テラーノベル
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「本日の朝食ですが、和食にしてみました」
幸が手を後ろで組み、テーブルの側に立つ。
「なんかひさしぶりだね」
「はい」
と返事をした後に
「作るのがめんどくさいから」
と司には聞こえないように呟く。
「まずはお米。もちろん1等級米でございます」
嘘です。パックご飯をレンジでチンして解して、ガムシロップを少し入れ、さらに温めたものです。
「さらに鮭ですね。春から初夏にかけてが食べ頃の
最高級とまではいきませんが、この時期で一番美味しい鮭を炭火で焼いたものです」
大嘘です。スーパーで買える至極一般的な鮭の身を解し、骨をあくびをしながら1本残らず取り
牛脂と共にフライパンで焼いて、鮭の切り身の形に成形したものです。
「隣にあるのが大根おろしですね。鮭自体臭みが少ないですが、あえて辛みのある大根を使用しております。
そこに最高級のお醤油を垂らして、鮭と一緒にお召し上がりください」
司が鮭と大根おろしと醤油を見ながら頷く。
「そして卵焼きになります。朝ということなので、あまりコッテリさせないように
卵自体の甘さは控えめですが、卵の香りがしっかり感じられる卵で作らせていただきました」
もちろんこちらも嘘。スーパーで買える至極一般的な卵で、焼き方と味付けだけを工夫した卵焼きです。
「あっ」
っと小声が出た幸。
「先程の大根おろしを卵焼きにも合うようにしてあります」
今思い付きました。
「お味噌汁ですが、献上品ともされる合わせ味噌を使用し
具材は朝なのでさっぱりと食べられるように、あえてネギだけにしました。
もちろん最高級のネギを使用し、切り方は3種類、筒切り、斜め薄切り、そして刻みネギを使用しております」
合わせ味噌もネギもスーパーで買える至極一般的なもの。
切り方3種類なのは本当だし、筒切り、斜め薄切りはしっかりやったが、刻みネギはスーパーの方が刻み
透明の丸いプラスチックケースに入って販売されているものを買ってただ入れただけです。
「ほうれん草のおひたしも、苦み、アクの少ないものを使用し
かつ甘さ、ほうれん草の香りを邪魔しない味付けとなっております」
スーパーのお惣菜です。
「今日も豪勢だね」
「とんでもございません」
本心です。
「いただきます」
司が手を合わせ、軽く頭を下げる。幸も軽く頭を下げる。箸を持ってお味噌汁から飲む司。
「んん。落ち着くね」
普通の食事をしていく司。
「ご馳走様でした。今日も美味しかったです」
「いえいえ。こちらこそ、食べていただきありがとうございます」
「幸くんのご飯はいつも美味しいし、それに食材に拘って
高い食材とか使ってるのに残すなんてあり得ないよ。ま、食材安くても残さないけどね」
司が思ってる50分の1くらいの値段です。本日は日曜日。
特に予定もない司と幸の1日を見てみようと思います。
まず幸は先程の司の朝ご飯の準備から始まる。なので幸の朝は早い。
早いというか夜中というか23時、夜11時に寝て午前3時に起きる。
司ももう高校生なので夜更かしをしても不思議ではない年齢だが
「この家は夜10時から幽霊が出るので部屋にいたほうがいいかと思います」
というとんでもない嘘をつき、司を夜10時には部屋に入らせることにより
早く寝て早く起きるということを実現させている。午前3時に起きた幸はまず歯を磨く。
こんな時間に歯を磨くのは幸か朝のニュース番組のアナウンサーくらいである。
まだ暗いリビングで部屋の明かりはつけずにテレビをつけてボーっとする。あくびが出る。まだ眠いのである。
午前3時。おもしろい番組などやっているはずもなく、MyPipeに切り替えてゲーム実況を流す。
「はいどうも皆さん、おはようございます、こんにちは、もしくはこんばんは。
初めましての方がほとんどだと思います、初めまして。
そしてひさしぶりに訪れてくれたあなた。ありがとうございます帰ってきてくれて。おかえりなさい。
そしてありがたいことに私のことを好きでいてくれて、私のファンでいてくれるあなた。
またお会いしましたね、派手髪ひょっとこの翔大です。よろしくお願いします」
「相変わらず挨拶長っ」
「今回はですね「フォーカス1ポイント」というゲームをやっていきたいと思います。
こちらのゲームはですねー。ただ1点を見つめるゲーム、らしいです。前情報をほとんど入れていないので
ただ1点を見つめるだけのゲームがどんなものなんだか気になって購入させていただいたんですが
はたしてどんなゲームなのか。早速やっていきたいと思います」
「へぇ〜」
興味が出る幸。
「Language、言語は一応公表はしてないんですが日本語で」
「アプさんリスペクト」
と呟く幸。
「お。始まった。これはぁ〜プリントを持ってる感じかな?
