い。
AK-74の軽さが、俺に追いついてきている。
バンッ!
塔の上で敵が崩れ落ちる。
「いけるな。お前」
俺は初めて、その銃に心からの信頼が芽生えた。
敵の逆襲──四方から包囲
キャンプ内部に侵入すると、
敵が一斉に反撃を開始した。
砂埃が舞い、銃声が爆発する。
「ちっ、数が多い」
俺は車体の影に滑り込み、
AKを抱えて伏せる。
敵が四方から迫ってくる。
銃声の方向が──後ろ、右、正面、左。
俺はマガジンを叩き込む。
カシャン、ジャキッ──!
火花のように散る戦場の気配。
身体が痛むのに、指先は軽い。
AK-74がまるで生き物のように反応する。
* 横に走る敵をフルオートで倒し
* 頭上から撃ってくる敵に反撃し
* 車の影から飛び出してきた敵を転がりながら撃つ
銃弾が砂を跳ね上げる。
敵の弾が俺の頬をかすめた。
熱い血が流れる。
だが─
「まだだ。俺はまだ死ねねぇ!」
AK-74を構え直し、俺は叫ぶように撃ち返す。
決着──最後の敵との死闘
残り一人。
敵リーダー格の男。
距離20m。
砂煙の向こうで、奴はRPKを構えていた。
弾幕を張られれば終わる。
俺は岩陰に滑り込み、弾倉を交換する。
だが、その瞬間──
RPKの銃声が爆発した。
ダダダダダダッ!!
砂と岩が砕け、破片が俺の顔に飛び散る。
ギリギリの位置取り。
あと一歩下がれば胸を撃ち抜かれる。
だが逃げ場はない。
俺は息を殺し、
敵のリロードの一瞬を待った。
──カチャッ。
その音を聞いた瞬間、
俺は飛び出した。
地面を転がりながら、
RPKの下に滑り込む。
敵と目が合う。
奴が叫ぶ。
だが──
俺のAKが火を噴いた。
ダンッ! ダンッ! ダンッ!
敵の体がのけぞり、静かに倒れた。
砂漠に、深い風の音だけが残る。
初陣の余韻
キャンプを破壊し、証拠を回収し、
依頼完了の証を端末へ送信した。
そのあと、俺はひとり、
崩れた見張り台の上に腰をかけた。
手に握るAK-74。
新品のはずなのに、もう傷が増えていた。
銃床をそっと撫でながら呟く。
「……悪くねぇ。
いや……思った以上だ」
M16を失った悲しみはまだ消えない。
けれど、
このAK-74が、
俺を今日、確かに生かしてくれた。
少しだけ、胸の奥が軽くなる。
砂漠に沈む太陽を見つめながら、
俺は静かに言った。
「相棒…これからよろしくな」
風が、優しく吹いた。
《陽菜 ― 砂漠の銃声:AK-74の真価》
砂と熱気の国で
夜明けとともに、端末が震えた。
また、名も名乗らぬクライアント。
この数週間、俺の周りはそんな依頼ばかりだ。
依頼内容は端的だった。
「武装グループの偵察および排除」
場所は砂漠地帯の交易路。
アメリカ製装備を持つならず者が、
補給線を塞いでいるらしい。
俺はAK-74のボルトを引き、軽く点検した。
砂漠に来てから数日だが、こいつは本当にトラブル知らずだ。
「相棒…今日も頼むぞ」
タープを畳み、微かな風に吹かれながら進む。
太陽が昇るにつれ、地面が焼けるように熱くなっていった。
敵と鉢合わせ
日中。
廃れた石造りの井戸の隣──
突然、砂煙とともに人影が飛び出してきた。
「っ…!」
敵だ。
軍服はバラバラだが、装備は妙に整っている。
手にはM4カービン。
俺と目が合う。
敵が驚愕し、即座に銃を構えた。
距離は15メートル。
砂漠での遭遇戦。
一瞬の判断で、生きるか死ぬか決まる。
俺はAKを構え、息を吸った。
敵が先にトリガーを引く──はずだった。
だが、起きたのは
銃声ではなかった。
ガチンッ。
乾いた金属音。
M4は撃てない。
敵の顔が真っ青になる。
「ジャム…? 砂か」
砂漠の細かい砂は、
ボルトやガスピストンに入り込む。
特にM4は砂環境に弱い。
敵が必死にチャージングハンドルを引くが、
砂が噛んだままで動かない。
俺は口の端をかすかに歪めた。
「悪いな…相棒が強すぎるんだよ」
AK-74の本領発揮
俺は姿勢を低くし、
AK-74のMROサイトを敵の胸に合わせた。
敵が叫んだ。
「待っ──」
バンッ!
