テラーノベル
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誠一郎は丸坊主の頭に蛍光黄色のキャップを被って笑顔で言った
「船には燃料の補充も掃除もバッテリーの充電も終わっとる!食べ物も飲み物も旅館からふんだんに届いた!いつでも出発できるぞ!」
「おう!ありがとうな、誠一郎!」
松吉が力強く頷いた
大きなクーラーボックスには、今朝から山田旅館の料理長が持たせてくれた、クルージング料理が沢山詰め込まれていた。おにぎり、唐揚げ、サンドイッチ、フルーツ、海の上で食べるには最高のラインナップだ
「今日の船長は誠一郎じゃ」
カッカッカッ!「ワシに任せておけ!この海は庭のようなもんじゃ!」
誠一郎がロープを解き、船がゆっくりと桟橋を離れていく、エンジンの音が響き、白い船体が青い海の上を滑り出した
船は湾を抜け、徐々に速度を上げていった、水しぶきを上げながら、大きく上下に揺れ、どこまでも青い水面を力強く進んで行く
観光客達は、一階の操縦席の後ろのクッション付きベンチシートに腰かけたり、デッキに出て風を浴びたりして、それぞれに海を楽しんでいた
「船尾中央に大きな生け簀があるから釣った魚をどんどん入れてくださいね、みなさんの釣った魚は全部今夜の晩御飯で出てきますよ」
「よーし!頑張るぞ!」
「わぁ、魚が跳ねた!」
「見て見て、島が見える!」
ジンも観光客達と一緒に、釣りの用意をしながら海を眺めていた、幼い頃に父に一度海釣りに連れて行ってもらったことがあった、しかしこれは規模が違う!桜に大物を釣って帰ったら尊敬されるだろうか、ジンは子供のようにワクワクしていた
晴れた日に船に乗ることでしか得られない心地よさに圧倒されていた、空気は湿っていて肺に快く、生ぬるい風が絶えず吹きかけている
誠一郎は沖を目指して巧みに舵をとり、松吉は遠くに浮かぶ小さな無人島や、大群で飛んでいる海鳥の種類を後ろにいる観光客達に教えた
「あれは鵜じゃ!魚を捕るのが上手いんじゃ!」
「わぁ、本当だ!」
「あの島は沼島といってな、国生み神話の舞台と言われとるんじゃ」
「へぇ~!すごいなぁ~」
観光客達とジンは松吉の話に聞き入っていた、ジンもサングラスをかけ、海風を浴びながら、この景色を心に刻んでいた、まだここへ来て日が浅いのにもうこの島が大好きになっている、故郷のような気さえする
都会のオフィスで働いていた頃の自分には、想像もできなかった光景だった、青い海、白い船、笑顔の人々―これほどにも心が解放感に溢れ自由な気がする、やがて、松吉が釣りのポイントに船を止めた
「さぁ、着いたぞ!ここは魚影が濃いんじゃ!今日は大漁間違いなしじゃ!」
「わぁ!」
観光客達が一斉に立ち上がり、釣り竿を手に取る、誠一郎と松吉が一人一人に釣り方を教えていく
「餌はこうやって付けるんですよ」
「竿はこう持って、こう投げるんです」
「お、早速食いついたで!引いて、引いて!」
「うぉー!釣れた、釣れた!」
デッキは大騒ぎになった、鯛、鯵――次々と魚が釣れ上がり、観光客たちは大喜びだった
「すごい、すごい!こんなに釣れるなんて!」
「この鯛、お造りにしたら美味しそう!」
「今夜の夕食が楽しみですね!」
松吉は満足そうに頷いた
「ええじゃろう!淡路の海の幸は日本一じゃ!」
ジンも釣り竿を手に、観光客と一緒に海釣りを楽しんでいた、竿が引かれる感触、魚が跳ねる瞬間、海の匂い―全てが新鮮で、心が躍った
―ヨンジュンも、きっとこういうのが好きだっただろうな―
ふと、そんなことを思った、今は心の思うままに母や父…ヨンジュンの事を心に思う浮かべるのに罪悪感はなかった、昨日、松吉に言われた言葉が、心に温かく響く
「生まれ変わったら、ワシの孫で生まれてこい」
昨日から、松吉の言葉はずっとジンの心を温かく包んでいる、なぜかくすぐったい・・・照れるような・・・嬉しいような、まるで愛してもらっているような感覚に陥った
だからこそ「偽装婚」という自分の行動もチクリと痛みが増している様に感じた
―お義父さんは僕達がしている事を知ったら何て言うだろう・・・―
太陽が高く昇り、海はキラキラと輝いていた、海鳥の鳴き声が遠くから聞こえてくる、淡路島の夏は真っ盛り
―でも・・・もう少し・・・このままでいたい―
ジンは心の底からそう思った
コメント
4件
偽装婚はきっかけでもう本物の夫婦だよ!
淡路島はもはやジンさんの故郷よー☺️ 桜ちゃんとホントの夫婦になって、松吉さんの息子になろう😊✨✨
ずっとこのままでいいじゃない😊