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「もう遅いよ」
突然割り込んできた声に私もカンナも驚いた。
少し離れたところにたたずむのは、カンナとうり二つの外見を持つ、彼女の妹のメイ。
メイの手には、黄金の剣が握られている。
(あれが、ヴァジュラ?)
カンナがあの時、自分の心臓を貫いた剣だ。
だがメイが見ていたのはその剣ではなく、もう片方の手にもっている、黒いウサギのマスコットだった。
そういえば、メイの腰には、ずっとそのウサギのマスコットがぶら下がっていた。
メイはずっとその黒いウサギのマスコットを見ていた。
(そういえば、あれって……)
カンナの事ばかりで見落としていたが、私はあのマスコットが何なのか知っている。
「僕が望まない限り、この世界とあっちの世界は繋がらない」
メイはカンナを見た。
その目はまるでカンナを軽蔑しているような、そんな色合いに見えた。
「美雪ちゃんを外になんか出させない」
その宣言に一番驚いていたのは、どうやらカンナのようだった。
「メイ? 何を言ってるの?」
「言葉通りの意味に決まってるでしょ? 姉さんだって知ってるよね? ヴァジュラの力の主導権を握っているのは僕だってこと。だから美雪ちゃんは永遠にここから逃がさない、逃げられない」
「メイ……いったいどうして」
「姉さんは本当に馬鹿だよね」
メイは剣を逆手に取り、その切っ先を自分の心臓に向けた。
「どうして手に入れたのに、手放そうとするのかなあぁぁあぁぁあぁぁあぁぁぁ!」
剣で心臓を貫いた。
「ひっ…………!」
世界が変わる。
メイを中心に爆風のような衝撃が広がると、突然メイは消え去った。
そうかと思いきや、メイは巨大な怪物と化して現れる。
それはメイが最初に現した怪物の姿だ。
しかしあの時は小柄な少女のままだったのが、今度現れたメイは、ケタ違いに巨大な身体を持つ、正真正銘の化け物だった。
「メイ!?」
「なんなのよコレ!」
今や天にも届きそうな程に巨大化したメイは、空に手を伸ばす。
空間が裂けると、そこから巨大な目玉が現れた。
理屈ではなく直感で分かる。
その目玉こそが、この世界を作っている根源の力であると。
あの時と同じように、空間から大量の絵の具のような液体がこぼれ始め、カンナの作り上げたお菓子の国をまるごと侵食していく。
「この力を手に入れた時から、私の望みは決まっていたんだよ、私はすべて欲しい。お姉ちゃんも美雪ちゃんもこの世界も……」
絵の具は滝のように流れ落ちてくる。
「私は出来損ない。だからすべてが欲しかった。自由に動ける身体も、姉さんの作る世界も、美雪ちゃんの心も!全部全部全部欲しい!」
それがメイの真の望みだった。
ヴァジュラと呼ばれた”それ”は、今まさにその願いをかなえようとしているのだ。
世界はメイのどすぐろい欲望に満たされた。