銃声が砂に吸い込まれた。
敵は短い悲鳴もなく、砂の上へ崩れ落ちた。
俺はゆっくり近づき、敵のM4を拾い上げた。
砂がボルトにぎっしり詰まっている。
ダストカバーも開けっ放し。
完全な整備不足だ。
「そりゃ撃てねぇわけだ」
AK-74を見下ろす。
砂まみれなのに、まるで気にしていない。
トリガーも、ボルトも、ガスピストンも、
“まだやれる”とでも言いたげだ。
俺は笑ってしまった。
「やっぱお前、化け物みてぇに頑丈だな」
敵キャンプ突入
だが、敵は一人ではなかった。
俺が倒した男の無線が、突然鳴った。
「どうした?答えろ」
悪い予感しかしない。
俺はM4を地面に捨て、
AK-74を握り直し、岩場へ走った。
5分後、敵キャンプが視界に入る。
見張り、銃座、簡易バリケード。
中心には黒煙を吐く発電機。
俺は深く息を吸った。
「行くぞ。相棒」
岩陰から身を出し、
最初の見張りに照準を合わせ──撃つ。
バンッ!
見張りが倒れる。
バンバンッ!
二人目、三人目も砂に沈む。
敵が怒号を上げ、
M4、M16、M249が火を噴く。
しかし、砂嵐の時期で視界が悪い。
銃口炎だけが頼りの撃ち合い。
俺は地面に伏せ、塵の中を滑るように移動する。
AK-74は砂を巻き上げても、
呼吸するように撃てる。
ダダダッ!
バーストで敵の壁の上の影を撃ち倒す。
敵が叫ぶ。
「やべぇ、AKの奴だ! 隠れろ!」
「M4が動かねぇ! 砂で──」
その声を聞きながら、俺は低く呟いた。
「武器は、使う環境を選ぶんだよ」
決着と、理解した“相棒”の強さ
キャンプの中心部を制圧するまで、
20分もかからなかった。
残った最後の敵は、
撃たれた仲間の横で呆然としていた。
手にはまたM4。
砂で完全に動かない。
俺は銃口を向けながら近づいた。
敵が震えながら呟く。
「クソ…こんな時に…」
俺は答えた。
「砂漠でも壊れねぇ…AK…。
整備不良が仇となったな。」
最後の引き金を引く。
ダンッ。
静寂が戻る。
俺は肩にかけたAK-74を撫でた。
砂だらけで、熱を帯びているのに、
まだ撃てそうな顔をしている。
「すげぇな。俺を死なせる気、ねぇだろ?」
砂漠の風が吹き、
AK-74のスリングが揺れた。
それが、答えのように思えた。
任務帰りの砂漠道**
――俺は、単独任務を終えて砂漠の外れを歩いていた。
太陽は容赦なく照りつけ、
砂は地面の熱を跳ね返す。
背中のAK-74がやけに重い。
疲れがどっと押し寄せてきた頃だ。
「…今日は何も起きなけりゃいいんだがな」
そう、いつもなら“何か”が起きる。
そして、俺の予感は大抵当たる。
その時――
砂丘の向こうから、
ズダダダッと砂を蹴る足音が聞こえた。
そして、次の瞬間。
砂漠でビキニの幻影**
「うおおおおおーっ!!!」
叫び声とともに、
砂丘の上から“ビキニ姿の女が全力疾走してくる”という
視界を疑う光景が飛び込んできた。
「は…?」
俺は反射的に銃を構えかけたが、
その瞬間に気づく。
豊かな茶髪。
異様にテンションの高い声。
そして――
砂漠でビキニ。
間違いねぇ。
「マリアかよ!!!」
マリア・デルガド――
世界でも指折りの狙撃手にして、
世界でも指折りの変人だ。
マリアは太陽に照らされながら砂漠を駆け抜け、
俺の前で急停止した。
両手を広げて全力スマイル。
「陽菜!! また会ったね!!」
「お前……何してんだ?」
俺は本気で頭を抱えた。
変人すぎる理由
マリアは息を弾ませながら、
胸を張った。
「砂漠トレーニングだよ!」
「なんでビキニなんだよ!!」
「だって砂漠って暑いし? 軽装じゃないと効率下がるでしょ?」
「限度ってもんがあんだろ!!」
マリアはケロッとしている。
「それにさ、砂漠でビキニってロマンあるでしょ?」
「一体どこにだよ。」
「全部だよ!!」
俺はため息をついた。
だが、相変わらず、
マリアの動きはどこか研ぎ澄まされている。
走り方は軽やかで、
周囲の気配も常に探っている。
ふざけているように見えるが、
その裏で戦闘感覚は鋭いままだ。
突然の敵襲
その時、
砂丘の向こうで銃声がした。
パパパパッ!