高額&時間に融通の利くお仕事。1日実時間20分5万円!?え、私もやりた」
「え、オレもやりた」
同じ、もしくはそれ以上にもらっている幸。
「あなたは厳正な審査の中、選ばれました。もしご都合がよろしければ○月○日○時○分
住所○×△□にて初仕事を行います。よろしくお願いします。というプリントが家に届いた。
私はその住所に行ってみた。受付を済ませ、指示された部屋に入るとそこにはプリントが置いてあった。
この度はありがとうございます。お仕事内容について説明致します。
イスに座り(座らなくてもいいですが)ただ1点を見つめていただくお仕事です。
イスは定位置から動かさないでください。そのイスに座ると正面に見えるドアを見ていてください。
最短で20分程で終わります。しかしドアから視線を外してしまうと
カウントされていた20分間がリセットされますのでご注意下さい。というプリントが置いてあった。
私はイスに座った。お。「右側のスタートボタンを押した後5秒後にスタートです」か。
なるほど?じゃ、スタート」
と言うMyPipeの実況者がいうと画面に5からのカウントダウンが始まった。
「スタートね。オッケー?あ、視点勝手に移動する。
あ、これをと留めておかないといけないのね?なるほどね?で?これだけ?20分?割と苦行だな」
と言っていると早速画面に細く色白な腕がゆっくり右から出てきた。その手には赤いネイルがされている。
「うわっ。ビックリしたぁ〜」
その手が誘惑するように小指から順に折りたたんでいく。
「なるほどね?こーゆー誘惑にも耐えなさいと。よゆーですよ」
と言っていると画面から手が引っ込んだと思ったら、今度は手の先に赤い服を摘んでまた出てきた。
そしてその服を放った。また手が引っ込んで、次はキャミソールを摘んで出てきて放った。
「おぉ〜。これは男なら揺らぐかもね」
次はスキニーなジーンズを摘んで出てきて放る。
「おぉ。下もですか」
引っ込み
「ふぅ〜なるほどね?こーゆーのがあっても視線を逸らさないようにってことか。おもしろいじゃないの」
とその件(くだり)は終わったと安心しているとまた手が出てきた。しかもその手にはブラジャーが。
「うっそーでしょー」
「マジか」
幸も思わず呟く。そのブラジャーを放って引っ込む。
そして次は下着のパンツを手にして出てきてパンツを放る。その実況者はついパンツを追いかけてしまった。
するとそこには下着のパンツとブラジャー、キャミソールが入ったカゴが置いてあった。
「しまった!」
すると部屋が赤くなり、プレイヤーを囲むほどの白い箱が上から降りてくる。
その壁には「Resetting now」と書かれていた。
「やっちまった…。つい追いかけてしまった…。Resetting now。リセット中か」
「オレも追いかけてたわ。でも圧倒的に右のほうが気になるけど」
という感じでゲーム実況を午前4時過ぎまで見て、そこから司の朝ご飯を考える。
朝は割と考えるのが楽。洋食ならパン、トーストとかクロワッサンなど。
トーストならジャムとか砂糖とか蜂蜜とか。バターオンリーだけなんてのもいい。
ハムエッグなんていうのも定番だ。クロワッサンもジャム、ウインナー
スクランブルエッグにハム、ベーコンもあり。もちろんそのままでも充分。
洋食だとその他はパンケーキ、シリアルなどもある。
サイドに置くものはサラダ、ヨーグルト、気温が高ければ冷製スープ、気温が低ければ温かいスープ。
和食であれば白米、焼き鮭、味噌汁、その他に付け合わせで終わり。
その日は洋食が続いたので和食にすることに。
スーパーで買っておいた鮭をお湯で臭みを消し、身を解して、骨をすべて取る。
皮に合うように身を成形する。後に司が食べる直前に皮は皮、身は身で焼く。
