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職場の後輩である柏木くんは、営業部の若手の中でも、その容姿と成績でそれはそれは目立っている。
私はすぐ隣で立ち尽くす彼を見上げた。
ダウンジャケットの下は見慣れたスーツ姿。私と一緒で仕事帰りに飲みにきてたんだろうな。
お友達、みんな先行っちゃったね、ごめんよ。
しかししかし。
よく見つめなくともわかる。スラリとした長い脚、高い腰の位置。
だが、その羨ましいシルエットだけでは終わらない。女の私から見ても狡いとしか言いようのない大きな瞳に形の良い薄い唇。
サラっとした柔らかそうな髪の毛は思わずわしゃわしゃと撫で回してみたくなる。
とか、会社で誰かが言ってたなぁ。
うん、確かに顔とスタイルのギャップっておいしいわ。
なんて思い返してると。
「わかりました」
当たり前のように短く答えた柏木くんは、すっと私の前に座る。
そうして無言のままにスマホに触れた。
「ん?」
私は一人首を傾げる。
会社で何となく見聞きする柏木くんは、可愛い顔に似合わず冷たい……いやいや、クールなイケメンのイメージだ。
意味のわからない歳上女の誘いなど、うまくスルーしてくれるんじゃないかと期待していたのに。
まさかの答えだったわけで。
「あ、いきなりスマホ触ってすみません。まだ帰らないなら適当に続けといてって、連れに」
どうやらお連れの方々にメッセージを送っているらしい。
私の乏しい柏木くんデータによると比較的表情に変化のない子だと思っていたのだけど、心なしか申し訳なさそうに謝られて、いや、申し訳ないのはどっちだと急激に罪悪感が押し寄せてくる。
(ほら、やっぱ気遣わせちゃってるじゃんかー!)
私の余裕ぶるパターンの引き出しが少ないせいでほんとにごめん。何度心の中で謝っているんだろう。
「え! じゃあそっち行って! ちょっと言ってみただけだし戻ってよ。ごめんね」
「いや、別に、大丈夫です」
「そう……、なの? そっか、ありがとう」
そうじゃないだろ、引き下がってどうすんの。うまく帰らせてやれよって私の中の私が叫ぶけど、ごめん、私。
私は頭が回らない。
無理をさせているのかも、させていないのかもわからない顔で柏木くんは既に目の前に座ってる。
元々約束してたかのように座っていらっしゃる。
もうこうなったらこうだわ!
「な、なんか飲むよね。私奢るし何でも頼んで!」
ささっと、空になってないビールのジョッキを端に避けて私は場を繋ぐためだけに言葉を放った。
「いや、自分で……」
「大丈夫! まかせて! なんでも飲んで食べて!」
「や、あの」
「ビールはもう飲んだよね? じゃあ甘いのとかにする? んー、男の子だから甘いのは嫌かな、えーっと」
タブレットを連打していると「僕、山口さんとゆっくり話してみたかったですし」と、そんな言葉が私の手の動きを止めた。