「っ……敵か!」
俺が反射的にAK-74を構える。
しかしマリアは一瞬で表情を変えた。
さっきまでのふざけた空気が消える。
狙撃手の顔だ。
ビキニ姿でも、
目の鋭さは本物。
「陽菜、右斜面に伏せて。距離180。三人いる。」
「……お前、見えてんのか?」
「音で分かるよ」
やっぱりコイツ、ただの変人じゃねぇ。
俺が滑り込んで砂丘に身を伏せると、
マリアは走ってきた反動そのままに
砂の上へスライディングし、
砂の陰に隠していたTAC338
を引き出した。
「着弾まで2.3秒……風は弱い…いける」
ビキニ姿で、砂に這いつくばって、
巨大な338口径を構えるという
カオスな絵面のはずなのに。
その姿は、異様に絵になっていた。
神業狙撃、再び
マリアの指が静かに引き金を引く。
バンッ!
重い銃声が砂漠を揺らす。
1発。
砂丘の向こうから
悲鳴が消えた。
2発、3発。
静寂。
戦闘終了まで、
わずか5秒。
俺は呆然と息を吐く。
「相変わらずの狙撃だな」
マリアはにやりと笑う。
「褒め言葉として受け取っておくよ、陽菜」
ビキニ姿なのに、
圧倒的プロフェッショナル。
このギャップが、一番タチが悪い。
再会の余韻
戦闘が終わり、俺は銃を下ろした。
「で、そもそも
なんで俺の近くにいたんだ?」
「陽菜が来ると思ってたから」
俺は目を丸くした。
「なんで分かるんだよ」
「勘!」
「お前の勘、怖ぇんだよ」
マリアは笑って肩をすくめる。
「陽菜がまた危ない目に遭ったら助けるよ。
だって……狙撃手は、相棒を見捨てないからね。」
俺は言葉が詰まった。
「相棒って…俺はお前の相棒じゃねぇぞ」
「えー、じゃあ“たまたまよく助けてる人”?」
「それでいい」
マリアは満足そうに笑うと、
TAC338をケースに戻し、
再びビキニ姿のまま砂漠を走りだした。
「じゃ、またね陽菜ー!」
砂煙をあげながら、
どこかへ消えていった。
俺は深いため息をついた。
「ほんと、なんなんだあいつは」
だが、不思議と心は少し軽かった。
《ビキニ砂漠ランニング地獄編》
任務帰りの異変
任務を終え、俺は灼熱の砂漠を歩いていた。
太陽は殺意のあるレベルで照りつけ、
砂は足首まで沈み込む。
そんな過酷な環境を歩きながら、
俺はため息をつく。
「今日くらいは静かに帰りたいんだけどな」
そう願う時ほど、嫌な予感は当たる。
遠くの砂丘から
ドスッ、ダダダッ、ザザザッ!