お味噌汁もスーパーで買った合わせ味噌、出汁を適当な調合量を取って準備しておく。
基本的にスーパーのもので出来るので、軽い準備で済む。問題なのはお昼。
幸はなるべくいろいろな味覚を感じて欲しいと考えている。もちろん不味いもの以外で。
「今日は焼きそばにしよ」
さらに夜ご飯も考える。いわばディナーである。
「ディナー…ディナー」
と呟きながらスマホで調べる。ディナーも決めると向こう1週間の司のお弁当についても考える。
土日で1週間、5日もしくは6日のお弁当の内容を決めている。
司にはお弁当は冷凍食品だと伝えているが、実は司のお弁当は幸の手作りかつ高級食品で固められている。
例えば。よくあるエビクリームコロッケ。しかしそれも幸の手作り。
パン粉も最高級のものを使用。卵ももちろん最高級、小麦粉にも余念なし。
ホワイトソースに使用する牛乳も北海道直送の最高級。
海老なんてエビクリームコロッケに使用するのは勿体無いほどの代物。
一流の揚げ物店で使用するような純度の高い油を使用し、油の温度、揚げ時間もすべてしっかり測る。
さらにお弁当なのでお昼時に一番美味しくなるように考える。
調理に時間がかかるため、献立を考えるのは土日に済ませる。
朝食が済むと司は部屋に行く。学校の予習復習をするためである。
実家にいた中学3年生までも家では朝食後、予習復習というルーティンだった。
なので司と2人で暮らすようになってもその習慣で朝食後は部屋に戻る。
しかし中学3年生までも、そして今も部屋に戻っても予習復習などはしない。
一応テーブルに教科書、ノート、筆記用具類を出してはいるものの
タブレットで動画を見たり、ゲームをしたりしている。
「今度こそ視線逸らさずに20分乗り切ります!さてぇ〜?最初はぁ〜?」
すると画面にノイズが走り、電気が消え、青白い暗い部屋になり、ドアの前方に井戸が現れ
「あ“ぁ”〜…」
という不気味な声が聞こえてきて、井戸から青白く細い手が出てくる。
「あぁ〜…ホラー要素もあるんだ?…苦手なんだよなぁ〜…ホラー…」
井戸から白いワンピースの長い髪で顔が隠れた、いかにもジャパニーズホラーの幽霊ですという幽霊が出てきて
四つん這いでプレイヤーに迫る。
「あぁ〜…怖いかもぉ〜」
やがてドアを見つめることを強いられているプレイヤーの視界から幽霊が消える。
「あぁ〜!迫ってきてるよ?迫ってきてるよ!?可愛い女の子であれ。
髪掻き分けたら実は可愛い女の子でした!であれ」
「あ“ぁ”〜…」
という声が大きくなって声が止み、部屋の明かりが戻った。
「ふぅう〜…。乗り切ったぁ〜…」
と安心したところで下からズンッっと幽霊がドアップで出てきた。
「うわっ!」
司も思わず体をビクッっとさせ、タブレットから目を背けた。
そんなこんなでお昼の時間が近づく。スマホのアラームがリビングに鳴り響く。
司の朝食後、幸もテキトーに朝食を済ませ、食器を食洗機に突っ込み
自動お掃除ロボット、Limbo(リンボー)を起動させ
執事の服、燕尾服を脱ぎ、ソファーに寝転がり、スマホのアラームをかけて時間まで眠っていたのである。
「…うるさっ」
自分で設定したアラームに文句を言いつつアラームを止め、下着のパンツ一丁でお昼を作る。
「オレが世界一の美味いと思ってる焼きそば、吉平(きっぺえ)ちゃーん」
とカップ焼きそばを取り出し、お湯を入れる。3分待つ間にベランダでタバコを吸う。
「…ふぅ〜…」
煙を口から吐き出し
「…生き返るぅ〜…」
肺は刻々と死んでいっているが。アラームが鳴り、タバコを消してキッチンへ戻る。
カップ焼きそばの湯切りをする。そしてソースをかけ満遍なく混ぜる。
そしてお皿を出してお皿に盛り付ける。オシャレなパスタのように。
そしてカップ焼きそばの定番、容器の端に固まっている細かいキャベツたち。
