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三文小説
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告白をした日の帰り道。
二人の間には、不思議な空気が流れていた。
振られたわけではない。
付き合えたわけでもない。
曖昧なまま終わった夜。
それでも、目黒の心は少しだけ軽かった。
阿部が「知っていた」と言ったこと。
そして、自分の気持ちを最後まで否定しなかったこと。
その二つだけで、十分だった。
___________
駅まで歩く途中。
阿部が静かに口を開く。
「……めめ。」
その呼び方に、目黒は思わず笑ってしまう。
「うん。」
「今日だけじゃなくて。」
「これからも、本気なんだよね。」
「うん。」
迷いなく頷く。
阿部は少し困ったように息を吐いた。
「俺。」
「めめの気持ちを、これ以上蔑ろにはできない。」
その言葉に、目黒は足を止めた。
阿部は続ける。
「めめのアプローチは止めない。」
「その代わり。」
「ちゃんと約束を決めよう。」
恋人ではないからこそ、お互いが傷つかないための約束が必要だった。
二人は駅前のベンチへ座り、一つずつ言葉にしていく。
「まず。」
阿部が指を一本立てる。
「人に迷惑を掛けないこと。」
「うん。」
「メンバーにも。」
「スタッフにも。」
「絶対に迷惑を掛けない。」
目黒は真剣な表情で頷いた。
二つ目。
「メンバーや関係者には絶対にバレないこと。」
「もし噂になったら。」
「その時点で終わり。」
「分かった。」
三つ目。
「誰にも相談しないこと。」
佐久間にも。
康二にも。
ラウールにも。
誰にも話さない。
二人だけの問題として抱える。
「約束する。」
目黒は静かに答えた。
四つ目。
阿部は少し目を伏せる。
「めめが飽きたら。」
「そこで終わり。」
目黒はすぐに首を横へ振る。
「飽きない。」
「もし何年経っても?」
「飽きない。」
阿部は苦笑する。
「そう言うと思った。」
そして最後。
一番重い約束だった。
阿部は少しだけ照れくさそうに笑う。
「……もし。」
「俺が折れたら。」
「付き合う。」
その瞬間。
目黒の時間が止まった。
「……本当に?」
「うん。」
「その時は。」
「ちゃんと恋人になる。」
目黒は嬉しさを隠しきれず笑った。
「ありがとう。」
「絶対に後悔させない。」
阿部は困ったように笑うだけだった。
___________
それからの目黒は、本気だった。
毎朝。
『おはよう。今日も頑張ろう。』
夜になれば。
『お疲れさま。返信はいらないから、ゆっくり休んでね。』
返信を求めない短いメッセージ。
ただ、毎日欠かさず送った。
「おはよう。」
「お疲れ。」
その一言だけの日もある。
阿部が忙しいことは分かっていた。
だから返事がなくても構わなかった。
読んでもらえるだけでよかった。
仕事中も変わらない。
隣へ行く。
荷物を持つ。
飲み物を渡す。
何かあれば真っ先に阿部のところへ向かう。
仕事以外ではもっと分かりやすかった。
「今日、ご飯行く?」
「帰り送るよ。」
「疲れてない?」
少しでも阿部の力になりたかった。
___________
けれど。
本気になりすぎるあまり、失敗も増えた。
収録中。
気付けば阿部との距離が近すぎる。
肩が触れそうになった瞬間。
阿部が肘で小さく押し返してくる。
「……近いよ。」
誰にも聞こえない声だった。
また別の日。
阿部が佐久間と楽しそうに笑っている。
その光景を見た瞬間、目黒は無意識に表情を曇らせてしまう。
休憩時間。
誰もいない廊下で阿部がため息をついた。
「めめ。」
「顔に出てた。」
「え……。」
「佐久間が心配そうに見てたよ。」
「気を付けて。」
阿部は少しだけ眉を下げる。
「約束したでしょ。」
「バレたら終わりなんだから。」
目黒は素直に頭を下げた。
「ごめん。」
「次は気を付ける。」
阿部は困ったように笑う。
「本当に。」
「難しい人。」
そう言いながらも、怒鳴ることはなかった。
突き放すこともしなかった。
その優しさが、目黒には何より嬉しかった。
だからこそ。
絶対に諦めたくなかった。
阿部を笑顔にできるのは自分でありたい。
隣を歩くのは自分でありたい。
誰よりも近い存在になりたい。
何年かかってもいい。
何度遠回りしてもいい。
目黒は心の中で静かに誓う。
(絶対に。)
(何が何でも。)
(あべちゃんを手に入れる。)
その想いだけは、一日たりとも揺らぐことはなかった。
___________
デビューしてから。
目黒は忙しくなった。
それでも、不思議と阿部との距離は少しずつ近付いているように感じていた。
テレビ番組。
雑誌の撮影。
インタビュー。
気付けば、スタッフから「めめあべ」で並ぶように言われることが増えていく。
