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「残ってるチップ、尊さんにあげるので遊んでください」
「私も、涼さんにあげます」
私たちからチップを受け取った尊さんと涼さんは、顔を見合わせる。
「疲れたなら帰るか?」
「や、見てます! 格好良く勝ってくださいよ!」
「自分がプレイするのは慣れなくて疲れましたが、人がやってるのを見る分には大丈夫です」
恵に言われ、涼さんはニコッと笑った。
「じゃあ、最後に有り金全部はたいてバカラやってくか!」
「だな」
「バカラって聞いた事あります。……お決まりの奴をやりますが、ガラスアートじゃないですよね?」
そう言うと、尊さんはクスクス笑ってバカラのテーブルを示す。
「ま、カードゲームだな。動く金が大きいから〝カジノの王様〟とも呼ばれてる。ブラックジャックは21に手札を近づけるゲームだが、バカラは9に近い人が勝ち。加えて実際に俺らが参加するんじゃなくて、ディーラーが一人でカードを配り、プレイヤーとバンカーのどちらが勝つか、または引き分けかのどれかに賭けるゲームだ」
「予想ゲーム?」
「そう」
「恵ちゃんはどっちだと思う?」
涼さんが尋ねたけれど、恵はポンポンと彼の腕を叩いた。
「私のお小遣いは全額涼さんに託しました。勝ったら肩揉んであげます」
「よし! 勝つぞ!」
恵、上手く回答を避けたな。
……というか、なんだかこのニコニコ涼さんを見ていると、どこが〝凍土の帝王〟なのかな、と思ってしまう。
でも涼さんが私のツンツンしていた時代を知らないように、私が彼の他の面を知らなくてもおかしくない。むしろ当たり前だ。
多分、こうやって接している涼さんが、本当の彼なんだと思う。
親友と笑い合って、嬉々として変わった物を食べて、恵の言葉で一喜一憂する三十二歳の男性。
きっと彼は、上等なスーツを着てパーティー会場で笑っているより、楽な格好をして自分の足で色んな所を歩くほうが好きなのだと思う。
仕事で冷酷な一面を見せる姿も、完璧な御曹司と言われる澄ました面も、私たちに見せる必要はない。
そして私も、涼さんにツンツンする必要はない。
尊さんは、物事も人も色んな面を持っていて、自分が認識している面がその人、出来事のすべてじゃないと言っていた。
けれど恋をする人は「好きな人だからすべて知りたい」と言うかもしれない。
でも付き合っている人が自分にとって〝いい相手〟なら、無理にそれ以外の部分を暴かなくてもいいのだろう。
私も、尊さんの『荒れていた』時代を詳しく深掘りすべきじゃない。
宮本さん以外にも大勢の女性と〝関係〟していたかもしれないけど、今は私だけだと分かっているし、その人たちが現れる気配もない。
私がそんな事を考えている間、二人はバカラのテーブルに向かい、ディーラーさんと英語で話をしている。
バカラはディーラーさんがカードを配り、プレイヤーと呼ばれる先攻が勝った場合は2倍、バンカーと呼ばれる後攻が勝ったら1.95倍、引き分けになったら9倍の配当があるらしい。
その際、カジノの取り分であるコミッション(手数料)が5%引かれる。
バンカーが6点で勝った場合だけ、配当金から50%引かれるのを、シックスバンカーハーフと言われるそうだ。
二枚のカードの合計が8、または9になると、ナチュラルエイト、ナチュラルナインとして無条件で勝つ。
バカラでも10以上のカードは意味を持たず、0扱いされてしまう。
たとえばエースとクイーンが出たら1、4と9が出ると合計13になり、一の位の3、エースと9だと0。
基本的に二枚ずつカードが配られるけれど、〝条件〟を満たせば、三枚目のカードを追加する事もできる。
三枚目のカードを追加する条件は、プレイヤーとバンカーとで違っていて、とても難解なルールになっている。
配られたカードの合計が、プレイヤーの場合0から5まで、バンカーが0から2までの場合、三枚目のカードを引ける。
プレイヤーのカードの合計が6、7だった時は、バンカーだけが三枚目を引く。
バンカーのカード二枚の合計が3から6の場合、プレイヤーが引いた三枚目のカードの数字により、バンカーも三枚目を引けるかが変わってくる。
……と、こんな感じでルールがややこしいけれど、私たちがルールを覚えてプレイしなきゃならない訳じゃない。
まぁ、尊さんや涼さんならスルッと覚えそうだけど。
「バカラはすぐ終わるから、待っててくれ。終わったらホテルに戻ろう」
「はい」
尊さんに言われ、私たちは二人の後ろに立って待つ。