そのキャベツたちを麺の端を囲むように配置する。
さらに吉平ちゃんの特徴、からしマヨネーズというのが付属している。
そのからしマヨネーズをスプーンに乗せる。そのスプーンをお皿の端に添える。もう1つの小袋を手に持つ幸。
「ふりかけかぁ〜…オレ使わないんよなぁ〜…」
と言いつつも一応小皿にふりかけを出す。
プラスチックの容器、小袋、包装などを捨てていると司の部屋のドアが開く音が聞こえる。
風のようなスピードで執事の服、燕尾服を着て、ダイニングテーブルの横にスタンバイする幸。
「お疲れ様です」
と司に頭を下げる幸。
「ううん。全然全然。あ、こーくん、Yシャツのボタン、掛け違えてるよ」
と言う司に自分の胸元と見る幸せ。第二ボタンまで開けているのは幸のデフォルトだが
第三ボタンが第四のボタンホールに、第四ボタンは留まっておらず
第五ボタンはちゃんと第五のボタンホールにと互い違い、チグハグに留まっていた。
「あぁ…。これは最近のファッションの流行りです。
ボタンをあえて互い違いに留めたりするのがナウなヤングの間で流行ってるんです」
嘘です。焦りすぎて「ナウなヤング」なんていつもは使わないフレーズが出る幸。
「へぇ〜。ファッションて難しいね」
と納得しながらイスに座る司。
「そうなんです。ファッションて難しいんです。失礼します」
と幸は司の後ろに回り込んでイスを引き、司が座る瞬間イスを押す。
そして司に紙エプロンをつける。
「ありがと」
幸はテーブルのサイドに戻る。
「お昼ご飯でございますが、今日は焼きそばにいたしました」
とボタンを直すことなく司の前に焼きそばの盛られた、からしマヨネーズのスプーンが添えられたお皿を出す。
そのお皿の横にふりかけの入った小皿も置く。
「お飲み物はいかがいたしましょう?」
「うぅ〜ん…。こーくんならなにがいいとおm」
司が「思う?」と言い終わる前に
「オーラですかね!」
と食い気味に、鼻息を荒くして答える幸。
「ソラ・オーラ?」
首が取れるんじゃないかと思うほど頷く幸。
「こーくん相変わらずソラ・オーラ大好きだね」
ソラ・オーラとは世界一有名な赤黒い炭酸飲料である。
「焼きそばにはもう…」
と言いながらキッチンへ向かい
冷蔵庫からソラ・オーラの2リットルのペットボトルを取り出し、司のグラスに注ぎ
「失礼致します」
と言いながらそっっとテーブルに置く。そして説明を始める。
「本日の焼きそば。麺からこだわっておりまして、素材すべて最高級のものを使用して作った麺でございます。
そして絡めているソース。こちらも最高級のものを使用し、その麺に合うように調合してあります。
焼きそばといえばにんじんやキャベツ、豚肉などの具材が定番ですが
今回は麺とソースの味わいを重視していただきたく、あえて細かいキャベツオンリーにしてあります。
そしてお皿に乗せてありますスプーンに入っているのはからし風味のマヨネーズになります。
酸味の少ないマヨネーズを作成しまして、からしの辛さ、香りを際立たせるような調合にしてあります。
それだけで食べると鼻にツンと来ますが、焼きそばに混ぜるといい感じになります。
最初から混ぜて食べるも良し、私は半分ほど食べて残り半分に混ぜて食べ…」
想像してたらヨダレが出てきたのでヨダレを啜る幸。
「後半混ぜても良し。お好みでお混ぜください。
そして小皿。そちらにはふりかけが入ってございます。…ま、かけなくてもいいです」
ふりかけだけ雑な説明である。
「いつもありがと」
頭を軽く下げる幸。
「いただきます!」
箸を持って焼きそばを持ち上げる。そして口へ運ぶ。
「んん〜。美味しい。時間かけただけあってすごく美味しいよ!」
いえ、熱湯3分です。120円です。美味しいのは事実です。
「こーくんも食べたらいいのに。この後一緒にゲームするんだし」