砂を蹴り飛ばす足音が近づいてくる。
俺は
咄嗟にAK-74を構えた。
すると、砂丘の向こうから現れたのは
ビキニで疾走する変人
ビキニ姿で全力疾走するマリア・デルガドだった。
相変わらずの豊満な胸が暴れ、
茶髪が太陽に反射し、
砂漠の真ん中で意味もなく爆走している。
俺は叫ばずにいられなかった。
「おいマリア!!」
マリアは走りながら手を振った。
「陽菜ぁぁぁぁ!! 今日も元気そうだねぇぇぇ!!」
「元気じゃねぇよ!!お前は何してんだよ!!!」
マリアは急停止し、
汗を拭いながら胸を張る。
「ランニングトレーニング!!」
「だから…なんでビキニなんだよ」
「え? 暑いから」
即答だった。
理不尽な巻き込み
マリアは俺の肩に手を置き、
じっと見つめてきた。
「陽菜もやろうよ」
「は?」
「ビキニでランニング!!」
「絶対やらねぇ」
マリアはニコッと笑い、
なぜか
バックパックからゴソゴソと何かを取り出した。
「はい、陽菜のサイズのビキニ♡」
「なんで俺のサイズを知ってんだよ?」
「観察力?」
「お前、ほんっとに気味悪いな」
だがマリアは強引だ。
「ほら、陽菜。灼熱環境での軽装戦闘トレーニングにもなるし、運動能力チェックにもなるし、 なにより――」
マリアは俺の胸元を見つめる。
「動きやすいでしょ?」
「……」
次の瞬間、マリアがぼそっとつぶやいた。
「陽菜、私より胸ちっちゃいし…揺れないでしょ」
「おい」
「ランニングに向いてるよね!」
「てめぇ…言っていい事と悪い事が――」
耐えきれず俺はキレた。
「マリアぁぁぁぁぁッ!!」
砂漠に俺の叫び声が響いた。
結局走る羽目に
…結果、なぜか
俺はビキニ姿で砂漠を走っていた。
AK-74は背中に背負い、
M9は腰に固定したまま。
「なんで俺、こんなことしてんだ…」
「陽菜、もっとペース上げて!」
「うるせぇ!!!」
マリアは隣でスキップするみたいに軽やかに走っている。
「陽菜、意外と似合ってるじゃん」
「黙れ!!!」
その時だった。
パンッ……!!
遠くで銃声が聞こえた。
俺とマリアは即座に伏せる。
砂漠の奇襲
マリアは瞬時に表情をプロの狙撃手に変えた。
「陽菜、三時方向。50メートル。アサルトライフル持った二人。」
「ちっ……走ってる最中に襲われるとか最悪だな」
俺はAK-74を構える。
マリアはビキニの胸元から、
スコープを引きずり出した。
「お前、そこに収納してたのかよ!」
「便利でしょ?」
便利の意味が分からねぇ。
マリアは匍匐し、砂の上で構えた。
戦闘開始
敵が走りながら撃ってくる。
砂が舞い上がり、熱風が肌を焼く。
俺は砂丘裏へ回り込み、AK-74を連射。
ダダダダダッ!
敵の一人が倒れる。
マリアはすでに照準を合わせていた。
「陽菜、頭下げて」
瞬間、俺は伏せる。
ズドォンッ!
マリアの一発で、もう一人の頭が弾けた。
「ビキニでも戦闘力お化けだな」
「当たり前でしょ♡」
敵を片付けたあと、
俺はため息をついた。
「…で、もう走るの終わりだよな?」
マリアは首を横に振る。
「まだ10kmしか走ってないよ」
「死ぬわ!!!」
マリアは笑いながら俺の胸を指で突く。
「そんなに怒らないでよ、胸に悪いよ?」
「てめぇ、胸ネタで煽るのやめろ!!」
マリアはケラケラ笑いながら、
俺の手を引っ張り走り出した。
「ほら陽菜ー! せっかくビキニだし走ろっ走ろっ!」
「誰のせいでビキニ着てんだよ!!!」
砂漠に俺の叫びが響き、
マリアの笑い声が重なる。
どこかで、
俺はこのやり取りが嫌いじゃなかった。
《陽菜:賞金首編/砂漠狙撃戦》
単独潜入任務
夜の砂漠。
風は冷たく、砂粒は針のように頬を打つ。
俺――陽菜は、
指定された補給拠点の偵察任務を単独で実行していた。
小型ドローンを飛ばしながら、
岩陰に身を隠して進む。
「静かだな。嫌なほどに」
こういう静けさは、トラブルの直前にしか起きない。
俺はAK-74のセレクターを指先で確かめ、
腰のM9も確認した。
その瞬間――
カンッ!