世間では、「めめあべ」という呼び方が少しずつ広まっていた。
もちろん仕事だ。
分かっている。
それでも。
デビュー前より、自然に自分の隣へ来てくれる。
コメントを振ってくれる。
笑いながら肩を寄せてくれる。
昔は、自分だけが隣へ行っていた。
今は違う。
仕事とはいえ、阿部から近付いてきてくれる。
その小さな変化だけで、一日幸せな気持ちになれた。
___________
そんな日々が続いていた頃。
世の中は、新型コロナウイルスの影響で大きく変わった。
仕事は止まり。
外出もできない。
メンバーとも会えない日々。
一人暮らしの部屋は、驚くほど静かだった。
目黒は毎日、夜になるとスマートフォンを手に取る。
画面には「あべちゃん」の名前。
約束なんてしていない。
それでも毎日、電話をかけた。
「もしもし。」
聞き慣れた声が聞こえるだけで安心した。
阿部は一度も「今日は無理」とは言わなかった。
忙しい日も。
疲れている日も。
「もしもし、めめ。」
そう言って電話に出てくれた。
目黒には分かっていた。
阿部は、約束を大切にする人だ。
「蔑ろにしない。」
あの日、自分へ言ってくれた言葉。
だからきっと、毎日付き合ってくれている。
そう思うと申し訳なさもあった。
それでも、電話をやめることはできなかった。
阿部の声を聞かないまま、一日を終えることができなかった。
電話の内容は、本当に他愛もない。
今日見たドラマ。
作った料理の話。
コンビニの新商品。
「今日、何してた?」
そんな会話だけで、時間が過ぎていく。
「じゃあ、おやすみ。」
「おやすみ、めめ。」
その一言で、一日が終わる。
目黒にとっては、それが毎日の楽しみになっていた。
___________
そして、自粛生活最後の日。
いつものように電話をかける。
「もしもし。」
「あべちゃん。」
少し笑いながら聞いてみた。
「ねえ。」
「そろそろ折れた?」
電話の向こうで阿部が吹き出す。
「折れてないよ。」
「まだ?」
「まだ。」
いつもの返事。
それなのに、その笑い声が嬉しかった。
二人はいつものように、どうでもいい話を続ける。
仕事が再開すること。
久しぶりにメンバーへ会えること。
少しだけ緊張していること。
気付けば、もう電話を切る時間だった。
目黒は少しだけ勇気を出して聞く。
「あべちゃん。」
「ん?」
「自粛中の電話。」
「どうだった?」
一瞬だけ沈黙が流れる。
余計なことを聞いたかもしれない。
そう思った、その時だった。
阿部が静かに話し始める。
「……嬉しかったよ。」
目黒は息を止めた。
「照も活動休止してるし。」
「ニュースは暗い内容ばっかり。」
「一人でいると。」
「やっぱり不安だった。」
「寂しかったし。」
「だから。」
「毎日電話くれて、嬉しかった。」
その言葉は、飾り気がなかった。
阿部らしい、まっすぐな本音だった。
「……そっか。」
目黒はそれだけ言うのが精一杯だった。
「ありがとう。」
「こちらこそ。」
「じゃあ、また明日。」
「うん。」
「おやすみ。」
「おやすみ、めめ。」
電話が切れる。
部屋はまた静かになった。
目黒はしばらく動けなかった。
そして、ゆっくりスマートフォンを胸へ抱きしめる。
「……よかった。」
ぽつりと漏れた声は震えていた。
自分だけが一方的に電話をかけていると思っていた。
迷惑かもしれない。
義務感で付き合ってくれているだけかもしれない。
何度もそう思った。
でも違った。
阿部も、その時間を大切に思ってくれていた。
その事実だけで十分だった。
気付くと、目から涙がこぼれていた。
告白した日も泣かなかった。
どれだけ片思いが苦しくても泣かなかった。
それなのに。
「毎日電話くれて、嬉しかった。」
たったその一言で、涙が止まらなくなった。
好きな人に必要とされた。
その喜びだけで、胸がいっぱいになっていた。
目黒は涙を拭きながら、小さく笑う。
「……まだ。」
「頑張れそう。」
阿部が折れるその日まで。
この恋を諦めるつもりは絶対になかった。
コメント
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新作一気読みしました、メンバーの中で難攻不落と言えば💚と💙で💚は頭も良いから変な駆け引きでは🖤の気持ちが裏目に出る可能性があるので誠意を持って真面目に伝えるしか無いけど🖤は頑張ったよね(>ω<) でもメンバーには交際バレてたけどね(>ω<)
第3話、読んだよ〜! めめの一途さが本当に胸にくる…「おはよう」「お疲れ」だけのLINEでも、ちゃんと届けたいっていう気持ちが伝わってきて泣ける。 あと、自粛中に毎日電話してたの、阿部が「嬉しかった」って言ったシーンはマジでやばかった。好きな人に必要とされたのが嬉しくて泣くめめ、こっちももらい泣きしそうになったよ。 「折れた?」「まだ。」のやりとりも癖になるわ…この距離感、尊すぎる🔥 続きが気になる!