「では失礼して」
幸はキッチンの棚から吉平ちゃんを取り出してお湯を注ぎ3分待つ。
その間に自分のグラスにソラ・オーラを注ぐ。
「こーくんはカップ焼きそばなんだ?なんかいつも申し訳ない」
同じものです。3分経ってソースを入れて混ぜ
「いただきます」
食べる。まずはからしマヨネーズをかけずに食べる。
「…うまっ」
1人で勝手に我慢吉平ちゃんをしていたようなものなのでより美味しい。
「僕もカップ焼きそば食べたい。こーくん、交換しよ?」
同じものです。
「ダメです。お坊っちゃまのようなお育ちが良く、良いものばかりを食べてきた方が食べると…飛びます」
「飛ぶ?」
「はい。ホリー・パッターのおばさんのように空に飛んでいきます。なので危険です」
美味しすぎて飛ぶという意味です。そして半分ほど食べてから、からしマヨネーズをかけて食べる。
「…うんまっ」
少しだけ鼻にツンときて、からしの香りが鼻に抜け、味はより濃厚になる。
そして2人ともお昼ご飯を食べ終え、ゲームの時間へ。
「アリオカートひさしぶりだね」
「ですね」
「もう執事モードいいよ。リラックスしてやろ」
「ではお言葉に甘えて。…うっし。ぜってー勝つ」
司はテレビに接続して大画面で、幸は携帯モードで対戦することに。
「あれ?ロケットスタートってどのタイミングだっけ?」
「たしか「Go!!」のタイミングでタイミング良く押すといけたはず」
「ありがと」
結果嘘をついた幸はロケットスタートに成功し、信じた司は失敗した。
「ヤバッ。出遅れた」
「うっし!アドバンテージ」
しかし結果は司が1位、幸は3位だった。
「やったぁ〜」
「なんで強いん?陰で練習してた?」
「ううん?めっちゃひさしぶり」
「マジか。才能だな」
「さてさて次次」
「次はマジで勝つ」
「で?ロケットスタートは?」
「だからGo!!でタイミング良くだって」
「わかった」
次のレースも司はロケットスタートに失敗し、幸はロケットスタートを成功させたが
結果的にまた司が1位、幸は3位だった。
「…司に負けるのは甘んじて受け入れよう…。CPU!おい!」
「昔からこーくんにゲームだけでは勝てるんだよねぇ〜」
と嬉しそうな笑顔の司。
「いやいやいや」
真顔で手を横に振る幸。
「何回も勝ってるから。アリオカートだって戦績タイくらいだから」
嘘である。アリオカートでは99%司が勝っている。他の対戦ゲームでも幸は司にほぼほぼ勝ったことがない。
「そうだっけ?」
「そう」
「そっか。じゃあ、今日は調子悪いんだね」
「そうそう。今日調子悪いし、てかまだアイドリングだし」
結果的に司の全勝。幸はロケットスタートだけは全勝していた。
そして幸は夜ご飯の準備をする。司に見られないように、聞かれないように
司には夜ご飯までゲームをするにしてもテレビを見るにしても
ノイズキャンセル機能のついた高性能ヘッドホンをして過ごしてもらう。
夜ご飯の準備ができると肩をポンポンとして席についてもらう。
「本日のディナーはタラのクリームソース、ほんのり野菜香るリゾット、コンソメと野菜のスープ
生ハムとサラダ、デザートにはバニラアイス、ベリーソース和えをご用意しております」
「おぉ〜」
「メインのタラは岩手県から直送していただいた最高級のものを使用し
クリームソースも牛乳は北海道、ホタテやアサリも北海道産のものを使用し、エキスだけを入れております」
全然違います。鱈はスーパーで売っている北海道産のもの。
クリームソースはカップのインスタントクラムチャウダー。
鱈の切り身の臭みを取り、クラムチャウダーをお湯を入れて作り
半分ほどを取り、鍋に入れ牛乳で少し薄め、そこに鱈を入れて火にかけ、少し煮込み
多少鱈の魚臭さがついたかもしれないその煮込んだクラムチャウダーはソースには使わず