金属の大きな破片が跳ねた。
俺の左耳の横、岩肌から火花が飛び散る。
敵狙撃手の弾丸が掠めた。
俺は即座に伏せ、砂を蹴って岩陰へ転がり込む。
「狙撃手か。やっぱり静かすぎると思ったんだよ」
音のしない殺意
銃声は聞こえない。
使用されていたのは
消音対物ライフル。
射手は腕がいい。
照明も月明かりもない砂漠で、
俺の位置をピンポイントで射抜いてきた。
(まずいな…場所が読めねぇ)
ドローンの画面を確認しようとした瞬間
パリンッ!
モニターに亀裂。
ドローンごと撃ち抜かれた。
「仕留める気まんまんじゃねぇか」
完全に“狩られる側”だ。
逆狙撃開始
俺は深呼吸し、耳を澄まし、
夜の砂漠の微かな振動、空気の揺れを感じる。
敵の射線を読む。
**風向き、砂の流れ、反響。**
「右。1200メートル先か」
俺はAKから
スコープを外して狙撃手との距離を縮める。
微妙な砂煙の揺れ――
そこだ。
俺はAK-74を砂に伏せて構え、
弾の落下も加味しておく。
パンッ!
弾が砂を貫き、狙撃手の肩を撃ち抜いた。
敵が砂に崩れる音が、風に紛れて聞こえた。
賞金首の告白
慎重に距離を詰める。
敵狙撃手は血に濡れながら、
俺を見て笑った。
「…陽菜。噂どおりだな」
俺は驚いた。
「俺の名前を……?」
狙撃手は咳き込みながらも続けた。
「お前の……首にはな……相当な値がついてる……各地の傭兵が……狙ってる……」
「…は?」
俺は怒鳴るより先に、
自分の周りの空気が一瞬で冷えるのを感じた。
「賞金……?」
狙撃手は笑って息絶えた。
夜の砂漠に静けさが戻ったが、
今度の沈黙は“終わり”ではなかった。
次の狙撃手の存在
風の向きが変わった瞬間、
俺は反射的に身をひねった。
シュンッ!*
耳元を弾丸が通り抜ける。
「…第二射手かよ」
つまり―
俺は“おびき出された”側だった。
倒した狙撃手は囮。
本命がまだ周囲に潜んでいる。
俺は咄嗟に地面に潜るように伏せ、
砂の中を這う。
だが、敵は姿を見せない。
射線も掴めない。
気配が消えている。
「マジで、プロ中のプロか」
緊張で汗が背中を伝う。
膠着状態の開始
砂丘、廃車、風化した石柱。
周囲は障害物だらけ。
俺の位置が完全に割れているのに対し、
敵は姿を見せない。
まるで砂漠そのものが敵の味方をしているようだ。
(これ…動いたら撃たれるやつだ)
夜が深まり、
温度は急激に下がっていく。
俺と敵狙撃手の間には
超長距離の静かな殺し合いが始まっていた。
呼吸すら、音になる。
足首ほどの砂の音も、敵に位置を教える。
膠着状態のまま、
俺は砂の中で身を潜め、
敵の動きを待った。
「…来るなら来い。お前も俺も、生き残れるのはどっちか一人だ」
月明かりの下、
俺と“名も知らぬ狙撃手”の
長い長い夜が始まる。
《砂漠1800m狙撃救出編》
砂漠の暗闇、動けば死ぬ
砂漠の夜は凍えるほど冷たい。
だが俺は、冷気よりも、
敵狙撃手の照準のほうがよほど冷たかった。
数時間以上、砂の中に伏したまま動けない。
動けば、即撃たれる。
息すら、浅くしかできない。
「さすがにキツいな。こいつ、マジで動く気配ねぇ」
敵狙撃手は徹底している。
俺が姿を見せるまで動かないつもりだ。
膠着は続き、砂漠の夜だけが終わらせようとしていた。
突然の狙撃音
その時だった。
ズドォンッ――!
