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ひでお
銀髪の長い髪、深い海の底のような瞳。青い満月を背に目の前の男はそう尋ねた。
平凡な毎日。
平凡な人間。
僕の周りは全てが平凡。普通だ。
それこそ、僕自身の家系が代々魔術師でなければ僕も平凡で、この日常の中に溶け込んでいただろう。だが、それが上手くできないのが悩みだ。
海がすぐに見えるこの街は、夕暮れには日が海に沈んでいく様子がわかる。紫がかったオレンジの空を学校の窓から見つめながら、この平凡な日々に何かしらの刺激が欲しい、と考えている。
例えば、今魔法少女のオトモ妖精のような存在が現れ、巨大な悪と戦うヒーローになるべくしてなってしまったとなれば、中学生をしながら戦う正義のヒーロー!として特別な日々になること間違いなしなのだが、そんな事は全くもって起きるわけがない。ましてや自分は魔術の才が微塵も無いため、ヒーローになること自体夢のまた夢の話なのだ。
「はぁ、つまんないのー。」
ここはもう少し過激に、日常生活が崩れない程度に刺激が欲しいものだ。そう思いながら机につっ伏す。
「ん、咲希。帰るよ」
こつ、と頭を軽く叩かれて顔をあげると、幼なじみの天乃錦が用事を終わらせて迎えに来たようだ。
「んあ、にしきくん。も〜先生の用事終わったの?」
「終わった。推薦云々の話だったからすぐだった。 」
推薦。そう、僕たち2人は中学三年生。高校を選び、そこに向けて勉強する。それが本分だ。
「そういや、先生が『雪原が進路相談に来ないから〜』って嘆いてた。」
「ぅげっ、まだ高校決まってない、しぃ」
「早めに決めとかないと、困るの咲希だよ。」
はい、ごもっともです。
「…でもぉ」
「最悪、俺と一緒の所に行けばいいと思う。咲希は剣道しか出来ないけど、勉強は少しだけ人並み以上だから。」
「うーん……」
そういうにしきくんの行く高校は県内でトップ3に入るくらい頭のいい高校。そんなところ僕が行っても馴染めないに決まってる。それに…
「お兄ちゃんもいるじゃん。だから嫌 」
2つ上の兄がいる高校なんぞ行きたくもない。
「咲希の実里さん嫌いは凄いよね。俺は兄ちゃんと仲悪いとか想像できない」
「無理なもんは無理〜。だってあの人達は僕のことどうも思ってないもん。」
そう、いつも評価されるのは兄。優秀で、魔術も秀でていて、あの人たちに期待されているのはいつも兄。だから嫌いだ。あの僕を異常と見る目は。
咲希という名前をつけて、可愛いものを全て否定するなんて。
「まあ、とにかく。先生が呼んでた。進路相談の日程決めたいからって。」
「うげっ、最悪〜。にしきくんそれ先に言ってよぉ」
「ごめん。」
「まあいいけど」
鞄を持ち、職員室へ向かう。
「にしきくん先帰ってて良いよ。多分暗くなるし、桧斗さんが心配しちゃう。」
「ん、わかった。咲希も気をつけて帰って。最近物騒な話、兄ちゃんから聞いてるから……」
「わかったわかった。まあ、僕は男だし大丈夫だから、そんなに心配しないでよ。」
「うん。確かに。剣道部だもんね、咲希」
「剣道部関係ないしー、まあいいや。とにかく行くね。また明日、にしきくん」
「うん、また明日。」
それから、職員室に行き。担任に進路相談の日程やら小言を聞いたあと、帰路に着く。
にしきくんと話していた時はあんなに綺麗な夕焼けだったのに。今じゃすっかりオレンジの空はなりを潜めている。
「やっぱり待っててもらえばよかったかなあ。」
とぼとぼと歩く。
「次からはにしきくんに待っててもらお。怖いし。」
歩く
「…今日、お兄ちゃんがまた何か褒められてるのかな」
歩く
「……早く帰ろ」
小走りで家の近くのコンビニまで歩く。
つけられている。そう判断した。桧斗さんが言ってたのはこの事だったのかと先程の自分を後悔しながら歩く、歩く歩く歩く。
「…ここまでくればだい」
そう言いかけて意識が無くなった。
「っ、あ゙…」
今自分がどうなっているのか分からない。
お腹が、何か、這いずり回って、
目が霞んで上手く見えないのに、意識はあって
誰かが何かを言っていて。
「せ、たせ…。」
聞き覚えのある言葉。これは確か…お兄ちゃんが、いや、父さん?違う、母さんだったか…覚えてないが聞いたことのある言葉。
「汝……杯の……」
はっきりと思い出した。聖杯戦争、英霊召喚の詠唱だ。
では、自分はなぜこんなところに。なぜこんな、こんな意識はあるのに身体が動かず、微かに腹が、自分の体が開かれているのだ?
「我等が神、全てを覆す支配の神よ…我等のっ」
神、神様を英霊召喚で?馬鹿げている。それでただ普通の僕を生贄にしてるのかこいつらは!
声が出せたら、体が動いたら……いや、もう腹が裂けて内蔵が出てる時点で無理か。
いや、まて。そもそも僕はどうして死んでいない?
そう考えるうちに、青い光が霞んだ僕の目からも感じ取れた。
「…問おう、キミが僕のマスターかい?」
キラキラと月に照らされ、銀髪が輝いている。音がよく聞こえるようになったため、ここが海の近くだと気づけた。
ぽっかりと空いていた腹も何も無かったように塞がっている。
「な、我等が神よ!どうか我等と共に旧神を滅ぼす為の杯をっ……」
「…キミに聞いてるんだよ。僕のクティーラ」
「うん、またキミに会えた。今回の件キミの名前は?また咲希かい?」
「な、なんで僕の名前を…!」
綺麗な、吸い込まれそうな目に釘付けになる。
「うん、そう。キミはやっぱり良い子だね。さすが僕のクティーラ。僕の愛し子。」
あれ、僕は。
「手始めに、キミの腹を裂き、臓物を僕に捧げようとしたコイツらを壊してしまおう。嗚呼、寝てていいよ咲希。キミは見なくていい。僕の愛し子であれば耐えられるだろうけど、こんな姿見せたらキミが怯えてしまうからね。」
何をして。
「大丈夫。ゆっくりおやすみ。咲希」
ぷつり、と意識が海の底へ。
暗く深い海へと落ちていった。
コメント
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読み終えたわ…!冒頭の平凡な日常から一転、拉致されて生贄にされかける急展開にページをめくる手が止まらなかった。しかも召喚されたイケメン銀髪が「クティーラ」「愛し子」って呼びかけてくる意味が気になりすぎる…。主人公・咲希が兄と比較されるもどかしさも丁寧に描かれてるし、この世界観の広がり方めちゃくちゃ楽しみ。続き待ってる🔥