残りのクラムチャウダーに牛乳を少し入れたものをソースにしたのだ。
「リゾットに関しましては、サラダと同じ野菜をペースト状にしたものとお米をじっくり炊いたものです。
もちろんその野菜はそれぞれの産地から直送していただいたものを使用しております。
生ハムとドレッシング代わりにかけてあるオリーブオイルはイタリア産のものを使用し
岩塩はヒマラヤのものを使用しております」
すべてスーパーで買えるものです。リゾットは野菜ジュースを薄めたもので作り
サラダは様々な種類の野菜の詰め合わせのもので、生ハムもスーパーのもの。
スーパーの生ハムは少し塩味が強いため、生温かいお湯で塩味を少し洗い流したものを乗せている。
さらにスーパーの生ハムは油分が少なく
さらに塩味を洗い流したときにただでさえ少ない油分も洗い流してしまったため
油分を補うためオリーブオイルをドレッシング代わりとした。
もちろんそのドレッシングもスーパーで買えるお安いもの。
岩塩は普通の塩と比べると少し高かったが、岩塩は普通の塩と比べて旨味が強いため岩塩にした。
コンソメと野菜のスープはリゾットに使用した野菜ジュースに
サラダの野菜をペーストにしたものを混ぜ、コンソメスープで割ったもの。
「いただきます」
司が手を合わせ、幸が軽く頭を下げる。ナイフ、フォーク、スプーンを起用に駆使して食べる。
「んん!どれも美味しい」
「ありがとうございます」
企業努力です。すべて食べ終えた司。
「お皿、お下げします。デザートすぐにお持ちしますね」
お皿を下げて、ガラスのお皿に盛られたバニラアイスに
ベリーのソースがかかっているデザートを司の前に出す。
「失礼します。こちら本日のデザートになります。
ミルク感が強いバニラアイスを作り、そのアイスを邪魔せず、甘さを引き立たせ
なおかつベリーソースも主役になるよう、厳選した様々な種類のベリーを使用したソースに仕上げました」
アイスはバーゲンダッシュという高級アイスのバニラ味とミルク味を混ぜたもの。
ベリーソースはいちごジャムとブルーベリージャムを混ぜたものに
カシスオレンジやカシスソーダといったカクテルに使われるカシスリキュールというお酒を少し混ぜたもの。
「いただきます」
「どうぞ」
アイス用のスプーンでバニラアイスとベリーソースを取って口へ運ぶ。
アルコールの微かな苦みとジャムで甘くはあるがいちごとブルーベリーの微かな酸味
そしてミルク感の強いバニラアイスのミルクとバニラの香り、そしてジャムとアイスの甘み
すべてが口の中でそれぞれ個性を際立たせつつも、合わさったときにはいいチームプレーをしていた。
「んん!美味しい!さすがはこーくん」
いいえ。企業努力です。それと多少のアイデアです。
大満足でアイスも食べ終えた司。幸と一緒にソファーでテレビを見る。
「このドラマ…全然おもしろくないな…。アイドル上がりの女優も演技くそだしな」
「あんまそーゆーこと言うの良くないよ?こーくん?」
正論で注意される幸。
「いや、SNSで言うのは良くないんだよ。特に本人の名前を出すのは誹謗中傷の一環になるから。
でもテレビの前で言うのはむしろいいんだよ。司、視聴率ってわかるでしょ?」
「うん。この番組がどれくらい見られているかっていう指標だよね?」
「そ。実はテレビってスピーカーの他にマイクが内蔵されてて
その番組を見ている人の声ってのがテレビ局に届くようになってるんだよ」
「へぇ〜!知らなかった!」
知らなくて当然です。
「テレビ局の人が直接聞いてて、例えばこのドラマの監督も聞けるのよ。
家庭で生で見ている視聴者の声を。それを聞いて今後の方針を決めんの。
だからこうやってテレビの前でなにか言うのってのは、SNSの誹謗中傷と違って良いことなんだよ」