低く重い、遠雷のような狙撃音。
俺は思わず目を見開く。
「今の音…!」
この砂漠でこんな音を出せるのは、
大口径ボルトアクション
だ。
距離と反響から判断して――
「1800メートル…いや、もっとかもしれねぇ」
敵狙撃手の方向に砂煙が舞った。
俺は身を伏せたまま、
スコープを向ける。
砂丘の向こうで、
敵狙撃手が――
頭部を一撃で綺麗に貫通されて倒れていた。
「は!?」
あまりにも完璧すぎるヘッドショット。
まるで頭蓋の中心だけを消し去ったような正確さ。
こんな芸当ができるのは――
接近する影
砂を踏む音。
歩みはゆっくりと、しかし迷いがない。
俺はAK74を構え、
射線を確保しながら近づいてくる影を睨む。
「マリアか?」
ビキニで砂漠を走る変人スナイパー――
最初に思い浮かべたのは、あの馬鹿の姿だった。
だが違った。
月明かりに照らされたその人影は、
褐色のコートと砂埃に焼けたブーツをまとい、
ゆっくりと歩いてくる。
背中に背負っていたのは
L96A1。
「お前…」
再び現れたさすらいの武器商人
「また会ったね、嬢ちゃん。」
砂漠の冷気を破るように、
あの落ち着いた声が響いた。
さすらいの武器商人。
名前も素性も明かさない男。
だが武器に関しては世界最強クラスの化け物。
俺はAKを半分下げ、警戒を残しつつ言う。
「1800m級のヘッドショットなんざ、簡単に撃つんじゃねぇよ。心臓止まっただろ」
武器商人は淡々と笑う。
「風も温度差も、読みやすい夜だった。
あれくらいなら
外しようがない。」
「いや普通は外すだろ……」
死体に近付き、敵のスナイパーライフルを回収しながら、
武器商人は続けた。
「君が賞金首にされていると聞いてね。
様子を見に来たら、案の定だ。」
「やっぱ、その話、マジかよ」
「マジだよ。君の首には、“国家レベルの値段”がついてる。」
俺は舌打ちした。
武器商人の忠告
武器商人は敵の遺体から弾薬とマガジンを抜き取り、こちらに放る。
俺は受け取りながら言う。
「助けてもらった礼は言う。けど…なんで俺を?また商品でも売りつけに来たのか?」
武器商人は首を振る。
「違う。
君のM16A4が処分されたと伝えた時と同じだ。
私は…君が死ぬのは、なんとなく気に入らない。」
「……なんだよそれ」
「君はまだ、面白い戦い方を覚えられる。
そして――武器の可能性を試し続ける人間だ。」
「褒めてんのか、バカにしてんのか分かんねぇな」
武器商人は小さく笑った。
「まぁ、どっちでもいいさ。」
夜風が吹く。
砂漠は冷たく、そして静かだ。
L96A1の秘密
俺は訊ねる。
「…なんでL96なんだ? もっとバケモンみたいなカスタムライフル持ってんだろ」
「今日の風向きでは、この子が一番素直だった。
イギリス製の癖のないボルトアクションは、
どんな砂漠でも裏切らない。」
まるで人間の相棒のように銃身を撫でる。
俺の胸が微かに熱くなった。
M16A4を失った時の喪失が、少しだけ和らぐ。
去りゆく影
「さて、私はまた“旅”に戻るよ。」
背中にL96A1を背負い直し、
夜空の下に佇む武器商人。
「……助かった。借りが増えるのは嫌なんだけどな」
「気にしなくていい。
命の貸し借りは、砂漠じゃ意味がない。」
「せめて名前くらい教えろよ」
武器商人は肩をすくめた。
「・・・」
月が雲に隠れた。
次の瞬間、武器商人の姿は闇に溶けていた。
「……結局、今日も名乗らねぇのかよ」
残された陽菜、再び孤独へ
敵狙撃手の死体、
静まり返った砂漠、
そして俺ひとり。
足元には、武器商人が投げてよこした
数本のマガジンと予備弾薬が残っていた。
「はぁ。結局、また借りができちまった。」
俺はAK74を握り直し、
砂漠の闇へと歩き出す。
「賞金首?上等だ。
まだ死ぬ気はねぇよ。」
俺の夜は、まだ終わらない。