「へぇ〜。僕も今度から言っていこ」
なんてやり取りを終え、お風呂ができた合図がして司がお風呂に入る。
司がお風呂からでてきたら幸が司の髪をドライヤーで乾かす。
そして幸は司のためにお風呂上がりの飲み物を用意していた。
「ミルクティーでございます。英国王室御用達の高級茶葉を使用し
時間をかけてじっくり淹れた紅茶に、北海道産のミルクを入れてございます」
心の紅茶、ロイヤルミルクティーです。
「ありがと」
湯気の立つマグカップに息を吹きかけてから飲む。
「んん〜…。落ち着く…。なんだろう。高級なのにどこか実家のように落ち着く味」
鋭い司。紅茶を飲み終えるまでリビングで寛ぎ、夜11時、23時に近づくと司は洗面所へ行き、歯を磨き
「じゃ、部屋に行くね。おやすみこーくん」
と告げて部屋へ行く。
「おやすみなさいませ」
頭を下げる幸。ここからは幸の時間。
服を脱ぎ、下着のパンツ一丁になり、司の夜ご飯を作った残りでご飯を作る。
本日はタラを煮込んだクラムチャウダーにお米を入れて
クリームシチューのおじやみたいなものを作り食べる。
大人気お笑い芸人、百舌鳥さんの番組を録画していたり
Ameba(アメーバ)で配信されている番組を見ながら大笑いする。
食べ終え、司が使った食器と共に食洗機に突っ込む。食後はすぐにベランダに出てタバコを吸う。
星も見えない東京の夜空に黄色とオレンジの大きな火種が、吸うたびにその輝きを増す。
雲1つなかった夜空に口から出した煙で雲を作り出す。なんてことを一切考えずただただ無心でタバコを吸う。
タバコを吸い終え、そのまま洗面所へ行き、パンツだけ脱いで洗濯機に放り、お風呂に入る。
幸は髪をブリーチ、脱色している。結構ブリーチしているし
結構な頻度でもブリーチをしているため、髪は傷みまくっている。
さらに髪が長いため、洗うのも結構めんどくさい。
しかし司の執事、平日の毎朝の送り迎えなど人に見られるため
人に見られても恥ずかしくないように毎日ケアは欠かせない。
体、髪を洗い、コンディショナーも終え、お風呂を出る。
タオルで軽く拭いて、リビングに置いたままのドライヤーで髪を乾かす。
ワイヤレスイヤホンを耳に突っ込んでテレビを見ながら。
スキンケアはしないがヘアケアはする。なぜなら傷みまくっているから。
保湿をし、痛み、広がりを抑える洗い流さないトリートメントを塗る。
そしてこれが楽しみの1つでもある。冷蔵庫でキンキンに冷やしていたビールを1本取り出す。
プルタブを開け、缶のまま飲む。
「…っ…うんまっ」
本当は2缶、3缶、なんならビール以外も飲みたいが
執事という職業柄、あまり酔えないので1本に留めている。なのでその1本を貴重に、大切に
「っはー!ざいごぉー(315)」
いや、まあまあ雑に飲み干した。そして夜の12時、24時
はたまた0時とも呼ばれる時間くらいに1回部屋に帰って寝る。
そして夜中3時に起きる。それは司のお弁当を作るため。
家で食べるご飯はスーパーで買えるものなどを工夫して高級料理のように出しているが、お弁当は反対。
高級食材をふんだんに使い、時間もかけてめちゃくちゃ美味しいものを作るが
冷凍食品のように見せて入れている。時間も手間もかかるため3時に起きるのである。
そして朝まで手間をかけて料理を作り、朝ご飯は手間をかけずに作り
司をバイクで学校へ送り、帰って洗濯機を起動させ、その間に部屋でしっかり寝る。
昼に起きてカップ麺やインスタント麺を食べたり、帆歌や誰かと外に食べに行ったりして
洗濯物を畳んで各所にしまい、軽く筋トレなんかをして司を迎えに行く。
これが司と幸の日曜日から月曜日にかけての1日なのである。
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